神殿の中に入ると、そこには薄暗く巨大でなにもない伽藍堂とした空間が広がっていた。いくつもの柱が立ち、その柱が天井を支えているが、あとはなにもない空間だ。神殿の屋根はところどころが崩壊しているのか、そこから外の光が暗い神殿の中に差し込んでいた。外はもともと太陽の出ていない暗い灰色の空だったので、その光はとても弱い光だったけど、それでも薄暗い神殿の中では、その光は確かな存在感を持っていた。神殿の入り口は少しだけ高台のような場所になっており、モノの立っている場所の少し先には下り階段があった。とても立派な下り階段だ。モノは神殿の石造りの床の上を歩いて、その階段をゆっくりとした速度で足元に気をつけながら降りていった。

 モノは広い空間の中をまっすぐ正面に向かって歩いて行った。その途中、モノは立ち並ぶ柱の一本の近くでふと足を止めた。柱の陰には珍しく花が咲いていた。とても小さな花。『真っ白な色をした花』だ。モノは思わずその花の美しさに目を奪われた。

 モノは自分の足元に咲く真っ白な花にだけ、その意識を集中させた。白色の花は神殿の天井から差し込む弱い光の中で一輪だけで咲いていた。その白色が外の光をわずかに反射して、きらきらと、とても美しく輝いていた。

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