(9)

『誘拐されたのは……誰だ?』

 携帯電話Nフォンの向こう側の声はそう言っていた。

ヒゥの……友達と……その姉だ……」

『今の状況は?』

「現在、誘拐犯のアジトの地下室。アジト内の誘拐犯グループと思われる連中は全員無力化済み。しかし、目的の子供2人は既に別の場所に移された後。なお同行者2名に……救出した関係ない子供が二〇名以上。あと、多分だけど……建物を出たら……街中全てが敵だ」

『街から脱出する手段は?』

「子供は2人だけだと思ってたが……見通しが甘かった。足はライトバン1台」

『そっちって、公共交通機関はバスと地下鉄だけだったな』

「ああ」

『仕方ない。まずは、その「アジト」とやらを出ろ。子供と同行者の命を最優先で行動してくれ。とりあえずは、あんたの能力で「アジト」の外に人が居るか確認しろ』

「居ない……。どうなってる? 通行人すら居ないぞ」

『下手したらガスを撒かれてる可能性が有るな……。毒ガスか……非致死性でも催涙ガスか麻酔ガス』

「私が上に出て確認する。何も無ければ同行者に連絡するが……」

『その「アジト」の状況が良く判らんが、外に出るまで時間はどれ位かかる?』

「3分以内」

『ガス以外だと……後は……ドローンか……。空気を吸っても大丈夫でも、それらしい音なんかに注意してくれ。もし、あんたが無事で済まなかった場合の方法は今から考える。同行者との連絡手段は?』

携帯電話Nフォンが、もう1つ有る」

『判った。通話は切らずに、今使ってる携帯電話Nフォンを同行者に渡してくれ』

「もし、外が大丈夫そうだったら、コレで連絡する」

 そう言って荒木田さんは仁愛ちゃんの携帯電話Nフォンをあたしに見せて、自分の携帯電話Nフォンを置いて外に出た

「あ……あの……貴方が……荒木田さんが言ってた『本土』の『御当地ヒーロー』見習い?」

『あいつ……自分の本名をバラしたのか?』

「えっと……正義くんと仁愛ちゃんが誘拐される前に……こんな事態になるなんて予想もしてなかった時に……」

 携帯電話Nフォンの向こうからは溜息。

「御当地ヒーロー」見習いだ』

「えっ?」

『訳有って師匠に破門された』

 その時、あたしの携帯電話Nフォンが鳴った。相手の番号は……仁愛ちゃんの携帯電話Nフォン

『上は何とも無い。人っ子1人居ないのが気になるが。周りの建物の灯りもいてない』

「判った……。もしもし、荒木田さんから連絡あり。上は大丈夫そうみたい」

『了解。注意して外に出て来れ。もし、そこが安全なら、外で何か有ったら、すぐにそこに戻れ』

「はい。みんな、上に行くよ」

 深呼吸をして立ち上がる勇気。まだ訳が判んないみたいだけど、ゾロゾロとついてくる子供たち。

 そして、外に出た途端……。

「お……おい……レナ……あれ何だよ? 外は大丈夫だって言ったよな?」

「え? 何も無いじゃん……」

 しかし、勇気だけじゃなくて助け出した子供たちもざわついてる。

「しまった……まさか……。私の携帯電話Nフォンを勇気君に渡して、何が見えてるか説明させてくれ」

 外で待っていた荒木田さんがそう言った。どうやら、荒木田さんも「何も見えていない」みたいだけど、何が起きてるかは予想が付いたみたいだ。

「えっと……何か……半透明なゾンビみたいなのが何匹も宙に浮いていて……こっちに向かって来てて……」

ひかるに……私の仲間に伝えろ‼「浄化」の力を、辺りに広く薄く撒き散らせ、と』

「聞こえてる‼ 了解した‼」

 荒木田さんがそう叫んだ途端、辺りで次々と爆音と閃光。

「まだ居るのか?」

「居ます」

「どの辺りに?」

 勇気が前の方を指差す。

「クソッ‼」

『待て、光以外にも死霊が見えないヤツが居るのか?』

「はい、あたし。何が起きてるか判んないけど、とりあえず見えない」

『あんたの力は何だ? 単に霊感が常人以下なだけじゃないなら……まさかと思うが、あいつの同類か?』

「うん。とりあえず、炎と熱を操れる」

『判った。光、見えてる誰かに指示されてる方向に「浄化」の力を放ってくれ。見えてない誰かさんは……熱で空気を膨張させる事は出来るか?』

『何とかなるかと』

 横から、あたしに取り憑いてる「お姫様」が口を出すが、あたしと荒木田さんにしか聞こえない以上、当然ながら携帯電話Nフォンごしに伝わる訳が無い。

「何とかなりそう」

『じゃあ、もし、デカい爆発が起きたら、あんたの力で……空気を熱膨張させて、爆風や衝撃波を打ち消せ』

「えっ⁉」

「手順は理解したか? いくぞ、どっちだ?」

「まず、あっちです‼」

「だから……どうなってんの?」

『そこらに居る「何か」は、多分、あいつの力で「浄化」出来るモノだ。あいつは、その手のモノを「浄化」する力を、ほぼ無尽蔵に放てる。だが、困った事に、当のあいつ自身は……その手の悪霊や死霊や魔物の類が……全く見えないんだ。あいつにとっては、その手の代物は「自分に害を及ぼせないので認識する必要すらない」程度の小物に過ぎないんでな』

 ……何だよ、そのチートなのか使えないのか判断に困る「能力ちから」は?

 ところが、次の瞬間……。

『そして、あいつの力で、その手のモノが「浄化」される時……副次的に……爆発が起きる。やれ、さっき言った事を』

「うわああああああ‼」

 あたしは「爆発」と、あたしたちの間の「空気」を熱で膨張させる。爆音は……更に大きくなったが……あたしたちは何とか無事だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る