第8話 炎と魔女と少女達

日が暮れて、私が家に帰って来た時、そこには大きな炎があった。

今もなお、猛々しく燃え盛る炎が。

そしてそれを取り囲むように、街の大人達が立っていた。


「お前達!何をしている!」

抑えることのできない怒りが、腹の底から湧いてくる。

その声を聞いた大人達は、一人残らず顔を青くした。

自分達の犯した、重大なミスに気づいて。

「おい!何で魔女が家の外にいるんだ!」

「ちゃんと確認したんじゃ無いのか!」

「ちゃんと人影が2つあるのを確認した!」

「2つ!?魔女が拐ったのはリリーとレイナの二人だ!」

「なに!?じゃあ今あの中にいるのは……」


そんな声を聞きながら、私の中の怒りは、遂に形となって現れた。

炎を取り囲む人々を、魔法が蹂躙していく。

地面から突き出した杭が体を穿ち、吹く風が肉を裂き、舞う岩が次々と人を潰していく。


凄惨な魔法の嵐が止んで、私は炎に向かって歩いていく。

家が崩れ始めた頃、やっと沈み始めた炎の中で、小さな人影が2つ見えた。

それを見つけた瞬間、私は走り出す。

すぐに二人の側に駆け寄って、言葉を失った。


朝日が登り始めた中で私が見たのは、倒れた棚に下半身を潰されたリリーと、その横で泣き続けるレイナの姿だった。

「ねぇ、魔女様」

もうしゃべるのも辛いだろうに、リリーが口を開く。

「何?」

「大好きです…」

貴女は最後までそうなのね。

でも、いつからか私も貴女にそう言われるの、結構嬉しかったのよ。

「私も好きよ」

「じゃあ、両思いですね……」

リリーが笑う。

「そうね…」

「魔女様……名前、呼んで下さい……」

苦しそうに、リリーがそう言って目を閉じる。

「ええ……リリー」

「………………」

「貴女はいつも、私の言うことを聞かないのね……」

リリーが満足そうな笑顔のまま、呼吸を止める。

それを看取った時、私の指先が灰になっていく。

あの時と同じ、でもあの時とは違って、二度と貴女の声を聞けないのね。

恨み事でも何でもいいから、声が聞きたいわ。


ああ、そうか。

あんなに探し求めていた恋は、こんなにもちっぽけな物だったのか。

何かを貰えるだけで嬉しくて、好きだと言われるだけで心が軽くなる。

でも、声が聞けないだけで、肌に触れられないだけで、死ぬより苦しいなんて。

どれだけ触れたいと願っても、もう腕は灰になってしまった。

もう愛しい人を抱き締める事もできない。


そうだ、最後にお願いをしなくちゃ。

「レイナ、貴女に頼みたいことがあるの?」

「何でも言って下さい!魔女様!」

まだ泣き続けているレイナが言った。

「……じゃあ、お願い」

「私の日記と、リリーがくれたワスレナグサの花束、貴女が持ってて」

「わかりました」

「それと、リリーの事を忘れないでいてあげて……」

「はい!」

私はレイナに優しく微笑み、朝日を浴びながら灰になった。





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