第6話 僕は異世界で彼女と喧嘩した

  夕方、僕はジムでスポーツチャンバラの練習に励んでいた。これは異世界における戦闘訓練も兼ねている。剣道部はどうかって?部活動は苦手だ……


  1時間ほど汗を流して、休憩してたら、頭の中から声が聞こえてきた。


『汝、我が求めに応じ現れたまえ… …』


 またか… …


 僕はスポーツチャンバラのゴム刀を持って、道場を出た。


『出でよ、ハルアキ!』


 次の瞬間、僕は店が並ぶ街道にいた。街並みは中世のヨーロッパ風。僕の目の前には5人の男たちがいる。立派な装備をした冒険者のようだ。


「ハルアキ助けて!そいつら、私を口説こうとしてるのよ!」


 後ろからチヒロさんが叫んでいる。僕は黒い刀を男たちの前に向けて構えた。すると、男たちは慌てて両手を振った。


「いや、待ってくれ… …、俺たちはただそのお嬢さんに宿の場所を聞いただけなのだが… …」

「そうやって、宿まで連れてったら、今度は部屋まで案内してって言って、しまいには私を襲う魂胆なのよ!いくら私が絶世の美少女だからって!」


 男たちの慌てた様子を見る限り、嘘はついていない模様だ。僕はチヒロさんをなだめるため、振り向いた。


「チヒロさん、落ち着いて。この人たち本当に宿の場所聞きたいだけかもしれないし、僕も一緒なら、宿まで行っても襲われることないでしょ?」

「わ、わかったよ、ハルアキがそういうなら宿まで案内するわ。ただ、ハルアキ、ちゃんと私を守ってよ」

「はいはい、ちゃんと守るから」


 僕は刀をしまい、チヒロさんとともに冒険者たちを宿に案内した。

 チヒロさんはずっと僕の腕にしがみついている。柔らかい胸のふくらみを腕に感じた。


「ハルアキ、なにニヤついてるの?」

「ご、ごめん」


 僕は慌てて気を引き締めた。宿に着くと、冒険者たちは、


「案内ありがとう」


 と一言言って、そのまま別れた。冒険者たちと別れた後もチヒロさんは口を尖らせていた。


「ハルアキ、聞いてよ。私がさっき『絶世の美少女』って言ったとき、クスって笑ったヤツがいたのよ。失礼しちゃう!」

「気のせいだってば」

「そんなことないよ、絶対笑ってた。こんなにカワイイのに、あいつらの美的センスを疑うわ。ハルアキは私のことカワイイって思うでしょ」

「あ、う、うん… …」


 僕は言葉を詰まらせた。


「何⁈ ハルアキ、私のことカワイイって思ってないの⁈」

「そ、そんなことは… …」

「じゃ、なんでそっけない返事するの?もう、ハルアキのバカ!」


 バシッ!


 チヒロさんは僕の頬を思い切り叩き、強制的に僕を元の世界に帰した。


 運良く元に戻ったスポーツチャンバラのゴム刀を持ち、僕は黙って道場に戻った。

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