第28話 バレンタインデー前夜


「刻むだけ。溶かすだけ。固めるだけ。世の中に溢れるありとあらゆる『だけ』に私はもの申さなければならないのではなかろうか。ここで一般ぴーぽーは止めておけよと茶々を入れるだろうだがしかしこの勇気ある一歩が後の世に」


「お邪魔しました」


「帰って良い? とか聞く前に荷物を片付け終わって颯爽と去るのは駄目でありんす」


「明日は頑張ってね、応援しているよ」


「せめてこっちを見ながら言おうか、そういう台詞は」


「面倒くさいから早く作ってくれない?」


「しかし、畑にあるのはかかし」


「そうね」


「扉に手をかけるのは駄目ぇ!」


「さようなら」


「こいつ本当に帰りやがった!!」





「良いから早く作りなさいよ」


「問題があるとすれば、包丁が単純に怖い」


「普段料理しないのが悪い」


「あんたは何作っているの?」


「チョコトリュフ」


「出たよ。チョコトリュフ」


「何よ」


「バレンタインデーに興味ないんですぅ、って顔しながらそんなきちんと名称のあるもの作っちゃってさ! はいはい、どうせここで愛しの彼のハートをげっちゅぅしようって寸法でしょう!」


「弟とお父さん用だけど?」


「すいませんでした」


「いいからはやく刻んで湯煎して型に入れなさいよ」


「はい……」

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