決意

 実地調査を終えた、その日の夜、ゴードンが屋敷へと来た。時間も時間なので、一緒に食事はどうだ、と食事に誘った。

 エリスは、非常に料理上手だ。少ない食材で、多くの料理を作ってくれる。僕が料理に不満を漏らさないのは、エリスの料理の腕によるところが大きい。


 「本日は、お招きいただき感謝します。ゴードンめは、非常に感動しております」


 ゴードンは、感極まっている。先代からずっと、住民をまとめていただけに、周りからの突き上げが辛かったのだろう。今まで、誰にも相談できずに可哀想なことをした。


 「まずは、食事をしよう。話はそれからだ。それと……エリス、これからは、一緒に食事をしよう。君も食卓に着きなさい」


 これには、エリスはもとより、ゴードンもびっくりしている。人間至上主義だったロッシュの変わり身に、だ。これからは、僕も皆と汗水を垂らし、村を良くしていかなければならない。そのためには、亜人だからと区別していては、駄目だ。亜人も村の一員なんだから。


 食事を終え、僕はエリスにコーヒーを持ってくるように頼んだ。なぜか知らないが、この屋敷にはコーヒーが大量に保管されている。どうやら、父上の仕業らしいのだが、どこかでコーヒーに出会って、すごく気に入ったものだから領都でも流行らそうとしたのだが、全く受け入れられず、この屋敷に在庫として保管されていたらしい。

 この量は、一生分はあるんじゃないかって量だよな。この屋敷に来た人たちには、是非コーヒーの消費にご協力をしてもらいたいな。


 コーヒーを飲みながら、話をする準備が出来た。酒といいたいところだが、在庫がないのだ。まぁ、僕は13歳だ。せめて15歳の成人までは我慢しなければならないのは辛いところだ。


 「ゴードンよ。すまんな、こう言う時は酒でも出してやりたいところだが……おっと、エリスの顔が怖いな……さて、今日の食事について、どう思った。忌憚のない意見を聞きたい」


 ゴードンは話の意味がよく分かっていなかったのか、首を傾げていた。


 「どう、とおっしゃられても、とても素晴らしい食事でした。エリスさんの料理は、前々から旨いと評判でしたから。我が家の食卓にも並んでほしいものです」


 僕は、考える素振りをした。皆、現状に満足しようとしている……たしかに、今日の食事は、今の最善と言えるような料理だった。しかし、普通なら、乞食が食べるような料理だ。言い過ぎか? 


 「僕はね……この料理で満足してほしくないんだよ。飢えないというのは大事だけど、美味しい食事を皆が、たくさん食べれらる様にすることが僕の宿命だと思っている。そのために、ゴードン、そして、エリス……その実現のために僕に協力してほしい」


 「もちろんでございます! ロッシュ様……先代の頃のような、皆が笑い、子供が重労働に苦しまないような、そんな時代に戻していただけるのですね」


 ゴードンは、男泣きをしていた。


 「無論だ。先代の時代なんかより、もっと良き時代を築けるだろう。それには、皆の協力が必要だ。さらには、亜人と言われる者たちの協力が不可欠だ。皆の中には、亜人に対して、よく思わないものもいるだろう……しかし、そこは、粘り強く説得していかなければならない。ゴードン、頼むぞ」


 ゴードンは、泣きながら強く頷いた。


 「早速だが、明日の朝、皆をこの屋敷前に集めて欲しい。今後の方針について、皆に報告したいと思う。皆の協力あってこその村作りだ」


 エリスもゴードンも頼むぞ……


 次の日の朝、ゴードンは約束通り、皆を屋敷前に集めてくれた。


 「皆のもの、朝からすまなかったな。知らぬものはいないと思うが、僕はロッシュだ。ここの領主をしている。しかし、王家は形骸化し、何の力もない。そんな中で、辺境伯などの名は無意味だ。我々は、この地を、村とし、僕が村長として、皆を引っ張っていきたいと思う。異論はあるか? 」


 皆は一様に、納得したような面持ちで頷いてくれた。ゴードンが説得してくれていたのだろうか? ゴードンの方を見ると、軽く頷いていた。


 「僕が村長となり、やることは一つだ。それは、皆が飢えに苦しまず、笑って過ごすことができる村にすることだ。ただ、この一つが長く険しく道程になることだけは確かだろう。そのためには、皆の協力が必要不可欠だ。僕に是非協力してくれ!! 」


 皆が、大きな歓声をあげ、ロッシュ様! ロッシュ様! と口を揃えていた。しばし、僕は、場が静まるのを待ち、皆の目を眺め回した。


 「これから、やらねばならないことを伝える。来月から長雨の時期となる。その前に、皆を旧都の高台に移動してもらいたいと考えている。これは、川が氾濫した場合に備えるためだ。まだ、使える建物などもあるから、そこを修復して住んで欲しい。しっかりとした住居はおいおい整備していくことを約束しよう。次に、川の氾濫を予防する必要性がある。そのための堤防作りに協力して欲しい。まずは、この二つの事から始めていこう。詳細については、ゴードンと相談して決めたいと思う。意見があるものは、どんどん言って欲しい。皆で、この村を良くしていこう」


 また、大歓声があがった。幸先は良さそうだ。しかし、まだまだ不安は尽きないだろう。結果が先延ばしになればなるほど、皆の心は僕から離れていくだろう。なにか、すぐに結果が出せる方法はないだろうか……。優先すべきは、堤防づくりだが、来月までに目処を立てるとして、人員は足りるのだろうか……。

 だめだ! 僕が、悩むことを見せるわけにはいかない。


 こういうときは、相談するに限る。僕には、エリスとゴードンという力強い味方がいるのだから。


 その日の夜……屋敷に戻ってから、エリスに相談してみた。


 「堤防を作るのに、どうしても人手が必要となるんだけど、必要な人数を動員してしまうと、どうしても、移住や畑の管理に人が割けなくなるんだ。どうしたらいいだろうか」


 エリスが悩んでいる。ふと、エリスが僕の顔を見上げた。


 「ロッシュ様って、魔法使えないのですか? 」


 えっ⁉ 魔法……? 


 しばらく、沈黙が流れた。


 そういえば、婆さんが、魔法を使えるようにした、とか何とか言っていたな。どうやって、使えるか調べるんだ? 


 「使えると思うぞ……ただ、使い方がわからないな……」


 「私もそこまでは……前のロッシュ様も使えてたみたいですけど。何か、手をかざしたら火が出てましたけど。それが魔法だと思います」


 手をかざすか……やってみるか。……何も起きないなぁ。どうしよう?


 ん⁉ そういえば、婆さんが、ステータスを見ろとも言っていたな。


 どれどれ……ステータス! と頭の中で考えると、頭の中に変な表示が出てきた。おお、これがステータスというやつか……ふむ……いろいろと表示されているが、いまいちわからないな……今日は、色々あったせいで、眠いな。


 「エリス。もしかしたら、何とかなるかもしれない……が、今日は寝よう。明日の朝から、また頑張ろう」


 エリスは嬉しそうに、はい! と返事をくれた。

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