挙―2

 気づいたら射出ポッドの上に座っていた。左腕はえぐれ、右足の穴はそのまま。足元には持ち出した黒い筒などが散乱している。【状態確認】を見ると、胴体が黄色に光っていた。どこかを負傷しているのかな。


『オートモード中の履歴 1件、製造候補 4件、損傷の激しい部位が確認されました。扉をロックします。』


 あらら、出られなくなっちゃった。損傷部位を直すか作れってことかな。


 【製造】を見ると、胴体部分の候補が2つ、左腕と右足の候補が1つずつ表示されていた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 左腕:00式単発砲 1門

 右足:グリーブ   複製可

 胴体:黒色タイツ  調整不可 ※ 追加材料により強度の調整可


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 順番に作っていくと、足元の材料がどんどん減っていった。

 胴体のタイツを作り終えた段階で、黒い筒が2丁余っているようだ。追加すれば強度を上げられるのかな。


 新しい左腕は肩から伸びた黒い筒が腰まで伸びている。可動域は左側半球。後ろも射撃可能らしい。【状態確認】のアウトラインがぐりんぐりん動いていた。

 右足前面に黒い装甲が付いている。軽く小突いてみると、乾いた音がした。これで、あの攻撃にも耐えられる? 複製には材料が必要らしい。白く表示されている。


 立ち上がると、左によろけた。左右のバランスが悪いのかな。複製できるし作っておこう。


 再度立ち上がると、視界に赤い点と最短ルートが表示された。移動してるみたい。割れるかな……今回の左腕は単発砲だし、大丈夫?




 動かない的に左腕を向けながら、性能を試すだけだからと言い訳を考える。新しい武器は試さないと。てぃ。

 尖端から記憶に新しい激しい光が噴き出ると、左肩に強い衝撃を感じた。

 あ、あれ? たたらを踏んでしまった。使いどころが難しい腕になった?


 的は割れていたが、破片が遠くまで散っている。【状態確認】の左腕が黄色に変わっている。ん? 横の『2/3 02:37』という表示は何だろう。

 2回撃つと表示が『0/3 02:02』になっていた。おかしいな、撃てなくなった? しばらく待てば撃てるかもしれない。


 降ってきた木の棒で遊びながら待っていると、左腕が白く戻った。やっぱり待てば撃てる。弾数は少ないから無理をしないように警戒しないと。




 扉を開け外に出る。赤い点は左前方に小さく表示されている。かなり遠い……あっちに何かあるのかな。警戒しつつ進んでみる。木の棒も一応持っていく。


 射出ポッドのある部屋の前から”8”のような”0”のような跡が残っている。左腕と右足が動かなくなった場所に着いても跡は続いていた。周囲には左腕の破片なども見かけたが、今さら脆い材料なんて要らない。

 通路の先を見ると、赤い点が少し大きく……ん? 2つ?


『2体の反応があります。警戒してください。』


 いつでも撃てるように左腕を水平に構えたまま進む。十字路に差し掛かる時、緑色の袋を見つけた。両側の壁に向け細いキラキラした線が見える。ずいぶん地面に近い所に張っているけれど何か意味があるのかな?


『爆発物があります。警戒してください。』


 バクハツ? と疑問に思っていると、緑色のバッグから一定範囲を黄色の円が囲んだ。入ったら危険らしい。十字路だから左右どちらかに進むのも良いけれど。何となく赤い点が気になる。木の棒でも投げてみるかな。


 十分に離れてから木の棒を投げてみる。放物線を描き緑色のバッグに当たり、キラキラした線にも触れた。

 次の瞬間、離れているにもかかわらず衝撃を感じた。激しい光は出なかった。おかげで緑色の袋が破裂する様子を見る事ができた。


 木の棒は、割れていた。腕で触れていたら……。


『損傷は軽微です。爆発物の破片も材料です。』


 拾えるモノは持っていこう。袋の布切れでバクハツブツの破片を包めそう。包めるだけ包み、右腕で掴むことにする。

 赤い点の方向を見ると、移動していないように見える。あ、また動き出した。さっきより速い。


 急いで追いかけなければと歩き出した時、通路の壁面がスライドし——――初めて部屋を出たころの自身のような被検体が姿を現した。


 数秒、見つめ合い互いに同じ見解に至る。


 ”材料”と。互いの右腕を突きつけようと動き出した視界に、それぞれメッセージが表示された。


『被検体同士の戦闘は制限されます。』

『上位種への戦闘行為は無意味ですよ。』


 腕を下ろし、互いに距離を取る。どうやらこちらが動くまで部屋から出てこないらしい。少し通路を戻ってみる。


 十字路を過ぎたところで部屋からのそのそと被検体が出てきた。こちらを一瞥すると、赤い点の方向へ歩いていった。木の棒を持っていないけれど大丈夫だろうか。

 ”バクハツブツ”の危険を知らない被検体は、きっと——


『活動を終了した被検体は材料となります。』


 ――何かつかえる思いがして、被検体を追いかけた。

 緑色の袋を警戒すること、地面付近のキラキラの線をみつけること、そして何より……自身が割れるところを見たくない。を伸ばした。


 動き始めたこちらを見て、被検体は足の運びペースを速めた。

 グリーブの重さの差か追いつけない。離れていく。


 離れていく背中の先に、が見えた。被検体には見えていないのだろうか。勢いを殺さず円内に入っていく。


 いけない。


 緑色の袋の右側を通ろうと、少し進行方向が変わった。


 いけない。


 キラキラの線が見えた。被検体がこちらを見た。歪んだ表情は何を思ってのことか。


 いけない——



















 ――足元に転がった材料が虚ろな視覚部を晒していた。

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