夏、旅行の始まり

2泊3日の旅行に出発した俺たちは電車に揺られていた、初めの内こそはしゃいでいた四十川、片岡は今は疲れてすぅー、すぅーと寝息を立てて寝てしまっている。無理もない、昨日は誰も寝坊しないために全員俺の家に泊まり込みで出発したのだが片岡はテンションが上がって寝れてなかったし、別の部屋で寝ていた四十川も眠れていなかったと言う。席は俺と片岡が隣、東雲と四十川が隣で4人席に座っていたので四十川は東雲に膝枕をしてもらう形で眠っていた。


特にすることもない俺と東雲は最近の出来事を話し合ったり、時折窓の外の風景を見たりして道中を楽しんでいた。


「あ、そういえば小鳥遊?」


「ん?」


さっきまで楽しく会話していた東雲の目つきが少しだけ鋭くなりこちらを見ていた。


「あやめに抱きついたってほんと?」


「!?...っ」


飲んでいたお茶を吹き出しそうになったがなんとか堪えることに成功した。てか抱きついたって、いや確かにそうだけど、あれは仕方なかったというか事故というか...どう説明しよう。


「いや、あれはだな」


「抱きついたんだ」


「...」


どうやらカマをかけられたらしい、そして俺はまんまと引っかかってしまっていた。


まぁこれといってやましい訳があるわけじゃないし、隠す方がややこしくなりそうだと俺は考え、1連の流れを話すことにした。


「あれはだな...」


事の顛末を聞いた東雲はため息をつきながら何故か安心したような優しい顔をしていた。


「というかどうしてそんなこと聞いたんだ?」


俺は何故東雲が俺が四十川に抱きついたと思ったのか、そこが一番気になった。


「昨日、私あやめと寝たじゃない?あやねが寝られるまで一緒に起きててその後に私は寝たの、あれは確か1時回ったか回ってないかそれぐらいだったと思う」


まじか、そんな時間まで起きてたのか?緊張して眠れないの限度超えてない?というか東雲まじで保護者になってるな。


「それでね、私はあやめが寝たの確認して寝ようと思ったらあやめが、小鳥遊さん近い...っ って寝言で言ったのよ、だからまさかなと思ってカマかけたらそういう事ね」


「隠す気は無かったが別に報告するのも違うなと思ってな、今まで黙ってた」


すまんと謝る俺に東雲はあははっと笑った。


「なんで私に謝るのよ、この子が起きたら謝ってあげたら?抱きついた事、助けるために仕方なかったとはいえ寝言で言うくらいだし気にしてたんじゃない?」


「そうだな、そうさせてもらう」


俺は気にもしていなかったが四十川からしたら気になっていたんだな、時間があれば今日中に謝っておこう。


「小鳥遊」


「ん?」


「旅行、楽しもうな」


「?、おぉ」


東雲は無邪気にニコッと笑いまた外の景色に見入ってしまった。



***************



「着いたぁぁ!海!ここまで来るの長かったなー」


「ですね!片岡さん!」


「あんた達は後半寝てただけだろ」


「「ぐっ」」


海に着きテンションが上がる片岡、四十川に東雲が笑いながら痛いところを突っ込む。四十川に関しては最近片岡に似てきてるような気がするが、大丈夫だろうか。


「とりあえず今日泊まる旅館にチェックインしに行こう、荷物も持ったままじゃ動きにくいし」


今が11時40分、チェックインは12時からで駅から歩いて20分くらいなので今から向かえばちょうどいい。


3人共俺の意見に賛成し、旅館に向かうことになったのだが。


「なぁぁーゆうぅぅーあづいぃー重いぃー」


「ナビ通りいけばあと10分だ、頑張ろう片岡」


何故片岡が死にかかっているかと言うと理由は簡単だ、自分達の荷物と女子の分の荷物(手提げ以外)を運んでいるからだ。


「ほれほれ、頑張れ男子ぃ」


「やっぱり自分で持った方が...」


言い出しっぺの東雲と申し訳なさそうにしている四十川が俺たちの2歩くらい前を歩いていた。


「いいのいいの、ほら先行ってよ」


「しのりんの悪魔ぁぁぁ!」


俺の横の片岡が絶叫する。


「てかこんなに重いの何が入ってんのさ!僕たちのよか2倍くらい重くない!?」


2倍は少し盛っているが俺たちの荷物よりも明らかに重い。何が入っているのかわからないと言う好奇心とこの暑さが片岡をそうさせたのか片岡は東雲のバックを開いた。


「お、おいやめとけって」


「何が入ってるのかゆうも気になるでしょ!?絶対いらないもの入ってるって!!」


「知らねーぞ」


片岡に気を取られていて気づけなかったが俺のすぐ後ろで足音がした。嫌な予感がし、ゆっくり振り返ると満面の笑みの東雲が立っていた。嫌な予感、的中。


「ち、違うんだ東雲これはだな、片岡が暑さにやられてだな」


「それでなんで女子のバック開けることになるの」


「それは知らん」


怒った猫のようにふるふるし始めた東雲の耳が真っ赤になっていく。


「で、見たの?」


「?」


「中!見たの!?」


「俺は見てないが...」


そこで俺は俺の真後ろで土下座をしている男に気づく。片岡、お前まさか...


「し、しましまも、良くお似合うですますよ」


よくわからない敬語らしきものを東雲に向けるが今の東雲にそれは火に油をそそぐようなものだ。


「最低!!っ」


ぱしんっと乾いた音と共に片岡の頬を東雲のビンタが炸裂する。


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