第2回 触れない男と宝石少年

## 概要

今回の作品はこちらです。


・触れない男と宝石少年

http://ncode.syosetu.com/n3920fv/


作者は染井吉野さんです。

https://twitter.com/SOMEI_YOSINO_


近未来ファンタジーものです。3部構成になっており、読んだのは2部までです。第2部に入ってから物語が本格的に動くのですが、2部の戦闘シーンや推理パートが良かったです。モンスターやら人外やらが好きな人におすすめできます。


ではネタバレありでのあらすじです。



## あらすじ

25年前の「大侵攻」以来、モンスターの現れるようになった東京。そしてそのモンスターによる襲撃を撃退した英雄YASUMA。現代では、その英雄YASIMAの技術を流用した宝石人形(ジュエリードール)が愛玩人形として存在していた。

主人公の六男はある日、廃棄場で真新しいジュエリードールが捨てられているのを見つける。彼はそのジュエリードールを回収し、サンズと名付ける。サンズと接するうち、彼には従来のジュエリードールにはない特徴が多くあると分かる。自我があること、感情があること、初期化の物理スイッチがないこと。

ある日六男は暴走したモンスターを止める。その後ネット掲示板で戸籍を売ると持ちかけられるが、出向くと、謎の男にサンズが攫われたと分かる。実は先のモンスターを止めた際、自らの正体が吸血鬼であることを捉えた写真を取られていた。それが出回り、戦闘狂である謎の男に狙われてしまったのだ。

六男は奪い返そうとするが打ち負かされ、また、姿もくらまされてしまう。友人の自宅で体制を整えた六男は、サンズを攫った男がN社CEOの七部陸児だと突き止める。六男の正体を暴く写真をとった張本人・一女の支援を得て七部と連絡をとり、再び合間見えた六男は七部を打ち負かし、サンズを取り戻す。



## 感想と分析

導入が『アリータ:バトル・エンジェル』みたいでしたね!


作品自体について真面目に感想を言うと、まず、地の文が上手ですね。本作は独特な世界観であり、第1部はその世界観やキャラクターを描くことに費やされています。なのであまり動きはないのですが、地の文が上手なので読んでいて苦にならなかったです。

また、第2部に入り物語が動き出してからもその地の文の上手さが活きていて、戦闘シーンでは映像的な印象すら覚えます。こういうアニメのシーンありそ〜と思いながら読んでいました。

メインストーリーは第2部以降ですが、第2部の推理パートや戦闘シーンはぐいぐいと読まされました。


脚本術の観点からストーリー構成について言及するなら、導入の描き方を修正することが出来ると思います。独特な世界観のお話を作るとき課題になるのが導入の難しさです。世界観やその世界で生きる人々を描こうとすると、どうしても序盤が冗長になりがちなんですね。このお話の導入部分を箇条書きにすると、


1. 六男がサンズを拾い、介抱する

2. 六男の闇稼業をサンズが見つけてしまう

3. 六男がサンズを始末しようとする

4. 犬のモンスターがサンズを襲う

5. 犬のモンスターから六男がサンズを助ける

6. サンズを始末することはやめて、一緒に暮らす

7. 以降第2部まで世界観の説明や生活のパート


という感じです。そしてこの感想の冒頭にも書きましたが、この入り方は『アリータ』(映画版『銃夢』)と似ています。具体的には、男が高性能なロボットを拾い、介抱するが、実は男は悪役なのではないかと……という導入の描き方です。


そして対象的なのは、この疑いが晴れたあとの展開です。本作では世界観の解説と生活のパートが始まりますが、銃夢では『真の悪役との闘いに身を投じる』というメインストーリーが始まります。このお話がどんな話なのか? というのがここで明らかになり、世界観が独特な作品にも関わらず序盤の展開が冗長になることを防いでいます。


『アリータ: バトル・エンジェル』自体は評価が分かれる作品ですが、導入とその後の展開、そして世界観構築において参考になるところが多いと思いますのでおすすめです。


以上!!

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