あいす

無色不透明

序章

 僕は小さい頃から臆病で、それは今も変わらずなのだけれども、特に幽霊だの妖怪だの目に見えない、もしかするとそこには存在して自分だけが笑われる役目を演じているるのかもしれない。そんな存在が怖くてしょうがなかった。

いや、今でもそうだ。あれに出会った今も。

 子供の頃、夏になると地域の大人達が子供たちのために色々なイベントを開いてくれた。

 海へ連れて行ってもらったり、夏祭り、神輿、花火。

当然その中には漏れることもなく肝試しも入っており何度それを考えた人間を呪ったことか、実際その呪いが効いてもおかしくないのではと思うほどに呪った。

あれは海への二泊三日の旅行での出来事だった。

同級生の女の子に手を引かれるというちょっと情けない格好でお寺の境内を目指している時だった。勢いのよい、この季節には珍しい風が吹いたかと思うと僕は一人、道に取り残されていた。

何度も呼んだ。女の子の名前を。引率の大人の名前を。友達の名前を。

叫び疲れた頃、突然、声をかけられた。

振り返るとそこには着物姿の長い髪の女が立っていた。

「どうしたの?迷子?」

訪ねられた僕はコクリと頷き。

「お化けが出た」と呟いた。

その女が言った。

「お化けなんてこの世にはいないよ。決して。」

そっと僕の手を握り彼女が言った。

「大丈夫、私が付いててあげるから」と。

その手はとても暖かく、夏だというのに冷えた僕の手を優しく温めた。

その後、いくらか歩いていると灯りのある所に出た。そこにはさっきまで大声で僕が呼んでいた人たちがいてすぐに駆け寄ってきた。

 僕は助けてくれた彼女を紹介しようと振り返ったが、そこには誰もおらず、彼女の手の暖かさだけが残っていた。

 結局、僕が体験した不思議な話はそれだけでその後僕の人生で幽霊や妖怪なんてものは出会うはずもなくそれはただの野良猫だったり光の加減等でしかなかった。

あの人は人だ。暖かい手をした。

だから氷のように冷たい女はいない。

だからお化けなんていない。

ましてや妖怪なんて、いるわけがない。

決して。

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