第5話 「10連ダイヤガチャは蜜の味」

「くくく……、ふふふふふ……、あはははははは!」


 おっと。

 思わず悪役のような笑い声をあげてしまった。

 しかしそれもしょうがないくらいに、大成功を収めてしまったのだ。

 実に気分が良い。上司の机の上に仁王立ちとかしちゃうもんねー。

 

 先ほど思いついた考えを行動に移してから、1時間くらい経過している。

 今、周りにあるアイテムの数々は……。


  rank   ゴールド(★)

category  武器

  name  不可視のナイフ≪ジャック・ザ・リッパー≫


  rank   ゴールド(★)

category  武器

  name  無限マシンガン≪ダンス・マカーブル≫


  rank   ゴールド(★)

category  武器

  name  燼滅刀じんめつとう焔魔えんま


  rank   シルバー(☆☆☆☆☆)

category  防具

  name  戦闘用ビジネススーツ≪スーパー紳士≫


  rank   シルバー(☆☆☆☆☆)

category  魔法書

  name  魔法書≪修復≫


  rank   ブロンズ(☆☆☆☆)

category  魔法書

  name  魔法書≪魔物言語・初級≫


  rank   ブロンズ(☆☆☆☆)

category  魔法書

  name  魔法書≪清潔≫


  rank   ブロンズ(☆☆☆☆)

category  その他

  name  超眠まくら≪三年寝太郎≫


  rank   コモン(☆☆)

category  その他

  name  ロープ


  rank   バッド(☆)

category  その他

  name  ひしゃげたブリキ缶


 となっている。

 どうやらゴールドレアから星の色が変わるらしい。

 1回1千万dpの10連ダイヤガチャを試しに引いてみた結果だ。

 いや、誰が引くんだよとか言っておきながら、つい引いてしまった。

 いやぁホント。

 である。


 そもそも。

 僕の勤め先は役所である。

 “国家管理運営保全省”という、という国家全体の管理を司っている役所だ。

 その御役目柄、数ある省庁の中でも上から数えたほうが早いくらいには多額の予算が付いている。

 これを頂戴した。

 経理に所属しているからできたことだ。


 と言っても、予算の全てを手に入れたわけではない。

 霞ヶ関の本省であるならばいざ知らず、一地方の支部にすぎないここでは使える予算にも限りがある。全体の予算から見れば、極々僅かな金額だ。


 それでも。

 日本円にしておよそ56億2千万円。dpにして5,620万dpという、とても大きな額を手にすることができた。


「予想通り、価値があれば問題無いみたいだな。小切手でも現金と同じ扱いになるのはラッキーだった」


 この役所で現金を扱うことは少ない。

 支払は全て専用の小切手を切ることで行われる。


 小切手とはそもそも現金に代わって支払をする手段、それに使用する紙だ。

 記載した金額と同等の価値がある、と言い換えることもできる。

 この屋久際市支部に配分された予算の全額を記載した小切手を、一度ドリームストレージに入れて現金を換えた時のように試してみたら、ビンゴ。

 見事、予算の全額を僕のdpに換金できたというわけだ。


「しかし、よくできてるよ……」


 上司の机から降りて、自分の席の椅子に座りなおしながら目の前のパソコンに視線を移す。

 数字が0ばかりになった予算の管理画面が表示されている。

 僕はなんの操作もしていない。ただ、今ある金額を調べようと開いて、そのまま画面を閉じずにいただけだ。

 それだけで。小切手をdpに換えた瞬間、全ての予算がまるで使われてしまったかのように消え去った。

 もう、この役所では二度と同じ方法は使えなくなってしまったな。


 ちなみに、どうして予算の金額に拘っているかと言うと。

 デタラメに予算以上の額、兆や京の金額を記入した小切手でトレードを実行するとエラーが発生したのだ。

 ドリームフォンの画面にエラーの表示が出ただけで、詳細はわからなかったが。

 

 それでも予測はできる。 

 実際の小切手というものは、受け取りさえすればすぐに現金化ができる。その性質上、発行した側の預金に記載した金額以上の額がなければいけないのだ。

 そのへんの理屈が悪夢の中でも適用されているのかもしれない。


 どちらにせよ、目論見は見事成功、と言う奴だ。

 無事に多額のdpを手に入れ。

 装備も、玉石混合っぽいが、まぁ手に入った。

 

 それでも。


「それより大事な事がある」


 そう。

 今はそんなことはどうだっていいんだ。

 今するべきことは別にある。

 それに比べれば、この装備達すら取るに足らない。

 dp的に裕福になったが、それですらどうでもいい。

 今すべきこと、それは。

 嘆くことだ。


 心の底から嘆き。

 腹の底から叫ぶことだ。


「なんっっっで! 魔法が! 使えないんだよおぉぉぉぉ!」


 そう。

 どれだけ魔法書を読んだりしても、なんの意味も無かった。

 意味が無かった。


 魔法。

 魔法使いたかったのに!

 魔法使えるんじゃなかったのかよ!?

 魔法を楽しみにこの世界に来たのに!!


「うがああああぁぁああああぁぁぁぁぁ!!!」


 ――悲痛な叫びが、誰もいない職場にこだまする。




**********




 ?????のナイトメア☆ガゼット


 第5回 『魔法』


 超常の力。悪夢の世界においては、様々な能力がこの名称で統一される。

 多種多様な能力が確認されており、対策法や利用方法なども多岐にわたる。

 

 ワタクシも魔法に関しては一家言あるのだけれど。長くなるのでここでは止めておくわね。

 憧れる者、恐れを抱く者、或いは既に知り尽くした者。貴方は一体何者かしら?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る