第3話 魔女と少女

はぁ、今日も恋人は見つからなかった。

毎日毎日、街のために働いて好感度を稼ごうと思ったんだけど、全然私を好きになってくれる人が見つからないのよね…


「なんで誰も私を愛してくれないのかしら…」

はぁ、とため息をつく。

すると私を支えている小さな人影の1つが私に言う。

「私は魔女様の事大好きですよ!」

まだ幼い、15に満たない少女の言うことだ。

"好き"という言葉の意味も、まだ分かっていないのだろう。

彼女の"好き"は、きっと"憧れ"に近いものだ。

「リリー、魔女様を困らせちゃダメだよ」

「レイナだって魔女様の事好きでしょ?」

「…私の好きは恋愛の好きじゃないから」

同じ年でもこっちの子はしっかりしてるのね。


そうこうしている内に私の家に着く。

家に入って、すぐベッドに横になる。

「私は少し寝るわ」

「はい、おやすみなさい、魔女様」

「貴女達も早く帰りなさい」

「はーい」

その声を聞いて目を閉じる。

その時に、『レイナは先に帰ってて』などと聞こえた気がしたが、まあいっか…

お酒を飲んだせいか、まぶたを開けているのも疲れる。








……どれくらい寝ていたのか。

まだ泥水の中にあるような意識を、無理やり覚醒させる。

時計を見ようと辺りを見回すと、膝の上に"何か"が丸まっていた。

「……あなた、何してるの?」

声をかけると、膝の上で丸まっていた"何か"、リリーが体を起こす。

「うぅぅ…」

「あっ、魔女様おはよーございます…」

眠そうに目を擦りながらリリーが言う。

「おはようじゃ無いわよ」

「お友達は帰ったみたいだけど、なんで貴女はまだいるの?」

そう言うとリリーは少し困った顔をして、

「だって家に居ても楽しくないんだもん」

まあ、何でもいいか。

「ほら、そんな事言ってないで早く帰りなさい」

「嫌です!」

「いつまでもここに居られるわけじゃないのよ」

「じゃあ、魔女様のお話を聞かせてくれたら帰ります!」

「私の話?」

「はい!今まで魔女様がどんな風に生きてきたのか、何を考えて生きているのか、どうしてそんなに恋をしたいのか!」

「そんな事聞いても楽しく無いわよ…」

「好きな人の事なら、どんな事だって知りたいんです!」


私の何がそんなに好きなのか。

自分で見ても、こんな子どもに好かれるような所を見せた覚えはない。

恋人を探して、お酒を飲んで潰れて、その繰り返し。

でも、こんな子どもからでも、好かれるというのは悪くない。


「まあ良いわ、それを話したら帰ってくれるのね?」

「約束します!」

「私もさすがに今までの事を全部覚えてるわけじゃないから、日記を見るわね」

「日記?」

「そう、日記」

私はベッドの上にある棚へと手を向けて、一冊の日記を手元に寄せる。

とても分厚いその日記を開いてリリーに見せながら、

「私の日記は私の全てを記録してくれるの、私が生まれてから死ぬまでの全てをね」

「まあ、死ねないから恋人を探してるんだけど、その話も含めて話すことにするわ」

「少し長くなるから、覚悟しなさい」


そうして私は語り始める。

私が生まれてから、今日に至るまでの全てを。

思えばこれが、私の事を誰かに話した初めての夜だった。


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