経験値が『1』に固定されるけど最強だった。

ぴよぴよ

1.プロローグ

 授業開始のチャイムが鳴り響き、教科担任の吉岡が教壇に立って黒板にチョークを立てる。

 俺はそれをいつも通りノートに書き写し、教科書の問題に取り掛かる。

 と、騒がしくなり始めた教室内に吉岡が。


「プリント持ってくるの忘れたから静かに練習十二に取り組むようにな」


 それだけ言って教室を出て行った。

 吉岡が教室からある程度離れた所で、一軍気取りの連中が騒ぎ始め、昼休み並みの騒がしさを取り戻した。

 だが俺としてはこのくらい騒がしい方が、声を出す勉強法が使えるからむしろありがたい。

 と、そんな事を考えながら教科書に書かれている公式を小さめの声で読み上げていると、視界外で何かがチカチカと光っている事に気付いた。

 

 疑問に思い、そのチカチカと光るものに目をやると、いつの間にか魔方陣のような物が床に描かれ、一定周期で点滅が起きている様だった。

 周囲の反応を見ると、騒がしい連中も流石に気付いたらしく、何だ何だとさっきまでとは違った喧騒が教室内に響く。

 俺は誰がこんな高度なイタズラを仕掛けたのだろうと、こういう事をしそうな学力が学年一位で知られる古川に目をやるが、全然気づく様子も無くノートにペンを走らせていて、正にいつも通りだ。

 次に週に一回程度のペースで何かしらのイタズラを仕掛ける阿久津の様子を見ようとした所で点滅が急に早くなり始めた。

 しかも光の強さも上がっている様で、目を開けていられず、俺は思わず目を閉じた。


 瞬間、眩い光が瞼を貫通して眼球を焼き尽くさんとばかりに襲いかかって来る。

 急いで腕で目を庇うが、それでも隙間から漏れて来る強力な光に、失明も覚悟したが急に光と痛みを感じなくなった。

 恐る恐る腕を退かし、瞼を開くとそこは――


「森? 何で?」


 そう、森だ。

 鬱蒼と茂り、所々で木漏れ日が差し込む光景はとても美しいが今のこの状況でそんなことを言っていられない。

 一体どういう事だ? さっきまで教室にいた筈なのに、何で森の中なんだ?

 脳が混乱を極める中、少し離れた所に居るファンタジーオタクの小野が興奮した様子で。


「皆、これって異世界転移ってやつだよ! 証拠に、『ステータスオープン』って叫べばが自分のステータスが見れるんだ!」


 そんな、訳の分からない事を――


「ほ、ホントだ! なにこれ、すげえ!」


 俺の脳が話に付いていけないでいると、真横に立っていた騒がしい連中のリーダー格と言っても良い半田が歓声を上げた。

 見ると、確かに半田の目の前にパソコンのウィンドウのような物が現れ、何やら色々書かれている。

 俺も混乱する気持ちを抑えて、試しに小野の言っていた言葉を口にしてみる事にした。


「ステータスオープン!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:ヨツイ アオト

年齢:18

レベル:3

スキル:

【言語理解 LV:5】【経験値固定 LV:MAX】


称号:

【星之呼子】

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 おお、本当に出て来た。

 一瞬、未知の経験に感動しそうになるが、スキルの欄に書かれている意味の分からないスキルに首を捻る。

 【言語理解】は良いとして、【経験値固定】とは何だろうか。

 レベルがマックスと言う事は相当強いのだろうが、固定されるって事はどんな敵を足しても同じ量しか手に入れられないと言う事か?

 俺は不安を覚えながら、小野が指示していた通りに、そのスキルの文字をタップする。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【経験値固定】

・全て経験値を『1』に固定する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 つまり、滅茶苦茶強い敵を倒しても、ネズミみたいなのを倒しても経験値は同じって事か。…………詰んだな。

 慌てて辺りを見た渡すと、何やら輪になって集まっていた。

 俺を含めた目立たない数人はまだその輪に入っていないが、見ていると小野が中心となって今後の事を話し合っているらしい。

 急いでその輪に俺も近付き、聞き耳を立てると。


「多分この世界は剣と魔法のファンタジーみたいな、俺がよく読む小説と同じ要素が色々含まれている筈だ。だからこの森の中には魔物って呼ばれる危険な生き物が出て来る可能性が高い。だから、これからみんなのスキルを確認して、布陣を決めよう」


 普段は教室の隅でラノベを読んでいるだけだった小野が、今日に限って輝いて見えるのは何故だろう。

 他の皆を見回すと、そう思っているのは俺だけでは無いようで、感心した目を向けている。


「それじゃあ、出席番号順にスキルを教えて」


 小野の言葉に、出席番号一番の安藤が、


「俺は【武器生成】ってスキルだった。さっき試したらこんなの作れたよ」


 小型のナイフを差し出しながら言った。

 それに皆が歓声を上げ、逆に俺は不安が湧き出る。

 大丈夫だ、俺。きっと俺みたいに雑魚いであろうスキルを持っている奴が一人はいる筈だ。

 

 だが、そんな自身への慰めは空しく、俺を除いた全員の持つスキルは強力な物ばかりだった。

 殺した敵の能力を奪える【強奪】、成長速度を百倍にする【成長超加速】、全ての能力値を大きく上昇させる【勇者】――――チート級の物しかない。


「次、四居君だよ。黙ってないで教えて?」


 急かして来る小野に覚悟を決め、俺は口を開く。


「あ、うん……経験値を一に固定する【経験値固定】だった」


「…………は?」


 小野が間抜けな顔を晒し、聞いていた皆も何を言っているんだという目を向けて来る。

 間抜け顔から信じられないと言いたそうな顔になった小野を押しのけて、半田が俺の胸倉を掴んだ。


「おい、今はふざけてる暇なんて無いんだよ。ちゃんとスキルの名前と効果を言えって!」


 真顔で怒鳴って来る半田にしかし、俺は一歩も引けない。


「ふざけてなんて無いよ。俺のスキルはこの意味わかんねえスキルなんだよ」


「――――」


 俺の反論を受けて黙り込んだ半田は手を放し、二歩下がった。

 目だけ動かして周囲を見ると、信じられないとでも言いたげな目を向けて来る女子や、使えねえと陰口を叩く連中が視界に入った。

 ああ、これって邪魔だからどっか行けとか言われる感じか? ちょっとそうなると生きていける気がしないな。

 と、半田の後ろにいた小野が顔だけひょっこり出して。


「悪いけどさ、今の俺達って一人でも役に立たない人間が居ると最悪全滅するかもしれないんだよね。だからさ、悪いんだけど……一人で行動してくれない?」


 やっぱりか。

 味方をしてくれる人はいないのかと、冷たい目を向けて来るクラスメイト達に目をやるが、目を逸らしたり、不快そうに眉を歪めるばかりで、どうやら小野の意見に全員賛成らしい。

 まあ、この糞みたいなクラスメイト達と一緒に死なないで済むなら別にどうだって良いか。

 俺は自分を無理矢理納得させ、全員に背を向けてその場を離れた。 

 少しだけ、誰かが引き留めてくれるのでは無いかと期待しながら。


 背中に視線を感じなくなった頃、ようやく俺は後ろを振り返った。

 案の定、誰かが付いて来ているなんて事は無く、完全に見捨てられたのだと悟った。

 こうなったら意地でも一人で生き延びて、ファンタジー物語の定番であるハーレムとか言うものを築いてやろう。

 不安を拭おうとそんな事を考えて道を進んでいると、近くの茂みが揺れた。

 そして何となく、周囲に四匹の狼がいるのを感じ取った。

 ……今日の俺はやけに冴えているな。何で狼の位置を何となくでだが察知出来るんだ?

 疑問に思いながらも周囲を見渡していると、背後から狼が飛び掛かって来るのを感じ取った。

 反射的に振り返り、鋭い牙を覗かせる狼に回し蹴りを食らわせる。

 腹にヒットした狼は唾液を吐きながら地面を転がり、木にぶつかった所で止まった。

 だが俺の胸中は困惑で満ちていた。


 何故、こんな動きが出来たのだと。


 俺は武術すら習った事が無いのに、顔の高さの狼を蹴り飛ばせてしまった。

 しかも、自分でも驚くほどの威力で。

 その威力がかなり高い物だったのは地面に横たわったまま動かない狼と、警戒して攻撃を仕掛けて来ない狼達の様子からも察せる。


 ――【経験値固定】が何かしたのか?

 

 いや、と俺はその考えを振り払う。

 何故経験値を『1』に固定するだけのスキルが俺の体を強化出来るのかと、俺が森の中を一人で彷徨う原因を作り出したこのスキルが何を出来るのかと。

 だがそれを否定してしまうと、この今の状態に説明が着かない。

 

 一人思案していると、狼達の殺意が一斉に俺に向けられるのが感じられた。

 体が反射的に構えると同時、囲い込むような布陣を作っていた狼達が一斉に俺に向かって飛び掛かって来た。

 

 俺は周囲がスローモーションのように見える事に内心驚きながらも、正面から掛かって来る狼に接近して前足を掴み、斜め後ろから迫って来ている狼に向けて投げ飛ばす。 

 何の抵抗も出来ぬまま投げ飛ばされた狼が、空中で身動きの出来ない別の狼にぶち当たり、骨の折れる音が鳴り響く。

 

 それと同時、スローモーションの様だった視界が元に戻った。

 敢えて無視した狼に目をやると、ぽかんと口を開けて、空中で体をぶつけられ、気絶している二匹の狼を見つめている。

 すると狼は尻尾を力なく垂らし、恐る恐ると言った様子で後ろへ下がり出した。

 

「待て」


 俺が静止を呼びかけると言葉が通じたのか、狼は体を震わせながらもその場に留まった。

 一歩近付く度体をビクっと震わせる狼に俺はゆっくり近付き、


「森の外まで、案内出来るか?」


 藁にもすがる思いで頼み込んだ。

 狼はやはり言葉が通じているのか、コクリと頷いて体を震えさせながら俺の前を歩き出した。

 もしこれでこいつがしっかりと案内してくれれば、奴らより先に森を抜けて、人の居る場所に助けを求められるかもしれない。

 と言うか、そうでないと色々困る。


 不安と期待の入り混じった物を感じながら狼の後を歩いていると、さっきの事を思い出した。

 スローモーションのように世界がゆっくりと動いたこともそうだが、数十キロはある狼を片手で投げ飛ばせるようにまでなっていた。

 俺、間違いなく強くなってるよな。


「ステータスオープン!」


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名前:ヨツイ アオト

年齢:18

レベル:96

スキル:

【言語理解 LV:6(UP:1)】【経験値固定 LV:MAX】【生命感知 LV:6(NEW)】【思考加速 LV:5(NEW)】【打撃術 LV:3(NEW)】【テイム LV:3(NEW)】【意思疎通 LV:1(NEW)】


称号:

【星之呼子】【テイマー】【急速成長】


配下:

【フォレストウルフ LV:16】

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 ……は?

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