うつせるデジカメ

とむなお

第1話――えっ、マジ?

 雪でも降りそうな風の吹く師走の夕方……。


 東京・中野区のN駅付近を、二十歳の坂本カズヤは、K出版社でのバイトからの帰りで、自宅マンションに向かって歩いていた。

 そして彼は、帝華ていか大学文学部三年生で『ミステリー研究会』の会長でもあった。


「早く帰って、今月の例会で配る、ミステリーレポートのテーマを決めないとな……」


 そこから1分ほどの、Mマンション二階の自宅に帰り着いたカズヤは、ストーブをつけると、テーブルに置いたままになっているノートパソコンを立ち上げた。


 さらにネットにつなぐと、冷蔵庫から缶ビールを出し、コンビニのカップ焼そばを電子レンジに入れた。テーブルに戻って缶ビールを一口飲み、


「さーて、いいネタ、あるかな……?」


 パソコン画面の『お気に入り』をクリックして『不思議サイト』を呼び出した。

 電子レンジが、チン! と鳴った。


 右側に焼そばを置いて左側に缶ビールを置き、『不思議サイト』の『新着情報』をクリックすると、フォークに巻きつけた焼そばを口に入れる。


 登場した『情報』は、『トンネルに関する不思議』だった。

「なーんだ……トンネルか……。ま、とりあえず読んでみよう……」

 クリックすると、缶ビールを口に運ぶ。


 さらに画面に登場したはタイトルは……

『無限トンネル』


「えっ、マジで?……って言うか、多分……オチ付きだろうな……」


 カズヤは缶ビールを置くと、フォークを焼そばの中に突っ込んだまま、その本文に注目した。まず、そのトンネルの所在地があり、


『このトンネルの中央まで行き、目を閉じてから、十回、ルネントンゲムととなえるのです。そして目を開けると、そのトンネルは無限になっているため、出れなくなってる……そーです。ザーン!』


「おいおい、そのトンネルの写真くらい出しとけよ。第一、本当にトンネルから出れなくなるなら、どうしてアンタは知ってるんだ?」

 と笑い、また焼そばを口に入れた。


「まぁだけど……これといったネタも無いし……次の日曜でも行ってみるか……って、三日後じゃん」


 そのトンネルの所在地をスマホにメモした。幸いその場所は、都内からそんなに遠くなかった。



 翌日の午後、カズヤは大学の講義の後『ミステリー研究会』に顔を出した。スマホに副会長からのメールが入ったからだ。


 すると六帖ほどの部屋に、経済学部二年生で副会長の加東ナナミが、一人の女子と一緒に座って雑談していた。

「ちわー、加東クン、その子は?」

「あ、会長、入会希望者です」


 その女子が、スッと立って会釈し、

「初めまして、経済学部一年生の森田レナです。ぞうど宜しく……」


「おー、こっちこそ宜しく。しかし、内の研究会、女子が多いな……」

「あっ、それって、会長の希望でしょ?」

 ナナミが笑いながら言った。


「そんなこと、無論ないよ。どうも男子は、こわがりが多いからな……」

「ところで会長、今度の日曜日、彼女と一緒にお宅を訪問したいんですが……」

「おっと、今度の日曜はダメなんよ。予定があって……」

「じゃ、その次の日曜日は?」

「なら多分オーケー。って言うか、空けとくよ」

「じゃ、私たちは、これで……」

 ナナミとレナは出て行った。


 カズヤは「おー、気をつけてー」と見送ってから、奥に向かい、

「せっかく来たんだ、日曜の準備をしよう」

 倉庫のドアを開けた。

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