第9話


 「いると思うか?」

 ゲーセンまでの道を歩きながら力也が話しかけてくる。

 「どうだろうな。まぁこの町の人間じゃないらしいし行くところゲーセンしかないんだろ。そう考えたらいても不思議じゃないよ」

 この町にあるゲームセンターは駅を出てすぐの商業ビルの一階にある。基本的に大した町ではないので何をするにも駅前という面白味もない町に仕上がっている。一応、住宅地の中にもいくつかお店はあるものの基本的にはそれは昔からの家が並ぶ駅を挟んで洋次の言えとは反対側の飯田や山口の家がある方に昔ながらの酒屋や飲み屋がある程度だ。

 「それにしてもいいよなお前は」

 いきなり羨ましがられたことに洋次が不思議に思っていると

 「何だよその顔は。俺だって今年こそは彼女と夏祭りデートをって考えてたのにさ。結局、いつも通りだ。お前も俺と一緒だろうなって思ってたらちゃっかりあんなかわいい子がいてさ。何で教えてくれないんだよ。友達だと思ってたのによ」

 そうは言っても洋次自身、道を歩いていたら車が上から落ちてきたような状況なのだ。だが力也の言うことも分からなくもない。

 「まぁお前ならすぐできるさ。小林とかどうだ?」

 すると力也はため息を1つ着いた後、目を細めながら

 「これのどこがいいんだか?あいつも物好きだな」

 あいつと呼ぶとはずいぶん仲良くなったんだな。

 そんな話をしているうちに空が真っ暗になり進行方向が明るくなってくる。

 「見えて来たぞ。あそこだ」

 夏休みということもあり洋次たちとだ王世代が多く行き交う中、夜になり周りの明かりが騒がしくなる中ひと際明るさと騒がしさを放っている。2人は表のクレーンゲームの横を通り過ぎ奥の対戦ゲーム台の方へ足を動かす。山口の情報が正しければ財前は奥のゲーム台で遊んでいるか喫煙室で煙草を吹かしているかのどちらからしい。

 「おい、あれじゃないか?」

 洋次自身は直接顔を合わせて会ったことはないため力也に確認する。すると力也が間違いないと頷いたため偵察のつもりだったが予定通りに進めることにした。

 ひとまず洋次は声を掛ける前に速水に財前がいたことと予定を早めて声を掛けることをメールで伝える。すぐさま速水から気を付けるようにとの返信が返ってきたため進めていいと判断しそれを力也にも伝える。それを聞いた力也はドカリと財前の横の席に音を立てながら座り話しかける。

 「よう、久しぶりだな。財前」

 声をいきなり掛けられ驚いた顔を一瞬見せたもののすぐに力也を睨みつける。

 「何だお前。俺はお前なんか知らねえな」

 「知らないとは若いのにもう痴呆が始まってるとはかわいそうに」

 「何だとてめぇ!ぶっ飛ばすぞ」

 財前の声に店中の視線が集まる。ここで店員が警察なんかでも呼べば面倒だ。

 「そう大声出すな。みんな見てるだろ。いいのか?注目集めると志々見に叱られるぞ」

 それを聞いて少し声のトーンを下げながら

 「関係ねえよ。それより何だ?喧嘩か?」

 「それもいいんだけどよ。こいつの頭のケガの借りもあるしな」

 そう言われ一瞬、洋次の方を見るもすぐに力也の方を見なおして

 「知らねえな。証拠でもあるのか?」

 「まぁ今日はその話じゃねぇんだ。そっちはサツにでも任せておくさ。今日、お前に会いに来たのは山口のことさ。あいつ連絡が着かなくなったんだけど何か知らねえか?」

 「誰だそいつ知らねえな」

 あくまで会ったことも無いという態度をしてくる。

 「いいのか?そんな態度で。お前ら2人がやったことは知ってるんだぜ」

 そう言うと財前の顔つきが変わったのを2人は確認する。

 「山口の野郎。ぶっ殺してやる」

 「おいおい勘違いするなよ。山口から聞いたなら俺たちがあいつを探す為にわざわざお前に聞いたりする訳ないだろ。今のお前みたいな態度になるのはわかってるんだから」

 「お前らとつるんでるのは知ってるんだよ。どこに行った?さっさと教えないとこの頭、お前にやられたって垂れ込むぞ」

 「知る訳ないだろ。大方、後藤の家で志々見の奴にこき使われてるんだろ」

 「後藤?だそいつ」

 山口から財前たちが入り浸っている場所については聞いていたが洋次はわざと何も知らないふりをする。

 「志々見の子分だよ。そいつの家、誰もいないから間借りさせてもらってるのさ」

 「そうかい。じゃあそっちに行ってみるから場所、教えてくれ」

 「それぐらい自分で調べな」

 精一杯の強がりを言ってくるが内心、力也にビビっているのだろう。その上、洋次が自分のことを覚えていたと知り気が気で無いようだ。見た目はいかついがどうやら志々見と違いかなり臆病と見える。そのくせ志々見から宝石を奪おうとしたりと年上の変なプライドだけは高いのだろう。少しそのプライドをくすぐって暴れて貰おう。あわよくば志々見と共倒れでもすれば上出来だ。そう思った洋次は財前に話しかける。

 「ところであんた、この町の出身じゃないんだろ?何で志々見の子分Aなんてやってるんだ?」

 すると案の定の答えが返ってくる。

 「誰が子分だ!志々見と俺は対等だ。今度は目が覚めないようにしてやろうか!」

 「そうは言っても志々見がこっちの元子分たちに『財前は馬鹿で使いずらい。子分にすることも恥ずかしい。せいぜい何かあった時の身代わり用の盾だ』って話をしてたって聞いたぜ」

 「つまらない冗談言ってんじゃねぇ!」

 「冗談かどうかはあんたが一番よく知ってるだろ。じゃあなまた来るよ」

 後ろで何か騒いでいたがそれを無視して店をでる。店から距離を置き周りに誰もいないのを確認し一息つく。

 「しかしなかなかの煽りだったな」

 「あれぐらい言っておけばあいつらが協力することは無いだろ。それに仲が悪いのは間違いない。出なければ俺はまた病院行きだったさ」

 「飯田の方はどうなってか気になるな。後藤だっけ?そいつの家、行ってみるか?」

 「その前に速水に電話するよ。行くにしても向こうがどうなってるか確認してからの方がいいだろうし」

 ポケットから携帯を取り出し速水の番号に掛ける。

 2回ほどコール音が鳴った後、速水の声が聞こえる。

 「どうした?」

 「今、会ってきたよ。飯田の方はどうだ?後藤とかいう奴の家、見張ってるんだろ?」

 「志々見はコンビニに飯を買いに出たぐらいだな。ただ山口の話と今、飯田からくる情報を合わせると志々見の奴どうやらその後藤って奴に残りの宝石の管理させてるみたいだな」

 「志々見がか?よっぽどその後藤って奴のこと信頼してるんだな」

 「信頼っていうより完全に後藤って奴は志々見の信者だよ。しかもそいつ、山口の話じゃ家から出るときは財前のことがあってから最近じゃ常に志々見と一緒に行動しているらしい」

 「となると奪ったってはったりはまず無理だな。財前にそこは頑張ってもらうか」

 「そう言えばそっちはどうだったんだよ」

 「ちゃんと煽っておいたよ。今からその後藤の家に行こうかって話してたんだけど」

 「いや、飯田にも今日は戻るようにさっき伝えたからお前らも戻って来てくれ」

 「了解。冷の奴、大人しくしてるか?」

 「女子3人でお前の悪口大会するぐらいには仲良くやってるよ」

 「あいつら・・・じゃあ後で」

 そう言って電話を切り今、の内容を力也に伝える。その後、山口の今日の夕飯をコンビニで買って家へと帰ることにした。




 帰宅すると全員が集まっており部屋の真ん中には飯田が帰りに買ってきた山口の弁当と飲み物が置かれていた。

 「悪かったよ。言い忘れてた」

 「いや、ありがとう。明日の朝、食べるよ」

 普段なら親に友達が泊まるから飯、お願いと言えるが流石に今は行方不明設定を始めたところだ。夏祭りは土曜日、今日は水曜日それまではいなくなっていてもらわないと。

 「取りあえず火種は作っておいたから後はいつ火をつけるかだ。速水の方は志々見と連絡つきそうか?」

 「まぁなんとかな。明日、電話で話をつけて呼び出すよ。なにぶん突貫工事だからな。トラブルは起きるだろうが何とかするさ」

 速水の頼もしい言葉にみんな安心する。

 「時間も遅いし今日は全員、泊まって行けよ。他の奴がいれば親にも山口がここにいるかどうかも曖昧になるだろうし。流石に山口はトイレ以外はここから動けないけど」

 「太っ腹だな。でも親とか何も言わないのか?」

 「飯田の言う通りよ。私なら家も近いし幸子も私のところに泊まればいいわ。冷ちゃんもこんな汚いところ嫌になった来るといいわよ」

 「そんなこと言わずにみんなで泊まって下さい」

 「別に騒がしくしなければ親も何も言わないよ。そもそも知った顔ばかりだからな。ただし飯は自分で調達だけどな」

 「許可が出たことだし近くのコンビニに買い物行くか。山口と俺は残ってるからお前らで行って来いよ。俺のは洋次と一緒でいいよ。金は後で払うから」

 速水に言われ全員がぞろぞろと外に出ようとしたとき丁度、姉が帰ってくる。

 「あらいらっしゃい。帰るの?」

 「お邪魔してます。今日はみんなで泊まろうって話になっててお邪魔なら帰ります」

 「いいわよ真奈美ちゃんが泊まりに来るなんて久しぶりね。後でそっちの子と冷ちゃんも私の部屋で女子会でもしましょうよ」

 「ってことで飯、買ってくるよ。部屋に速水が残ってるけど気にしなくていいから」

 「速水君も来てるんだ。あんた丁度いいから勉強教えてもらったら?」

 全くどうしてこうも洋次の周りの女は口が悪い奴ばかり集まるんだ。そんな悪態を飲み込み。手で追いやる仕草をしながら家をでる。

 「お前んちの姉ちゃん綺麗だな?」

 「飯田!何かよからぬこと考えてるんだったら外に吊るすわよ」

 「ただ褒めただけだよ。やめてくれ小林なら本当にやりそうだから笑えないんだよ」

 「確かに洋次さんのお姉さん綺麗ですよね」

 「私も初めて会ったけど羨ましいよ」

 「そっか幸子は初めてか」

 「おしゃべりもいいけどさっさと買って帰るぞ。速水はお前と一緒でいいって言ってたけどお前何にするんだ?」

 「暑いから麺類にするよ」

 そんな会話をしながら買い物を済ませ戻ってくると両親も既に帰宅しておりリビングからはテレビの音が聞こえてくる。

 「----2人組の犯人はまだ見つかっておらず。捜索中とのことですが関係者の調べではーーーー」

 「あらっ皆さんお揃いで。あんた速水君だけほっといて言ってくれれば夕飯作ったのにお母さん恥ずかしいじゃないなんのもてなしもできなくて」

 「お世話になります。急に泊まることになったんです。ごめんなさい」

 「いいのよ。真奈美ちゃんが来てくれてお父さんも喜んでるのよ。田中君、お母さん元気?」

 「はい、元気にしてます」

 一瞬、ここにいた全員が田中って誰だっけという顔をしたがそう言えば力也の苗字、田中だったなと個々に納得する。

 「明日の朝ごはんだけ用意するわね。お風呂、お父さんはもう入っちゃったから交代で入ってくれたらいいから」

 そう言って部屋に消える。中から父親が姉と話をしている声が聞こえる。

 「お前のところの親、優しいな。俺んちだったらいきなりこんな人数が突然押しかけたら後で何を言われるか」

 「飯田のところが普通だよ。うちが変わってるだけだ」

 階段を上がりドアを開けるとポツリと1人、速水が座っている。どうやら山口は洋次たち以外に見られることがないよう隠れているらしい。全員が中に入りドアを閉めたのを確認し山口を呼び出す。

 「もう出て来ていいぞ」

 それを聞いて安心したのかベッドの下からのそのそと這い出して来る。

 「そんなところに隠れてたのか」

 袋から買ってきた弁当を取り出しながら聞いてみる。

 「うちの親、何か言ってた?」

 「いや、お前の成績が最近下がったことと冷ちゃんにお前が捨てられないかの心配相談されただけだ」

 「そうか・・・」

 「そんなことより飯だ飯」

 自分の弁当をそれぞれ取り出し食べ始めるとみんな腹が減っていたのか無言の時間がしばらく続いた。

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