第3話 神性と獣性




「適正っていうのは合わせて100になる数値だ。獣性ベストが高い奴は戦士ボルダーに向いているし、神性レメントが高いやつは司令レフィンダーに向いてる。戦闘が起きたら、司令が戦士に指示を出して戦う。これが基本で、そして全てだ。覚えられそうか?」

「えっと、えと、ベストが高いとボルダーで、レメントが高いとレフィンダー。レフィンダーがボルダーに言って、戦ってもらう。……合ってます?」

「だいたいそれでいい。頭を使うのが『レ』で、戦うのが『ボ、ベ』だ。協会が決めた呼び方らしいから正直どうでもいいけど、一応な。何回か繰り返して覚えるといい」

 

 隣を歩く少女は指を折りながら真剣な表情で単語をつぶやいていく。

 時折動く耳がなんともいい味を出している。なんでもいいけれど、一撫でさせてはもらえないだろうか。さすがに無理か。

 

「あの、あの、すいません」

「はいよ」

「合わせて100っていうのがよくわかりません」

「お、よく聴いてたな?」

「えっへん!」

 

 何の膨らみもない胸を張り、腰に手を当てる少女はひとまず視界の片隅に放っておく。どう説明したらわかりやすいだろうか。身近そうな奴で例えるなら。

 

「あの頬に傷のおっさんは。リーダーだったか? 確か神性が72って言ってたよな?」

「そうです、72って高いんですよね?」

「そうだな。かなり高いと思う。それで、神性が72ってことは、必然的に獣性は28になる。指示を出す能力は72もあるが、かわりに戦闘力は28しかない、って感じだな」

「えーっと、……あ! 合わせて100っていうのは、そういうことですか」

「そういうことだ。あくまで潜在能力だけどな」

 

「…………あれ、でも」

 

 しばらくして、少女は小首を傾げる。

 

「どうした?」

「“指示を出す能力が72”って、どういうことですか? 確かにリーダーもいろいろと大声で言ってましたけど、それって頭の良さとか、経験とかで決まるんじゃないんです?」

「……お前、結構頭いいな?」

「えへへ」

 

 嬉しそうに笑う少女に、俺は疼く手を抑える。

 初対面だ。初対面。撫でてはいけない。捕捉をせねば。

 

「それについては、たぶん、一回経験しちゃえば説明するまでもないんだろうけど……。まあ簡単に言っておくと、司令が『走れ』と指示を出してから、戦士が指示通りに“走る”と、普段より速く走れる」

「ええ!? どうなってるんですかそれ?」

「詳しいことは俺も知らない。空気中のマナと体内マナが関係してるとかしてないとか」

「わたしも『走れ』って言われたら、あしが速くなるんです?」

「いまはまだ無理だな。そのためにこうして協会に向かってるんだ」

「協会です? 協会に行って何をするんですか? 怪しげな魔法をかけられちゃう感じですか? そしたらわたしも強くなれますか? ずばばーって走れるんです?」

「協会には契約に向かう。声紋のマナの周波数を合わせるんだ。声紋契約とか、チューニングとか、呼び方はいろいろだけどな」

「せーもん? ちゅーにんぐ? ですか」

「そーです」

「ですかー……」

 

 反応からしておおよそ理解はしていないだろうけど、別にこのあたりは知っていようが、いまいが、活動には関係ない。

 

「――――――あの、ところで」

「うん、どうした」

「街の外れまで来てしまいましたが?」

 

 俺は少女と同時に歩みを止めた。

 街の外郭はそれなりに高い塀になっている。等間隔に刻まれている紋様はこの街独自のもので、そんなデザインにまで気を掛けられるあたり、この街がどれだけ栄えているのかが窺い知れる。

 

「……もしかしなくても、迷いましたね?」

「馬鹿言うな、これで合ってる」

「ぜったい嘘じゃないですか! 誤魔化してます。壁と兵隊さんしかいません。協会が立ってるのって、真ん中のほうじゃなかったですか?」

「街の真ん中の方だな」

「ここはとても端っこの気がしますが!」

「端っこだな」

「迷いましたよね!?」

「別に、この街の支部に行くとは言ってないぞ」

「ええ……」

 

 心底疑わしそうな目を向けてくる少女を置いて、俺は一歩、街の外へ踏み出した。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 街道も少し街から離れればすぐに土臭い景色に変わる。

 地平線をただひたすらにまっすぐ伸びた道には、大小さまざまな姿がぽつぽつと見られる。行商の引く荷車や、ブージュスというばかでかい魔物に金属製の荷台を運ばせているような物流業者。そして専属か雇われと思われるパーティがわらわらとその周りを取り巻いている。

 荷物の他にはこれから狩場へ向かおうとする一般的なパーティもいれば、大きな楽器を背中に担いだ痩せ気味の男、そして訳がありそうな子連れの女性なんかもここからは見える。一番遠くに見える人影は砂粒のような大きさだ。

 

「あ、あの!」

「うん?」

 

 俺の視界に見え隠れしていた少女が、ちょっと怒り気味に声を上げた。

 

「もう少し、ゆっくり歩いてください!」

「お? ……ああ、悪い」

「街からずっとそうです」

 

 頬を膨らませる少女に、俺は歩幅を緩めていく。

 まったく意識になかった指摘に、俺はもう一度「悪かった、気をつける」と言葉を足した。

 そうか、今後しばらくの移動は、彼女の足で時間を測る必要があるわけだ。それにしても街からだいぶ歩いては来たけれど、いまになって言うということは、かなり我慢していたのではないだろうか。

 

「あの頬に傷のおっさんのパーティはゆっくりだったのか?」

「いえ、あっちは、必死でついていきました」

 

 やっぱりな。

 

「あとは、……そうです! 何歳なのか聞いてませんでした!」

 

 一転して明るくなった表情は、何か楽しいことを思いついてしまった子供の顔に見え、俺はそこはかとない嫌な予感に視線を逸らした。

 

「……歳の前に名前も聞いてないけどな」

「あ、そうでした! でも何歳なのかが先です! おいくつですか?」

「えーっと、俺は」

「せいねんで! お願いします!」

「成年で? ……成一年だけど」

 

 俺がそういうと、彼女はわかりやすく瞳を輝かせた。

 

「わたしも成一年です! ということは同い年ですね!?」

「いや、同い年ではないだろ」

「そんなことはありません! 同い年です! ほら、同じ年齢なのですから、言葉遣いだとか、もっと丁寧に扱ってください。わたしはもう立派な女性です!」

「同い年を主張するんだったら、むしろタメ口でいいんじゃないのか?」

「いいえ! これからは仕事仲間みたいなものですから!」

「うーん? まあ、そうか……?」

 

 彼女の目的が知れて力が抜けた俺は、遠くの景色を見るフリをしながらため息を吐いた。

 立派な女性か。

 

 うーむ、そうか。

 そうなのか?


 お使いで出かける以外は調合部屋に引き篭もっていることが多かっただけに、わりと常識に疎い自覚はある。男女間の感覚についても、恐らくは彼女の方がノーマルな認識に近いことは理解している。

 俺の知識は戦闘能力と調合に偏っている。曲がりなりにも世の中の風に晒されてきたであろう彼女の方が、流行なんかにも詳しいのではないだろうか。

 

「じゃあ、そうするか。そう、しますか」

「それがいいです。ふふ」

 

 俺は適当に語尾を変えてみる。

 別に敬う気持ちがなかろうが、敬語なんていくらでも使えるのだ。

 彼女は女性としての扱いを希望しているようだが、そもそも立派な女性が自分のことを「立派な女性」と呼ぶかというと、甚だ疑問ではある。

 

「それで、お嬢様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」

「……何か、なんでしょうか。すごく鼻につくのですが?」

「そうおっしゃらないでください。わたくしめの名前はニトにございます。どうかお嬢様のお名前も教えていただけないでしょうか?」

「ヤです! なんか嫌ですっ!! 気持ち悪いですう!!」

 

 ひい、と自分の体を抱きしめて少女は後ずさる。

 だから言っているのに。敬語を使うことと敬意があるかどうかは別の話だ。

 

「どうかそんな目で見ないでくださいませ。非常に悲しゅうございます」

「あなた誰ですか」

「ニトにございます」

「それはさっきも聞きましたよ! わかりましたよ! ニトさんですね!?」

「ああ、そのような呼び方はもったいなく存じます。わたくしめなど、ニトと呼び捨てていただければそれで」

「目的が変わってませんか!? それ嫌です! ぞわぞわしますっ!!」

 

 まるで酔っ払いの吐瀉物を見てしまったかのような彼女の反応に、俺は少し満足する。

 

「それでー、なんて名前なんすか」

「いきなりフランクですね? わたしはレリフェトです」

「レリフェトさん」

「そうです。だいたいはレフィと呼ばれて……、ああ」

 

 彼女は何かを言いかけて固まり、そしてうな垂れた。耳がしょんぼりしている。

 なんとも感情の起伏が激しい子だ。見ていて飽きない。

 

「どうしたんですか」と俺は声をかける。

「いえ、自分がレフィと呼ばれていた理由がなんとなくわかっただけです」

「理由? 呼び方はレフィさん、でいいんですか?」

「そう、ですね……」

 

 ぺたっとしてしまった耳を見るに、明らかに嫌がっているように見える。

 呼び方なんでも良いのだから、レリフェトさんとフルネームでもかまわないのだが。

 

「わたし」とレフィは静かに口を開いた。

「……適正が50の50なんです」

 

「はっ!?」

 

 俺は完全に油断していた。

 静かに置いたはずのコップがテーブルを突き破ったような気分だった。

 いま何と言った?

 

「50の、50!?」

「……そうです」

「ぴったり50!?」

「いえ、少しだけ……」

「少し、どっちが高い!?」

「えっ?」

「どっちが高いんだ!?」

 

 言葉遣いを改める余裕もなく、俺は彼女に詰め寄った。

 両肩を捕まれた彼女は驚いた表情で体を縮めた。俺は思わず、その小さな肩から手を離した。

 

「ご、ごめん。いや、すいません」

「い、いえ」

 

 俺は道に向き直り歩みを進めた。レフィはそれにおずおずと付いてくる。

 あまり足の感触がない。

 

「ぴったり50じゃないって言いましたよね?」

「そ、そうです。確か少しだけ、神性の方が高いです。でもほぼほぼ同じらしいです」

「……本当に神性の方が高いで、間違いないですか?」

「はい」

 

 神性のほうがわずかに高い50の50。51と49と言ってもいいか。

 いやいや、しかし、まさか、そんな。

 

「……酷い数値ですよね。わたし、たぶんどっちにも向いてないんです」

 

 彼女は悲しそうに笑った。

 俺は彼女とはまったく別の意味で口元が緩みそうになっていた。

 彼女との約束を、あのパーティに戻れるまで、と決めてしまったのは、あまりに早計だったかもしれない。

 いや、悪い癖が出てるな。

 

 俺はぶんぶんと首を振る。

 

「確かに、とんでもない数値ですね」と俺は、落ち着いた風を装った。

「そうですよね。係りの人にも驚かれました。のーなーよりも珍しいって、つぶやいてたんです。のーなーって何かわかりますか?」

「ノーナーは適正のどっちかが90を超えてるような奴のことを言うらしいですね。滅多に使う言葉じゃないです。70を超えれば十分高いのに、さらに80超えのバケモノをオクター、そして90超えの人外をノーナーと呼んだりすることもあると。ちょっと俗、ですが」

「そんなに珍しいんですか」

「80超えですら普通じゃ見かけることもないくらいですかね。確か王国騎士団の、団長だったか、その一番隊の隊長だったか。その役職は必ず90超えの司令がなるとかいう話を何かで読んだ気がするくらいで」

「はあ……、住んでる世界が違いますね。それなのに、そんな人よりもわたしの方が珍しいんですか」

「体内マナのバランスが普通は偏るらしいですからね。40と60とか、60と40とかが一般的な数値なので。そこから外側に振れることはあっても、内側に寄ってる人はほとんど聞いたこともないです」

「そ、そうなんですね……」

 

 薄々気づいてたことが現実として突きつけられたのか、彼女は大きくうな垂れ、ため息を吐いた。なんとなく、彼女が強さを求めている理由がわかった気がした。

 

「戦士になりたいのに、司令としての数値が無駄にあるから、たぶんレフィって呼ばれてたんです。レフィンダーのレフィです。いっつも笑われてました」

「なるほど」

「……わたしって、司令を目指したほうがいいんですかね?」

「うーん」

 

 俺は答え方をいくつか考える。

 しかし浮かんでくる言葉が全て自分のためのように思えて、すぐに考えるのをやめた。

 

「まあ、神性が50を超えてれば司令の資格はありますけど、厳しいでしょうね」

「ですよね……」

「ここ左の道です」

 

 大きな通りからひっそりと分かれて、小さな看板が立っているわき道を指差した。

 

「……こんなとこに支部なんてあるんですか?」

「すごく小さな村ですけど、あるらしいですよ」

「らしい?」

「俺も初めてなので。結構歩きますよ」

 

 ものすごく不安そうな顔に、俺は込み上げる笑いを堪えた。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

「見えてきましたね」

「はー……」

 

 低い木の柵に囲まれた一帯を見て、レフィは感心するような声を上げた。

 

「ここがニトさんのおばさんの村ですか」

「いや、おばさんの町はもっと東の方で、ここよりは大きな町です」

「ああ、そうなんですね」

 

 ここに来る道中、なにとなく始まったお互いの身の上話はそれなりに彼女の記憶に刻まれているらしかった。

 レフィは自分の両親を知らないらしく、俺がおばさんのことを「育ての親」と表現したことにもなんとなく思うことがあったようで、特に深くは掘り下げてこなかった。俺も無理に話を広げようとは思わなかった。

 

「なんでこんな辺鄙なところに村を立てようと思ったんですかね」

「結構ずけずけ言いますね」

 

 彼女の物言いに俺が突っ込みを入れると、「い、いえ、ちょっと思っただけで……」と悪気のなさをアピールした。

 

「なんでも果物の実りがいいそうですよ」

「くだもの?」

「ほら」

 

 俺が指差した村の外れには大きな果物畑が広がっている。ちょうど農作業をしている村人のおじさんに遠くから軽く挨拶をすると、「うーい」とよくわからない声を上げて、手を振ってくれた。

 

「酒好きが集まるらしいですよ、ここは」

「お酒が好きなひとたちですか」

「果物酒です」

「なるほどです」

 

 あまり興味のなさなそうな顔に、「レフィさんはまだ飲めないですからねえ」と軽くちょっかいを入れると、「……でも成人はしてますもん」と口を尖らせてぶうたれた。

 

「たぶんあの、奥の大きめの建物ですね」

「あん、ほんとうだ。マークが描いてありますね」

「マーク?」

 

 俺は問うように、レフィは「あれ、知らないんですか?」というように顔を見合わせた。

 俺はもう一度、村の中で明らかにデザインが浮いている建物を眺める。しかしそれっぽい模様はどこにも見当たらない。

 

「あの、入り口っぽい扉のところです。とげとげとまるいのがくっついたみたいな」

「んー……?」

 

 目を凝らすが遠すぎてまったく見えない。

 あの扉の上部にある黒い点のことだろうか。

 

「あー、あれかー」

「あれです!」

 

 適当に合わせて歩みを進める。元々の視力の違いだろうか、それとも獣性による違いだろうか。何かの勘違いだという可能性もなくはないけれど。

 

「また検査とか、されるんですかね!?」

「俺は多分されますね……、どう、しました?」

「いえ……」

 

 建物が近づいてきて喜んだかと思えば、今度はローブをぎゅっと掴んで萎れている。

 忙しいなお前は。

 

「せっかくボルダーになれるのに、服……」

 

 しょんぼりとした声に、ああ、と俺は気付いた。

 残念なことに彼女が乙女であることを忘れていた。本当に残念で仕方ない。

 俺はせかせかと先を歩く。

 

「服のことはとりあえず置いておきましょう。先に契約です」

「わかってます。わかってますけど……、なにか戦士として仕事をこなさないと……。服を買えるのはいつになるか……」

「ああ、お金ないんですね」

「はっきり言わないでくださいよ!」

「別に、なんとなくわかってたんでいいですよ」

「うー……」

 

 丁寧に扱えとうるさいくせに、俺に買えと言わずに最初から自分で買うつもりなのが、なんともたくましい。それは彼女の中で別の話なのか、もしくは買ってもらうという選択肢が頭にまったくないという可能性もある。最初のパーティというのは、きっと基準になりやすい。

 

 村人に軽く挨拶をしながら建物に向かうと、先ほどまで黒い点に見えていたマークの形が、徐々にはっきりと見えてくる。確かにレフィの言うように、とげとげとまるがくっついたような形をしている。なるほどこれが協会のマークらしい。

 

「そういえば、ニトさんは検査があるって言いました?」

「そうですね、初めてなんで」

「初めて!?」

「初めてですよ。協会にくるのは」

「元々司令をしていたとかじゃないんですか!?」

「初めてですよ。協会にくるのは」

「あ、あんなに詳しそうだったのに」

「初めてですよ。協会に」

「もういいです!! わかりましたっ!!」

 

 彼女はぷんと横を向いてしまう。

 しばらく丸くなった頬を眺めていると、空気がぷしゅうと抜けたように萎み、今度はきょとんとした顔でこちらを見上げてきた。

 

「検査したことがないなら、なんでニトさんは自分に司令ができるってわかるんです?」

「……、……検査だけはしたことがあるんです」

「どっちですか!?」

「レフィさんと同じです。同じ。検査だけしました。思い出しました」

「なんか怪しいですっ!」

「思い出したんです。唐突に。突然に。まるで雷に打たれたように。それは青天の霹靂、黒焦げになり崩れ落ちた俺は自分の体の欠片を拾い集めるために」

「すいません何を言っているのかちょっと」

「冗談です」

「わかってますよ。それで、ニトさんの神性はいくつなんですか?」

「……レフィさんは、あの頬に傷のリーダーから指示を出されたことはないんですよね?」

「質問に質問で返さないでくださいよ」

「一応の確認です」

「……邪魔だとか、どけとか言われたことはありますけど、そういう意味では、たぶん、ないはず、です。契約自体したことがないので、そのはずです、それがどうかしたんですか?」

「俺の神性は67です」

「何のための質問だったんですか!?」

「粋なワンクッションです」

「イキでもなんでもないですよ……。それに67って……」

 

 言葉を探すように目を泳がせた彼女が、小さく肩を落としたことを俺は見逃さなかった。

 おい、こいつ!

 

「おい、お前いまがっかりしただろう」

「し、してませんが!?」

「いーや、がっかりしたね。『あれだけ言っておいて67だなんて、うちのリーダーなんて72もあったのに、貧乏くじを引いたって、ニトはゴミクズだ』って思ったんだろう!? お前この野郎。あ、違った。違いました。あなた、あなたこの野郎!」

「なんですか『あなたコノヤロウ』って!? 言葉遣いが酷すぎます! せめてどっちかにしてください! ゴミクズだとか、そんな失礼なこと思うわけないじゃないですかっ!?」

「いや思ったね。間違いなく思った。多少は思ったはずだ。多少な。自分は、適正のことを言われるのを嫌がってたくせに。自分は、適正のことを言われるのを、嫌がって、いたくせに。自分は適性のことを言われるのを嫌がっていたくせに」

「三回も言わないでくださいっ! 思ってないです! 思ってないですうっ!! わたしはそんなじゃないですっ! あと言葉遣い直してください!!」

「わかった。わかりましたよ。あなたは、とても、とてもだ。とてもあなたはとてもだ」

「とても、なんですか!?」

「あなたはとてもです」

「とてもの意味がわかりません! ニトさんは馬鹿ですね!? 馬鹿に違いないです! ばーかばーか!!」

「あっ、悪口! レフィさんそれはとても! とてもレフィさん!」

「馬鹿ー!! ばかばかばか!!」

「とてもとても」

 

「……お二人さん、何やってんだ」

 

 白い髭が渋い、年配の男性が呆れたように言った。

 すでに扉の前。俺たちはいつの間にか入り口に到着していたらしい。

 

 

 

 

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