(11)

「で……あの人達も……死んだの?」

「1人だけ生きてる奴が居る。あのトラックの陰だ」

 荒木田さんが指差したトラックは業務用みたいで、「飲食店用消耗品 卸売 イワサキ商店」と云うロゴが描かれていた。

「さっきのビルの奴らから奪った拳銃、まだ有るか?」

「はい」

「居るのは判ってる。出て来い。こいつらを呪い殺したのもお前か?」

 荒木田さんは、あたしから受け取った拳銃を構えると、そう大声でそう言った。

「素人の構え方だな。何で覚えた? アニメか? アクション映画か? それとも、何かのゲームか?」

 若い男の声。そして、声の主らしい男がトラックの陰から姿を見せた。

 明る目の灰色の作業着に同じ色の帽子。作業着の胸のポケットの辺りと、帽子には、トラックに描かれているのと同じロゴが入っている。

「この大騒ぎの原因はお前らか? まぁ、いい。逃げ場に困ってるなら助けてやる。ただ、後で事情は聞かせてもらう。あと、少し手伝ってもらえるか?」

「待て……お前……」

 勇気が、その男を見て飛び出しかけた。

「落ち着け……そもそも、君の父親を殺したヤツだと言ってたが……奴は君の顔を知ってるのか?」

「……それが……変です。『使い魔』は俺の親父を殺したヤツなのに……あいつは……俺の親父を殺した『魔術師』じゃない。俺の親父を殺したのは……女でした」

「そうか……。おい、そもそも、あんたは誰だ?」

「今からやる事を手伝ってもらえば判る」

 そう言って、その作業着の男はトラックの中から何かを取り出し始めた。

「すまん、こっちのホースを、このポリタンクに繋いでくれ」

「判った」

 男が取り出したのは、五リットル入りぐらいのポリタンクと、そのポリタンクと同じ位の大きさで、2本のホースが出ている何かの機械。

「見た事有る?」

「さぁ?」

 荒木田さんは、男の指示に従って、機械のセットアップを手伝っているが……高専の機械科の筈のあたしと勇気にも、何の機械か良く判らない。

「すまん、ちょっと離れてくれ。近くに居ると、あんたの服が汚れるかも知れないんでな」

「判った」

 男がそう言うと、荒木田さんは、あたし達の所に戻って来た。

「あれ、何の機械でした?」

「判らん……。ただ、ポリタンクには『消毒用エタノール』と書いて……」

『おい……何%のヤツだ?』

 携帯電話Nフォンの向こうの誰かが質問。

「九〇%って書いてあった」

『消毒用にしては濃度が高過ぎる。念の為だ。そっちに向けて、火をブッ放された場合を考えて対処する準備をして……』

「ああ、だけど……自分のトラックに消毒用アルコールをかけてる」

『はぁ?』

 するとトラックに描かれていたロゴが段々と流れ落ち……その下から現われたのは……。

「何だ、あのマークは?」

「『秋葉原』の自警団『サラマンダーズ』のマークです」

 トカゲにも、ドラゴンにも見える赤いマークだった。

「すまん、反対側もやるんで、これ運ぶの、誰か手伝ってくれ」

 男は、あたし達に、そう声をかけた。

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