第30話 魔族の流儀3
「貴様から血祭りにあげてやるわ!」
ランドルフはそう叫ぶなり、ふてぶてしく腕を組むローランドへ向けて突進した。
だが――。
「てめぇの相手はこの俺だ」
その途中で、黒い暴風が横殴りに襲い掛かってきてランドルフは弾き飛ばされる。
「くっ! ダークトロール如きがッ!」
「テメェはその如きに膝をつくんだよ!」
長身のランドルフだが、スティールはその彼より1mは高い超長身、それは一見すると大人と子供の戦いのように見えた。
「邪魔立てするなら容赦せん! 我が魔剣の切れ味、その身で味わってみるが良い!」
「そんななまくらで、この俺の鋼の肉体、切り裂けるものなら切り裂いて見ろ!」
「ランドルフ様! ここは私に!」
魔剣を構えるランドルフと、拳を構えるスティールの間に、ひとりのドレイクナイトが割り込んできた。
「邪魔だてめぇは!」
だが、彼はスティールの砲弾のような拳に、一撃で吹き飛んでいく。
「貴様!」
大振りの拳、その隙にランドルフが刃を振るうも、スティールは巨体に似合わぬ敏捷さでそれを素早くかわして見せた。
「そんなものか男爵ってのはッ!」
「おのれッ!」
こうして剣対拳の対決が開始された。
★
「なんじゃあやつ、半数は請け負うと言いながら、釣れたのは男爵と1~2匹ではないか。
まっそれが戦場の常というものかのう」
ローランドはそう言いながら、魔剣を構えた。
「さて、余はいつでも大丈夫じゃぞ? 時間の無駄じゃ、とっととかかってくるが良い」
ローランドはそう言って、自らをぐるりと包囲しているドレイクナイトを挑発する。
「貴様のような半端者がッ!」
ローランドを包囲した5人のドレイクナイトは、彼に向けて一斉に魔力の矢を打ち出した。
「様子見か? 生ぬるい! 来るなら初手から全力じゃろうがッ!」
ローランドはそう叫ぶと、魔剣をぐるりと一閃する。それによってはじき返された攻撃は、そのまま本人たちの元へと帰っていく。
「シャッ!」
ローランドは自らがはじき返した矢の後を追うように、正面の敵に向かって切りかかって行った。
★
「畜生! あっちは苦戦している様だ! 俺たちも――」
「まぁまぁ、ちっとは俺たちと遊んでいこうぜッ!」
ドレイクナイトのひとりがヴァンから視線を外した瞬間だ、ヴァンは敵の懐へと一気に踏み込み、渾身の前蹴りを叩き込んだ。
「ぐはッ!」
突撃の勢いが加算されたその蹴りは、ドレイクナイトの鳩尾に突き刺さり、彼は苦悶の声をもらす。
「くっ! この狗畜生がッ!」
「余所見ハ、厳禁デス」
相方が攻撃を受け一瞬注意がそれた時だった、トーニャの魔道ライフルから弾丸が発射され、彼の足を貫いた。
「ぐあッ!」
「殺ス事以外ハ、何ヲシテモ良イト、リーダーカラ、許可ハ、頂イテオリマス」
トーニャは人造人間らしい無表情さでそう言った。
★
「おーおー、始まった始まったー! わいとっちはどう見るー?」
「まっ、あの筋肉バカも居る事だし、前哨戦は問題ないでしょ」
ふたりはポップコーンを食べながら、呑気にそう分析をしていた。
敵ドレイクナイトは決して弱くない、それどころか魔族のエリート種なだけあって、その剣技や魔法は強力無比とも言えるものだ。
だが、ローランド達は彼らを圧倒していた。
ヴァンとトーニャの即席コンビはヴァンが回避盾としてふたりのドレイクナイトを翻弄し、その隙にトーニャが正確無比な銃撃を叩き込む。
スティールは、その恵まれた体格とスピードを生かし、一撃必殺の攻撃を連続して叩き込む。
ローランドは、幼き頃より培ってきた武の結晶を、余すことなく見せつける。
前哨戦はローランド達の完勝と言えた。
そう、前哨戦は。
「くっ! このままでは埒が明かん! 貴様ら! 本気で行くぞ!」
「了解!」
ランドルフの号令に、ドレイクナイトたちが一斉に答えた。
そして、彼らは魔剣を自らの腹に突き刺したのだ。
「さて、ここからが本番よな、貴様ら! 注意しろ!」
その様子を見て、ローランドは警戒の指示を出す。
ドレイクにとって自らの魔剣は、心臓と同じもの。
それを取り込んだドレイクがどうなるのか?
その様子は直ぐに表れた、彼らの体はめきめきと音をたて、巨大な竜へと変身したのだ。
★
「くおおお! これがドレイクの竜化か! 初めて見たぜ!」
「右、ブレス来マス」
「了解!」
天を舞うドラゴンに打つ手のないヴァンは、動きの遅いトーニャを背負い、必死になって2頭の竜から逃げ惑っていた。
「通常弾、効果無シ、致命弾ヘ変更」
「何でもいいから早くやってくれ!」
「了解、リロード完了――ファイヤ」
トーニャは激しく揺れるヴァンの背中に有っても、銃身をピクリとも動かすことなく銃弾を打ち放つ。
それは竜の攻撃の隙を突き、的確に彼らの翼を撃ちぬいた。
皮膜に穴が開いた程度なら何とかなったかもしれない。だが、トーニャの正確無比な弾丸が打ちぬいたのは翼を支える骨格だ。
彼らは翼をへし折られ、地面へと叩き付けられる。
「ナイスだトーニャ! これで俺の手が届く!」
ヴァンはそう言うとトーニャを投げ捨てるように降ろし、地に落ちた竜の頭部へと飛び蹴りを放った。
「タコ殴りタイムの始まりだッ!」
★
「切り捨てられたい奴からかかってこい!」
地上戦となったヴァンたちとは対象に、ローランド達は空中戦を繰り広げていた。
先行するローランドを追うように、3頭の竜が宙を舞いながら、光り輝くブレスを放つ。
(くっ、先の戦いでふたりしか減らせなかったのは誤算じゃったのう)
ローランドはブレスの合間を縫うように飛びながら、暴風雨のような攻撃をかわし続ける。
竜鱗は鋼のような強度を誇っており、並大抵の攻撃では効果が無い。ローランドは魔剣に魔力を貯めながら、その時を待っていた。
幾度目かの攻防の末、その時は訪れた。
飛燕のように軽やかに飛び回るローランドを追い続けるうちに、3頭の竜は一直線に並んだのだ。
「今じゃ! 死ねいッ!
あっ! いや! 嘘! 死ぬでない、適当に耐えよ!」
ローランドは振り向きざまに貯めに貯めた魔力を一気に解き放った。
★
「ぐふふふふ。てめぇは、ハエみたいに飛び回らなくていいのかよ?」
スティールは他の竜よりも一回り巨大な竜を見上げながらそう拳を鳴らす。
『貴様ひとり叩き潰すのに翼はいらぬという事だ』
「上等だ! かかってこい!」
『大地の滲みとなれ!』
ランドルフはその巨大な口から光り輝くブレスを放射し――
「おせぇ!」
だが、スティールはその直前に、ランドルフの顎下へと潜り込み。強烈なアッパーカットを打ち上げた。
ガチンとトラバサミが閉じる様な音がして、ランドルフの顎が強制的に閉じられる。
そして、放射しようとしていたブレスが行き場を無くし、彼の口内で爆発する。
「まだまだ! この程度じゃねぇよなぁ!」
スティールは大きく拳を振りかぶって、それを全力でランドルフの腹部へと叩き込んだ。
スティールの攻撃は単純だ、大きく振りかぶって全力でぶん殴る、それだけだ。だが、その迷いのない単純明快な攻撃こそが彼の最大最強の必殺武器であった。
『ぐうぅ……』
ナイトクラスであったら致命傷となる攻撃を立て続けに受けたランドルフは、くぐもった声と共によろよろと引き下がった。
★
「おーおー、結構やるじゃない。正直な所、あのウェアウルフの坊やたち位は死んじゃうと思ってたわ」
「あははー。わいとっちは見る目が無いなぁ、若しくは人族を嘗めすぎだよ!」
「うふふふ。そうかもね、嬉しい誤算だわ」
ふたりはギャラリーの最前線でポップコーンをつまみながら自分勝手な感想を述べ合った。
決着の時は直ぐ傍にまで迫っていた。
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