古い石造りの橋はとても大きな橋だった。モノは霧の中でよく見えない足場を確認しながら、まるで自分が今、雲の中を歩いているのではないかと言う錯覚に陥った。それは案外錯覚ではないのかもしれない。モノはすでに橋を渡っている。モノはすでにこちら側の世界から向こう側の世界へと足を踏み入れているのだ。モノはすでに世界を移行してしまった。モノはもう向こう側の世界の住人ではないのだ。

 途中、びゅーという大きな風が何度か吹いた。底の見えない巨大な谷の間を吹き抜けるその強い風はまるで古の物語に登場数る伝説の怪物である龍の息吹を思わせた。その風が吹くたびにモノは橋の上で足を止めて、体を小さく丸め、その風に自分の小さな体が吹き飛ばされないように努力した。ばたばたと服が強い風に揺れる音が聞こえた。

 橋の中央付近まで来たところで、モノは少し休息をとった。そこには巨大な石の柱が二つ並んで立っていた。その石の柱の影なら谷を吹き抜ける風を遮ることが可能だった。モノは柱の影に腰を下ろして、背中に背負っていた荷物袋を地面の上に置いて、そこから水と食料を取り出した。モノは貴重な水を一口だけ口に含み、それをごくんと飲み込むと、固いパンと古びたチーズを口にした。

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