第十四話 いつかどこかの英雄譚(急)

「なんとなんとぉぉお、今年の一着は中学二年生!大会新記録での優勝です!おめでとうございますっ!!」


「やったなイロ!」


「すげーよお前!」


「おめでとう!!」


 あれ、なんでみんながいるんだ?


「みんなのおかげだよ。応援ありがとう!!」


 あれ、なんで俺がいるんだ?


「……よかったな」


 あれ、なんでがいるんだ……?

 あぁそうだ。俺はずっとお前に見て欲しくて。認めて欲しくて。一生懸命努力して。なのにお前は……お前、は-


 **


 真っ白な天井。それが、俺が真っ先に視認したものだった。


「ここは……?」


 次第に覚醒する意識。そうだ、俺は-


「保健室だ。いつまで寝ぼけてんだお前」


 すぐ近くで声がした。見ると、そこにはがいた。


「あ、どうも」


「んだよそれ。ったく相変わらず冴えない顔してんな」


「それはまぁ……。そうだ、体育祭!どうなったか知ってる?」


「あん?何言ってんだ。もうとっくに終わったぞ?」


「えっ!?」


 慌てて外を見る。日は既に傾きかけていた。


「うわほんとだ。やばどーしよ片付け!早く行かないと」


「おいちょっと落ち着けって。お前マジで寝ぼけてるっぽいからまずは俺の話を聞け」


「……わかった」


「どこまで覚えてる?」


「ゴールテープを切った事くらい?」


「そうか。ま、俺もずっとここにいたから詳しくはないが……。優勝したぞ」


「え?」


「リレー。僅差で俺らの勝利。お前、勝ったんだよ。そんでその後倒れた。軽い熱中症だろうってさ」


「そうか……」


「なんだ、あんまり嬉しそうじゃないな」


「いやまぁ、優勝出来たのは嬉しいけどさ。急に言われても実感湧かないし。またみんなに迷惑かけたし」



「アホかお前」


「いやでも」


「ちょっとこっち、来い」


 そう言って窓際の彼のベッドに招かれる。


「アレ、見えるか?」


 指さしたのは何やら大量の人集り。よく見ると皆片付けをしているようだ。


「ボランティアだと。お前んところの部長?が募ったらアレだけの人が集まったらしい」


「それで?」


「みんなみんなお前のファンさ。お前の勇姿を見て参加したやつらだ」


「……冗談だろ?」


「ま、信じられないなら彼女に聞いてみるといい」


「彼女?ってちょっとどこ行くの!?」


「どこって帰るんだよ。いつまでもこんなとこ居れるかよ。それに、邪魔しちゃ悪いしな。そう心配しなくてもすぐに愛しの恋人が来るから黙って寝てろよ」


「邪魔?恋人?さっきから一体何言って……」


「それじゃあ、


「あ、……おう。、な」


 静寂に包まれる保健室。誰もいなくなった室内は不気味だった。


「アァー!!」


 ……遠くで男の叫び声が聞こえたのは気のせいだよな?




 コンコンッ


「失礼します」


 その後、部屋を訪ねて来たのは七崎だった。


「七崎。……もう片付けはいいのか?」


「大方ね。あとは任せてきたわ」


「へぇ、珍しいな。七崎なら全部やりたがると思った」


「し、しょうがないじゃない。あなたがその、心配、だったから……」


「え?あなたが……何?」


「な、何でもないわよバカ!」


「いや理不尽すぎるだろ……。そういやリレー、なんとかなったみたいでよかったわー」


「倒れた時は心臓止まるかと思ったけど」


「うっ……。悪かった、本当に。反省してる」


「また無理していたの?」


「無理っていうか夢中だったんだと思う。みんなと一緒に何かするの、久しぶりで楽しくってな。でもそのせいでみんなに心配かけた。ごめん」


「全く、困った人ね。まぁ今回は大目に見てあげるわ。後片付けの人員が集まったのはあなたのおかげでもあるしね。今後はこういう事がないように」


「アレって本当に俺の影響なわけ?信じられん」


「そうよ。もう興奮して会場中大変な盛り上がりだったわよ?」


「ふーむ、なんか実感ねーなぁ。そんなに言われても、俺はその姿を客観視出来ないわけだもんな」


「でも凄くかっこよかったわ。カメラ回しておいて正解ね」


「え?今かっこいいって……てかカメラだと!?」


「えーっとあの、今のはその、そう!冗談よ冗談!だからさっきのは全部忘れなさい今すぐに」


「いや、この件については詳しく……」


「失礼しまーす!」


 勢いよく開かれた扉。そこには三上、二井見の姿。そして-


「ねっ!これなんかよく撮れてるよね!お兄ちゃんも見る?リレーの映像」


「……おい我が妹よ。今すぐそれを消せ」


「え?なんで?あーそっか、お兄ちゃん恥ずかしがり屋だもんね。可愛いなぁもう💕でも面白いからぜーったい消さなーい」


「お前らぁぁぁ!!!」






「……嘘つき」


 この時俺は気づかなかった。保健室に入ってくるの存在と、三上が漏らしたこの言葉の意味に。運命の歯車は既に音を立てて崩れ始めている事に。

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