星に輝きを

影熊猫

第1話 異世界転生

  仕事が終わり、自宅に帰る。


 シャワーを浴びて僅かな睡眠をとれば、また今日がはじまる。

 

 その日も寝床へ横になると泥のように眠りについた.......




 ◆◆◆



  アンティーク調の部屋の中で、今まさに新しい生命が誕生した.......が、その赤子は泣く事をしなかった。母体も見るからにその力を失い僅かな灯火が消えようとしている。


  赤子をとりあげた助産婦が母体の回復を諦め、せめて最後にと赤子を母親に抱かせていた.......



  (んあっ?んーっ、あれっ?身体がおかしいぞ?視界なんてボヤけてるレベルじゃないな.......)若干の息苦しさを感じながらも徐々に意識を覚醒させていく。(この弾力はいったい..揉み揉み......乳やん!異人さんの乳揉んでるやん!)武尊たけるはぼんやりとしか見えない世界の中で過去に数回体験した事があった柔らかい感触を思い出していた。



  「エミリー?」

  ブロンドの髪の乙女が長年付き添ってきた、従者に声をかけると黒のゴスロリメイド服にピンク色の髪を揺らしながらその女性の所に近づいていく。


  「はい、セリーヌ様。ここにおりますよ」

  148センチの女の子がセリーヌの横に座り、そっと肩に手を添える。


  《エミリー、ごめんね。アレンに力を全部とられちゃったみたい。私はこの小さな世界リトルワールドの守護結界とクル大帝国の【天獄門】の封印結界を維持する為に、私の本体は世界樹から離れる訳にはいかないわ》


  《それは良く存じております》


  《何時になるかは分からないけど、アレンが覚醒したら、この手紙をこの子に渡してちょうだい。アレンの事宜しく頼みましたよ》



  「セリーヌ様、アレン様の事は私にお任せ下さい」



  その言葉に安心したのか、彼女は安らかに息を引き取った。

  (さて、ローガンに報告しないとね)


  周りで見守っていた従者達が騒ぎ出す。

  「ああっ、奥様!.......なんということなの」


  「こんな.......こんなことって.......」

 

  「あなた達静かになさい。私はローガン様に事の顛末を報告してきます」




 ◆◆◆




  アレンが生まれた部屋の前の廊下。


 

  「赤子の鳴き声が聞こえないが何かあったのか?無事に生まれたのか?」


  「はいっ。元気な男の子です.......ただ......取り敢えず中へどうぞ」


  「うん?ただ何だ?。五体満足に生まれたのならそれで良いではないか」

  体格のガッシリとした大男は従者から伝えられた疑問符の残る言葉に気が気では無い。


  「.......奥様の意識が戻りません.......」

  ゴスロリメイド服の少女が部屋の扉を開きながら先程の続きを伝える。


  「.......そうか」

  がっしりとした体格の男は何かをのみ込むように

  短くそう答えた。



  【なるほど、何となく理解できたぞ。誰かが生まれたのであろう。まぁ、多分俺の事なんだろうな、きっと.......】






 ◆◆◆




 

  目が見えるようになると、周りの状況がある程度分かるようになる。

 

  黒のゴスロリメイド服を着たピンクボブの小さな女の子がアレン担当のメイド【エミリー(ピンク)】さん。 

(外見は14才程にしか見えないが、実年齢は28才というのだから、流石、異世界というところ)


  部屋に入ってくるなり。

 懐から、ピンクの棒を元気よくとりだし手に持つエミリー。

 

  「さぁ、アレン様。お部屋の模様替えをしますよー」


  『クレッセンド・リーデ・ラドウル・パッパーレ!』


 エミリーが何やら唱えると、棒の先端からピンク色の小さな光球が三方へ飛び出し部屋の壁に当たる。

  光球があたった中心から、四隅に向かって、徐々に広がっていく淡いピンク色の光。その広がりにあわせて、先程まで茶色の木目調だった壁面が、花柄のライン(20センチ幅)が入った白い壁へと変わった。


  (おぉっ!ファンタジー確定じゃん!来たなコレは。人生バラ色アスパラガスやんか。・・・うむ。

  しかし、今の魔法凄いな、イメージした色を寸分違わずに一瞬で変えるなんて、普通のゴスロリメイドさんにしか見えないけど)

 

  その出来に満足したのか。部屋の真ん中でピンクの棒を天井に掲げドヤ顔でポーズをとりながら、ピンクの瞳でアレンをじっと見つめるエミリー・・・。

 



  因みに、今アレンがいる部屋は天井にはシャンデリア、家具はアンティークで統一され、大きな棚や四本足の丸いテーブル。その上にはステンドグラスの花瓶が置かれており、黄色い胡蝶蘭のような花が活けてある。


  他にも洋服棚や豪華な姿鏡。大きなガラスの外窓から採光を十二分に取り入れた部屋はいつも新鮮な空気で満たされている。いずれの家具も細やかな彫り細工が随所に施されており、鷹の様な鳥や、後頭部に2本、額に大きく1本の角が生えており。和風の龍に似ている彫り物等は、いまにも飛び出してきそうな躍動感さえ感じる。(金持ち決定だね)





 ◆◆◆




  魔法のある世界に喜んでいた、転生7日目の朝。

  140センチ位の女の子が青いふわふわのミニドレスを着て部屋にやって来た。

  パッチリ開いたロイヤルブルーの目でこちらを確認するや、満面の笑顔でタタタッと走りより「アレンー、お姉ちゃんですよー。むぐぅぅぅ・・・」と、アレンのお腹目掛けてダイブする。

  アレンのふっくらとしたお腹に、小さな顔をグリグリと埋めている幼女が義理の姉【クレア】11歳。


  そこに、藍色の瞳をした、上品な佇まいの女性がやって来た。ライトグリーンのロングワンピースドレスと艶やかなサフラン・イエローの長い髪が彼女の魅力を際立たせている。背筋がピント伸びており、所作に優美さが感じられる。

  アレンのお腹に埋まっている、レモン色のモップの本体を優しく抱き上げ、自身の顔を女の子のお腹に埋める。(これはこの世界の朝の挨拶なんだろうな。きっと)


  「いやっ、離してっ」


  「アレンが苦しがっているじゃない。そんなにグリグリしたらダメですよ」


  「いいのっ、アレンも喜んでるし。それにアレン成分を補給するとめちゃ元気になれるんだよっ」


  「あらあら、それじゃあ、私も補給しようかしら。うふふ」


  そう優しく微笑みながら、また、クレアのお腹に顔をグリグリする、第一夫人の【リアーナ】さん。

 

 

「お母様、おはようございます。クレア・アレンもおはよう」

  絵に描いたような好青年が義理の兄【ウィル】16歳。


  「おおっ、今日もいい天気だな。皆、おはよう!」

  ニカッと白い歯をみせながら、大きな声で挨拶をしてくるのが【ローガン・マルティネス】この家の当主である。



  アレンの部屋にマルティネス家の全員が揃うと部屋の扉がノックされる。

 

  『コンコンっ』


  「どうぞ、入ってくれ」


  「失礼致します。【ダスティン】様が参られました」


  「そうか、早速ここまで案内してくれ」


  「はっ、かしこまりました」


  メイドが部屋を退出した後。


  「アレンはどんな特性を持ってるのかしらね。楽しみだわ」

  淑女なリアーナが優しく微笑む。


  「私のアレンはスーパースターよ。だってめちゃ可愛いし、いい匂いがするもん」

  当然!!!と根拠のない自信に溢れるクレア


  「匂いって関係あるのかな?よく分からないけど、僕はアレンと剣の稽古が一緒にしたいなぁ」

  ( 0歳児に何を期待しているんだウィル?)


  「そうだね、何れにせよ。この子は【セリーヌ】の忘れ形見だからね。元気に育ってくれる事が一番だよ」


  (ダディ、任せて下さい。私はスーパースターですよ)

  クレアによいしょされて、上機嫌なアレン。





 ◆◆◆ 


  『コンコンッ』

 

  「おっ来たみたいだな。どうぞ」


  ピンクボブの女の子に案内されて男が入室してくる。

  丸い眼鏡をかけ、茶色の七三分けをがっしりと固めた男は儀礼服の上に使い古された艶のある茶色のローブを羽織っている。左手には黒革の大きな鞄を手にしていた。


「失礼致します。皆様おはようございます。本日は天気にも恵まれ、最高の鑑定日和で御座います。マルティネス辺境伯様におかれ・・・【あー、おはようダスティン。堅苦しい挨拶は抜きだ。早速、アレンの鑑定を頼むよ】」


  「はっ、かしこまりました。では早速、鑑定させて頂きます」


  (ふふっ、最高の鑑定日和かぁ。異世界転生だからなぁ。地球からこの星まで魂が移動する時に時空やら次元に漂う力を吸収しちゃってるからなぁ。どんなチートになるのかな?前世で結構やり切ったからね。徳ポイント高いんじゃないの?やっぱりスーパースターかなぁ.......)等とガチガチのフラグを立ててみた。



  ダスティンさんは鞄の中からスピードガンのような黒い物体をこちらに向け。引き金を引く、すると前方に魔法陣のエフェクトが立体的に映し出された。(おおっ、ファンタジーだね!)暫くすると彼は小首を傾げながら、スピードガンを鞄に戻し、今度は水晶玉を取り出し、何やら呪文を唱えだした。すると先程よりも大きな二重の魔法陣が前方に現れる・・・が水晶に変化はみられない。

 

  「どうだダスティン?」


  「はいっ・・・えー・・・何とお伝えすれば良いのか.......」

  部屋の中は涼しい位なのに、やたらと汗をかき出すダスティン。


  「うわぁ?うわぁう?。わぅあわぁう?」

  (ん?どうしたダスティン?道具がしょぼいんじゃないか?スタート大事だよ。頼むよダスティン.......

  ・・・ていうかお前はちゃんとシレッて!!!誰か?ダスティンの汗拭いてあげて)


  「えーっと、ありません」


  ダスティンの顔色がみるみるうちに青白くなっていく。ダスティンは小さくなりながら言葉を続ける。


  「大変申し上げにくいのですが、アレン様には全く魔力がございません。魔力ゼロの無魔です」



  「・・・そうか.......ふむ。なるほど」


  「うわぁうぉわあーーーー!!!」

(ダスティーーーーン!!!、諦めるな!!!まだ終わってないぞ。途中で投げ出したらそこまでだよダスティン。お前はやれば出来る子だってちゃんと知ってるから、お願いだよダスティン。頼むよダスティン。もう一度トライしてみようか?)


  「そうか、なるほどなぁ.......

  あぁダスティン、今日はわざわざ帝都から来てもらったのに、すまなかったね.......」


  「はっ、お役に立てず申し訳ございません.......」




  ダスティンが退出した後、重苦し空気の中、一人の少女が言葉を発する。


  「よかった、アレンが無魔ならお姉ちゃんが一生面倒みてあげる。よかったねアレン」と言いながら小さな人差し指でアレンの頬をプニプニする笑顔のクレア.......プニプニ.......プニプ.......


  「うわ、うわぁうわぁヴーーー」

(いや、ちょっとやめてクレア。

  プニプニ、プニプニ、プニプニプーーーーー!!!)




  いやぁ、異世界転生って本当に素晴らしいですね。



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