(ⅶ)

 どうやら、この時、俺の心には、魔法だか催眠術だかで俺の心を操作した「ニワトリ」男にとっても想定外の事態が起きていたらしい。

 しかし、俺は、自分が普段より冷静で頭も冴えている、と云う「実感」だけで、自分の心が、どれだけおかしな事になっているか気付いていなかった。

「うおおおっ‼」

 俺は再び「斧」を振り上げて今村に突撃。

 今村は、頭上でクロスさせた腕を「斧」の柄にブツける。しかし、次の瞬間、俺は、今村の腹に蹴りを叩き込む。

 今村は驚いたような表情で、後に下る。

「くたばれぇっ‼」

 俺は「斧」を捨て、今村に飛びかかり……。腹の辺りに違和感。今村の伸びた手の爪に、「水城みずき」の腹部の表面素材と……血が付いている。しかし、俺は、かまわず今村の首に腕を回し、思いっ切り締め上げる。

 続いて、左肩に違和感。3Dプリンタで作った左肩の装甲が、あっさりと今村の手の爪で貫かれている。しかし、構わず絞め続け……。

 何かが、俺と今村の体にブツかる。跳ね飛ばされ、俺は、思わず、今村を離してしまう。

 俺と今村に体当りしたのが誰かは判らなかった。そいつが、他のヤツらと同じく、ライダースーツとヘルメットをしていたせいだ。

 だが、想像は付く……。「寛永寺僧伽」のアジトに現われた……高速移動能力の持ち主。あれだけの速さで体当たりをすれば……運動エネルギーは相当なモノになる……。

 ヤツらは、助けた子供達をトラックに乗せる。その中には、正義と仁愛にあも居た。

 そして、トラックは走り出した。

 ……。

 俺は……俺の町の為に「英雄」になる必要が有る。

 では、ここに居る中で、俺が「石川智志さとしの息子」として「英雄」になるのを阻みかねない最大の障害は誰か?

 「本土」の御当地ヒーローども? 違う……。ヤツらはいずれ「本土」に帰る。

 レナ? 違う……。もし、あいつに「英雄」になるつもりが有ったとしても、俺の想像通り、あいつが一〇年前の富士の噴火を引き起した原因なら……「英雄」の座から追い落す手段はいくらでも有る。

 「神保町」の魔法使いども? 違う……。あいつらは少なくとも今は、俺の「協力者」だ。

 排除すべき者は……あのトラックの中に居る。俺と同じく、親父の血を継ぎ……俺にないモノを持っているヤツが2人……。

 友達の為に、平然と自分を危険に晒す事が出来る2人が……。

 兄貴である俺の代りに……親父から……「英雄の素質」を受け継ぎやがった2人が……。

 トラックが俺達から十分離れたのを見計らって……俺は……「神保町」の魔法使い達の親分の「使い魔」を呼び出した……。

 そして……「使い魔」はトラック目掛けて無数の矢を放った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る