第13話

「お前が後藤か?俺は急いでるんだがそこをどいて貰っていいか?」

 廃倉庫の方からは洋次の声と思われる叫び声が小さいながらも聞こえてくる。それだけで今、どんな状態なのかは見なくても分かる。

 「それは駄目です。今、志々見さんは忙しいので邪魔をしないでください」

 そう言って上着のポケットからサバイバルナイフを取り出す。

 「それ、使ったことあるのか?」

 「人に使うのは初めてです。だから楽しみで仕方がないです」

 困ったことになったこのままこいつを無視して洋次と飯田を助けに行くという手も考えていたがナイフを持っているとなるとこいつを連れて行くのは正しい判断とは思えない。何とかしなければ。焦りだけが力也の脳内を支配していた。






 「まずいな。行ってくる」

 速水が立ち上がりこうなったら元も子もない。山口も来い、1人でも必要だ。すまない

俺の無計画があだになった。3人は警察に連絡して・・・あれっ?大神さんは・・・?」

 全員が扉の方を見る。特に何も変わっていない。窓を見る。全開になった窓を見て山口が一言。

 「嘘だろ・・・?」

 「ここ2階よね・・・?窓が開いてたから扉が風で閉まっただけでしょ。いいから私も行くわ。あの馬鹿が埋められる前に。冷ちゃんも心配だし」

 「私もみんなが心配だし」

 ばたばたと全員が立ち上がる。

 「とにかく大神さんが先走らないよう追いかけるから3人は万全の準備をして来てくれ」

 速水が飛び出していく。





 「避けるな!切れ味を試させろ!」

 「自分の指でも切ってろ!」

 公園の木を利用しながら後藤の振り回すナイフを避け続ける。大振りで振り回すだけなので何とか避けることができるものの廃倉庫からは遠ざかっていく。

 (困ったぞ・・・早くしないと・・・)

 その時だった。

 「力也!伏せろ!」

 反射的にしゃがみ込む。声に遅れて後藤も反応する。

 しかし自分への指示で無かったことそしてそこにいた人物を見て動きが少し鈍ってしまう。白い塊が後藤の体に直撃する。思わず前かがみで倒れかける。その一瞬の隙に力也がナイフを蹴り飛ばす。そして2人がかりで羽交い絞めにする。

 「速水、ナイスコントロール!」

 「洋次の部屋にあったボールなんだけど持ってきて正解だったな」

 速水が次に言った言葉に力也は驚く。

 「そうは思わないように考えてたがお前だったか後藤」

 「知ってるのか?」

 「あぁ言ったろ?後輩から志々見の件で相談を受けてたって。それがこいつだよ。まぁ俺はこいつの親が再婚してることを知らなかったから会ってる時はいつも旧姓をこいつも名乗ってたけどな」

 「気がついていた?そ負け惜しみでしょ。財前の馬鹿を引き込もうとしていたようですけど無駄でしたね。全部筒抜けですよ。あなたのお友達は志々見さんが連れ出してますよ今頃、財前と一緒に」

 「そうだ!速水!早く助けに行かないとあいつらが!」

 「焦るな。まずはそいつを縛ってからだ」

 「そんな呑気なこと言ってる場合か!」

 「その人の言う通りですよ。2対2とはいえ志々見さんと財前に勝てるわけ無いでしょ。速水さん友達思いの振りして実は最低な人間なんじゃないですか?」

 「2対2?3対1だろ?まぁ飯田と洋次は数えないとしても1対1だ」

 何を言っているんだ?2人が疑問の顔をするも後藤の顔色が変わる。すぐ後に力也も理解する。






 「どういうつもりだ!・・・・財前!」

 志々見が声を張り上げて叫ぶ。

 正直、洋次も飯田もそして志々見も状況を飲み込めていなかった。さっきまで洋次たちの作戦は失敗し財前に土壇場で裏切られたと思っていた。

 が、洋次たちの目には志々見に殴りかかる財前の姿とそれに戸惑う志々見が映っていた。

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