「夜を急ぎて」について(あとがきという名の言い訳)

 夜を急ぎて、というタイトルは、元は自分の夢の中に出てきたものでした。

 初めて書籍化したという夢で、そこでは「夜を急ぎて」というタイトルで、かなり前に書いた別の小説がアンソロの一つとして出てきたんです。スズというキャラクターもそこで初めて見つけました。

 

 この夢を見たのが、高校2年なので、今から3年か、いやもうちょっと前。それでもこの夢ははっきり覚えていて、このタイトルはいつかとっておきの時に使ってやろう、と思っていました。今回がそのとっておきだったわけです。このとっておきを使うかはずっと迷っていて、もう一つのタイトル候補は「タグ・ホイヤー」でした。こちらもタイトルが先に出てきたんです。


 こうして二つのタイトルと、天体観測の話にしよう、とだけ決めて書き始めた話でしたが、本編で語りきることができなかった、いや語りたくなかった話をここでしたいと思います。本当は本編ですべて語るべきで、ここでやるのはずるいんですけど、それはどうしてもやりたくなかった。だからここでやる、タイトルに言い訳って入っている理由です。


 天体観測の話にしようと思ったのは、死んだ父が星好きだったからです。彼が生きてた頃から、ずっと星の話は書きたいと思っていました。学校の図書館の星の本すべてに同じ人の名前があった、というのは父の実体験です。このエピソードが好きなので、入れることにしました(安易)。


 さて。twitterでイラストを見ていただいた方もいるかと思いますが、スズさんはイケメンです。画力が足りなくて表現しきれなかったんですけども。

 なぜイケメンか、それは彼の死体が燃えるからです。焼死体って見たことある方いないと思います(自分もさすがに生で見たことはありません)。ですが、見たらぎょっとするものだろうし、見て楽しいものではない。要するにグロいんです。


 ちなみに、描写はかなりリアルになるように頑張りました。たぶん、刑事さんが読んでも、うん描写正しいねって言われるだろうという自信すらあります。おかげで本庄にはグロ耐性が付きました。婚約者の焼死体をみたスズさんはそれが忘れられなくなった。こうなりたくない、と思ったけど、自分の愛する人はこうなってしまった。愛する人がなってしまった姿から自分が逃げるなんて彼にとっては矛盾です。スズさんは神経質なので、その矛盾には耐えきれません。日本は火葬だから、自分もなりたくないと言ってもどうせ炉の中でこうなるということで妥協はしてたけれど、納得はしていないはずです。


 結局、本庄にはスズさんの死体を燃やす選択肢しか残ってませんでした。割と悩んだんですが(初稿では火をつけかけてやめるエンドだった)、イケメンなんだから燃やすことにしました。元は綺麗なものこそ、燃やしたら美しいので。

 スズさんはインテリという裏設定もありますが、特に意味はありません。イケメンはインテリでしょ。違いますか?


 そして、スズさんは随分急に死んだなぁ、と思われる人も多いと思います。違和感があったという人もいるかも。その違和感をはじめは説明しようと思ったのですが、やめました。自分の知っている限り、メンヘラはわけのわからない理由で自殺します。スズさんは訳が分からない理由で死んだ男でいいんです。

 メンタルの調子が偶然とても悪かった日に、彼はよくわからない理由で死んだ、それこそが病みでメンヘラなので。ある日突然死ぬのがメンヘラなのです。死んだ理由もわざとぼかしました。どうせ誰にも意味が分からないので。というか彼にとっては、意味なんて分かってほしくないので。メンタル不調の方にはわかっていただけるのでは、とちょっと思っています。


 本庄の経験値で書いてるし、文章力の足りなさが露呈している部分でもあるんですけど、それはそれでいいかと思ったんです。めんどくさかったのもある。


 僕が放火魔というのは、ほとんどの方が薄々わかっていたと思うのです。わりと説明していたので。わからなくてもいいようにはなってるんですけど。序盤で気づいた方もおられるそうですが、それはすごい。

 読まれる方には、放火魔ということに薄々気づいてもらって、やっぱり放火魔だったかぁ、といったん油断させて、あのラストに持っていくというずるい手法にしました。放火魔は噛ませ犬です。好き嫌いが分かれる手法なので、ずるいと言われたら素直に謝るしかありませんが。


 スズさんは分かりやすいメンヘラです。本人に自覚もあるし、メンヘラの素質を元からかなり持ってて、たぶん婚約者が死ななくてもいつかこうなったはず。すごく性格は優しいんですけど、彼はとても繊細でめちゃくちゃ神経質なので、すぐ死にたいって気持ちになる。死にたがりです。

 スズさんには本編でも出てきたように、リスカ痕があります。普通、リスカ痕は横に何本もあるイメージなんですけど、本気で死のうとしたら手の付け根の親指側を深く掘らなきゃいけないらしいんですね。で、これで失敗したら基本的に縫わなきゃいけないそうです。本当に死にたかったのに病院に行ったスズさん、きっとつらかったんだろうな情けなかっただろうな、と自分のキャラに思いを馳せる怪しい人間、本庄の爆誕です。


 上記の話はメンヘラの友達に聞いて書きました。メンヘラの友達はいっぱいいるのですが、その一人に。向こうもきっと、頭にはてなマークを浮かべているはずですが、優しく教えてくれました。死にたかったのに病院に行ってる自分が情けなくてつらいと言ってました。男性のメンヘラは優しい人が割と多いです。女性のメンヘラは知り合いが少ないのでわかりませんが。


 僕の方は難しいメンヘラです。本人には全く自覚はないし、メンヘラでありたくないと無意識のうちに思ってる。けど、コンプレックスはいっぱいで生きにくい。いつの間にか自分が分裂していて、うち二つの性格が放火魔というとんでもない人間になってしまいました。これは本物の解離性同一性障害の方に怒られてもしょうがないと思います。すみません。


***

 いろいろ好き放題語りましたが、病みアンソロにはいろいろな思いを込めて書きました。でも、他の方の作品の方がもっともっとすごかった。悔しいというより純粋に羨ましいです。拙作以外はみんな傑作!!

 いいなー、本庄もあんなすごいの書きたい!

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