いつものダンジョン、初めてのダンジョン(2)

翌朝、天候は良好。まぁ、ダンジョン内ではあるが、何故か朝と夜以外に天候が変わる時がある。原理は知らないが、魔物なり原生植物が関与しているのは明らかだろう。

「おはようございまふ」

「あぁ。とりあえず、朝食というか飯は自分で用意しろ。一応はサポーター志望だろ?サポーターのサポーターをするのは依頼外だから身の回りの世話は自分で出来るようにしておけ」

「ふぁい」

……朝が弱いタイプなのだろうか?俺も人の事は言えないが、流石にここまで酷くは無い……多分。

「食べ終わったら準備をして外に出ろ。そしたら、ダンジョン内での冒険者の在り方を教えてやる」

「分かりまふぃた」

……本当に分かったのだろうか?とりあえず俺は準備完了しているため、拠点の小屋から出て連れていく奴の準備を始める。連れていくのは移動用兼戦闘補佐に二頭、索敵警戒兼邪魔物排除用に二頭。とりあえず、この編成で行く。

まぁ、この編成なら中層は安心して狩りが出来る。下層に行くならもう少し戦力が居るが、ノエルにダンジョンで生きるコツを教えるだけだから問題無い。それに逃げるにしても足の速いヤツを選んだからな。

「すみません、お待たせしました」

「準備出来たか、じゃ、乗りたい方を選べ」

「……え?」

ようやく準備を終えて出てきたノエルに対し、俺は背後の二匹を指して、どちらに乗るか選ばせる。まぁ、性格やら走り方での乗り心地は些細な差だ。ただ、ノエルが明らかに嫌そうな顔をしているが、はっきり言って、コイツ等に人の足……いや、普通の早馬さえ追い抜く速さだ。獣人とはいえ速さ、持久力タイプの種族出身でないのは耳や尻尾、毛色、目を見ればだいたいは分かる。つまり……ノエルに乗らないという選択肢は最初から無い。

「えぇと……じゃあ、こっちの青い子で」

「んじゃ、俺が赤い方か。まぁ、安心しろ。今回の編成で足の二匹は草食の地龍の幼体。騎馬みたいなやつだ。周囲の警戒、雑魚の対処には狼系の二匹を連れていく。こちらは肉食だが問題無い。こっちの指示をちゃんと聞く良いやつ等だ」

「は、はぁ。でも私……乗り方なんて知らないし、操り方も知らないですよ?」

「何、簡単だ。簡易的な鞍を着けてはいるが、上に乗ってしっかりしがみついてるだけで良い。走ってる間は口を開くな。舌を噛みきるぞ」

「……わ、分かりました」

一通り、紹介と説明をしたので、ノエルを青い地龍に乗せてやり、自分は赤い地龍に乗る。

ノエルが不安そうにこっちを見ているが、気にしない。走り出したら最後、止まるまでそんな余裕は無くなる筈だ。

「んじゃ、出発するか」

普段は合図なんて楽に済ませるが、今回ばかりは別だ。獣笛を吹いて、それを出発の合図にして魔物達を走らせる。まぁ、別の連れていかない連中も反応するだろうが、指示が無いので動かない。ここで飼育してる連中はそこまでバカではないし、魔物だろうが獣とそんな変わらない。知能が高いヤツは高いし、低いヤツは低い。それに、勘違いして動くヤツ等には予め聴覚や視覚を遮断する措置を取った。耳が上手く働かず、目も塞がれた状態で突撃する程のバカはうちには居ない。

しばらくは索敵を任せて進み、前回とは別の狩場へと向かう。毎回同じ場所でもある程度は狩れるだろうが、相手も一応知能はある。毎回同じ場所に罠を張っても、見られたら学習されたり、破壊するヤツまで居る。だからこそ、狩場を無くして徘徊するか、俺みたいに狩場を幾つか見つけて、そこを順番に回るという手段がある。

そして、今回の狩場に何事もなく、無事に到着した訳だが……この状況、どうしたものか。

現在、俺達は俺が作った狩場の休憩所に到着し、魔物の手下は周囲の警戒だけで近くに居てもらっている。で、ノエルと俺は木の上に作った休憩所でこれからの作戦やら作業やらを教えるというか話し合おうとしてたが、近場で戦闘音が発生しだし、俺が単眼鏡で確認している状況だ。

「面倒な事にはなったが……まぁ、良いか」

「どういう状況ですか?」

「魔物同士の縄張り争いや魔物が狩りをしているわけではなく、魔物と冒険者の戦闘で冒険者側がやや不利って所だな」

「っ!?助けに行かないと!」

「まぁ、待て。助けた所でややこしくなるし、ダンジョンは基本的に自己責任だ。冒険者同士の戦闘や犯罪はダンジョンでは良くある事だ」

「え?」

「ダンジョンに法も秩序もないって事だ。死人に言霊無しって言うだろ?貴族以上じゃなければ基本的にダンジョン内の捜索願いはほとんど無い。それに、ダンジョンから被害者が出てきてギルドに訴えれば、加害者パーティーの調査はするが稀な事だ。大抵は殺してるし、逃がさない。それに、死体は動物か魔物が食うから遺留品が残れば良い方だが、基本的に冒険者の懐行きだ」

「そんな……」

「ん?丁度良いな。予備を貸すから、今から指した方を良く見ろ」

「え?はい……」

「魔物に追われた動物が出てきて、戦闘中の所を横切って行って魔物を冒険者に当てこすりしただろ?誰も自分の命が大事だからな、冒険者でも対処出来ず逃げる時に良くやる手法だ」

「でも、それだと……」

「あぁ、今見てる連中みたいに大変な状況になる。だから、対処としては此方に来てる途中でそいつを殺すか、足を狙う。そうすれば、多少は此方は時間が作れて逃げる事も可能だ」

「じゃあ、尚更助けに行かないとっ!」

「だから落ち着け。助けた所で治療は出来るのか?」

「え?それは回復薬が……」

「手持ちの回復薬で致命傷は治療出来ないからな?」

「う……」

「更に、助けた所で仮に治療出来たとして、 あいつ等を警戒しないで護衛するのは無理だ。信頼させて背後からってのは良くある手段だ。それに、俺が知らない顔の奴は、大抵外から来た奴か新人のどっちかだ。あのパーティーで俺が知ってる顔は3人だけ。しかも狩場はここより2つは上だったはずだ」

「え?じゃあ、何でこの階層に?」

「んなの俺が知るか。苦戦はしてたが最初のままなら上手くいった可能性があるから……腕試しで来たか……階段を降りて来たかだな」

「実力を知ってるから助けなくて大丈夫だと?」

「いや?ただダンジョン内だとあまり良い評判は聞かないな。だから、他のパーティーメンバーの特徴と癖の観察と助けた場合と死んだ後の装備と倉庫の中身を値踏みしてただけだ」

「え?死んだ場合?倉庫?」

「ノエルはまだ無いかもしれないが、基本的に冒険者はギルドの貸倉庫に金品を保管する奴が多い。理由はギルドが監視して丁寧に保管しているからだが、実体は冒険者が一年未帰還で誰からも音信不通の場合、倉庫の中身は全てギルドが摂取する。毎月、または毎年の貸し出し料も取ってるけどな。ギルドとしては1番高い臨時収入源だ。で、冒険者が他人の倉庫の鍵を持っていても、訴えられなければそいつの懐に入る。入るんだが、ギルドと山分けだ。まぁ、死亡確定だから遺族がいたら遺族に教えないといけないし、山分けの理由は発見報酬だな。内訳としては発見者3、ギルド1、遺族6だったかな?遺族が居ない場合は発見者とギルドで5:5だな」

「そんな……」

「で、あいつ等を助けるなら今だな」

「っ!?はい!早く助けないと!」

そう。丁度乱戦に近い状態で知ってる顔で前衛の下衆3人が疲弊し、連携も上手く取れず、いつやられてもおかしくない状況。まぁ、これも冒険者だ。ノエルには初日に冒険者の闇を教える事になったが問題ないだろう。

とりあえず、全速力で助けに向かうノエルに追い付くのは無理なので、俺は収納から愛用の魔銃を取り出し、魔物数匹と下衆三人に標準を合わせて撃つ。

「害虫駆除完了」

「今助けっ!?……え?」

まぁ、間近で見たことがないだろうし、背後から炎が通りすぎて目の前で魔物数匹と下衆三人が燃えカスになれば、驚くのも当然か。

「気を抜くな!まだ魔物は残ってる」

「っ!?は。はいっ!」

風魔法の応用で声がノエルに聞こえるよう、音を飛ばし、残った知らない連中の護衛をノエルに任せて、俺は魔銃を収納し、素早く休憩所から出てノエルの後を追いながら別の魔銃を収納から取り出す。

はっきり言ってかなり手痛い出費だが、これでダンジョンでの狩りを教える事にする。全く、魔石に魔力を込める作業は地味に時間を奪うというのに。

「私が前衛になるので、立て直して支援をお願いしますっ!」

「あ、ありがと……」

「そりゃ、無理だ。杖も銃も無しに魔法を使ってたんだ。そろそろ魔力が切れてもおかしくはない。それに基本的なサポーターはお前みたいに前衛は出来ない」

ノエルが何とか残った三人と魔物の間に立ってもっともらしい事を言いながら魔物に向かい、魔法を使っていた女が礼を言うが、はっきり言って場違いだ。

まぁ、魔法を使えず、学んだ事がないから仕方ないが、補助無しで魔法を使うのははっきり言ってかなりキツい。個人の魔力量にもよるし、何より魔力回復薬は底を着いてるだろう。サポーターが準備してないのがで何よりの証拠だ。

「はあぁぁぁあっ!……はぁ、はぁ」

「お疲れさん、今のが最後だ。とりあえず全員、一度ここから離れるぞ。次が来るかもしれないからな。こっちだ」

「は、はい。とりあえず着いて行ってみましょう」

「そんなに警戒しなくてめも大丈夫です!多分……」

俺はノエルを労いつつ、さりげなく回復薬を渡し、休憩所に案内するために先行して歩き出す。一応、あいつ等に周りを警戒させてるが、いかんせん、いつもより血の匂いが周りに出てるからな。急いだ方が良いだろうが、足が遅いサポーターが居るので走らない方が良いだろう、割りと近いしな。

まぁ、ノエルが呼吸を整え、回復薬を飲んだ後に明るく接したお陰で渋々というよりは安堵してる状態で着いて来てるのは良い状況だ。

少しして全員休憩所に入り、腰を下ろして落ち着いた。まぁ、多少狭いが仕方ない。元々は1人用だしな。サポーターには悪いが荷物は一旦、少し下の置けるスペースに置いてもらった。

で、全員落ち着いた所で問題だ。

「先程はありがとうございました」

「いや、それよりも重要な問題がある。いつからギルド職員はサポーター紛いの事をしている?」

「「っ!?!?」」

「え?な、なんの事ですか?わ、私は知りませんよ?」

「俺はあんたを指して言った訳じゃないが、こうも簡単に釣られるようじゃ、まだまだだな」

「うぅ……酷いです」

女魔法使いが礼を言うが、んな事はどうでも良い。問題は、サポーターの1人だが、案の定、直ぐにボロを出してくれて助かる。

「まぁ、大方俺が消した3人の調査だろ。あいつ等は詰めが甘いし、ダンジョン外の素行も少し悪かったからな」

「……その通りです」

「で、アンタがあいつ等のサポーターとして、魔法使いともう1人のサポーターは別パーティーだろ?あの3人の装備が前に見たのと多少違うし、何よりあいつ等は元々5人パーティーだったはずだ。となると……あいつ等と魔法使いのパーティーがやりあった結果が、あの時のパーティー構成になるな。やりあったのはここより1つか2つ上の階層だろう。この階層から下で問題行動の無いパーティーで魔法使い達を見たことが無いしな」

「「…………」」

「凄いです!流石はガリル様です!伊達にギルドのなんでも屋兼掃除屋は伊達ではないですね!!」

「待て、ちょっと待て!誰だ、そんな2つ名付けた奴!!というかギルド職員内での俺の位置はそこなのかっ!?」

推測通りだったのは良かったが、このギルド嬢……何て事を言いやがる。確かに、ギルド長に脅迫されて渋々依頼をこなしたり、敏腕受付嬢に上手いこと言いくるめられて依頼をこなしたりしたが、よりにもよってその2つ名は無いだろっ!?しかも、この2人以外からの面倒な依頼は上手く回避してるんだぞっ!間違ってもギルド職員であれば、誰の依頼でも受けるという訳じゃない。逃げれないだけだ。

「でも、ガリルさん、最初は助けるの渋ってましたよね?」

「当たり前だ。ギルド職員が居る時点で部隊が居るとも思ったからな。いつものギルド特殊部隊やら雇いの冒険者はどうした?(まぁ、実際はギルド職員を見つけたから助ける事にしただけだが……嫌な予感がしたしな)」

「それが……部隊は3つ上の階で、下に降りたなら、ガリル様が近くに居るだろうから、上手く誘導するようにギルド長に言われました。なんでもガリル様の狩場なら安全だからって」

「よし分かった。後でギルド長には直談判する」

ノエルが言わなくてもいいことを言ったため、当然、ギルド職員が居る場合の裏の事情を話すしかなくなったので話した。さもないと、後でギルド長に俺が消される場合が有るからな。

だが、新情報で変わりにギルド長への怒りが湧いた。いち冒険者で記録上はソロの俺を頼らないでほしい。そりゃ、この階層ならば俺の手下のあいつ等が居るから部隊と鉢合わせした場合、十中八九大規模な戦闘か一方的な蹂躙になるかもしれないが、俺はソロで居たいんだ。無理矢理にでもパーティーを組ませようと暗躍しないでほしい。


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