ザラディン1
ザッザッザッザッザ!!
ザッザッザッザッザ!!
荒野を行軍する兵士たち。
その歩みは確かで、速度は速い。
彼らはみな一様に、おそろいの紋章をつけた装備で身を固めている。
紋章は荒野の端に位置する地方都市国家『リリムダ』男爵家を表すものだった。
総勢1000名の大軍勢。
うち騎士は50ほどで、唯一騎乗している重武装の兵たちだ。
残りは比較的軽装に身を固めた雑兵たち。
彼らは、みな、兵役を収めたばかりの男たちで構成された臨時の軍隊だった。
……そんな彼らが行くのは、リリムダと荒野を挟んで反対の街──ベームス。
そこに、荒野を突っ切り、数日かけてのベームスに到着しつつあったのだ。
「ふふふ。……圧倒的ですね」
「ふん。かき集めてやったともさ」
その軍勢を見下ろす影が二つある。
言わずと知れた勇者ジェイスのパーティメンバー──ザラディンだ。
そして、もう一人。
痩せぎすで落ちくぼんだ目の男が。ギョロギョロとさせながらベームスの街を見下ろしている。
この男、胸には男爵家を示す紋章のついた胸甲と、騎士らしい装備が一式。
……そう、この痩せぎすの男こそ、荒野の反対に位置する街を治める貴族。
リリムダ・ド・シュルカン男爵である。
彼らはいまや、ベームスの街を一望できる小高い丘におり、不敵に笑いつつ、侵略されようとする街をみていたのだ。
「ふんっ。口車にのられてやったが、本当にいいのだな? 我らがあの町を略奪しても?」
「構いませんよ? この語占領するなり焼き払うなりお好きになさい。私の目的はただ一つ──」
そう。ザラディンが再び荒野を超えてこの街にやって来た目的はただ一つ。
「アルガス……といったか? 我が息子を倒した男は?」
「えぇ、我らの配下ですが、悪魔に魂を売った極悪人ですよ──われわらはその責任としてアナタに協力しているまでです」
ふん。よく言う──と顔を歪める男爵。
だが、すぐに顔を愉悦に染める。
「まぁいい。
王国法では仇討を認めている。
それが、たとえ街ぐるみであっても──だ。
むしろ、王国では反乱やクーデター騒ぎを起こした町など厄介なのだろう。
だから、貴族たる男爵にと仇討の許可を出したらしい。
それを知った男爵がこうして、軍を率いて荒野を渡って来たのだ。
もちろん、普段は魔物に阻まれてそう簡単にはいかなかっただろうが、ザラディンからの情報で現在魔物の群れが発生していないことをつきとめ、こうしてえっちらおっちらやってきたわけだ。
「くくく。無防備な街など赤子の手をひねるようなものよ」
男爵がニヤリとと笑う。
……そのためにまずこの丘を占領したのだ。
緊要地形──そして、観測点。
ここより優れた場所などない。
「ベームスの街では、たしか『名無しの丘』と適当によんでいたな」
顎を撫でながら記憶を探る男爵。
「名無しの丘ですか。くくく──アルガスさんのお墓にはぴったりじゃないですか」
キランッ! とメガネを光らせつつ、ひとりごちる。
……どうやら、軍事上においてこの高地は実に重要な地点にもかかわらず今も兵力は皆無らしい。
まさか、軍隊が攻め込んでくるとは夢にも思っていないのだろう。
街の防衛はモンスターに対してだけ。
それもいわは代官の軍が壊滅してからは、せいぜい勇士の自警団くらい。
とてもではないが、男爵の軍には勝てないだろう。
それこそが狙いだ。
レギオンを倒したアルガスに正面で挑んでも勝てないかもしれない。
だから男爵軍をまずぶつける──そして、力量を探るのだ!
「……くっくっく! さぁ、感謝なさいアルガスさん。わざわざ荒野を渡って戻ってきてあげましたよー!」
ぎゃはははははは! 笑うザラディンを冷めた目で見る男爵。
「ふん。ご機嫌だな──ザラディンくん。……それにしても、ま~ったくの無防備極まりないな。……こんなチンケな街に我が息子は討たれたのか?」
「さようで……。裏付けは取れておりますよ───男爵、殿」
男爵と呼ばれた男は鼻を鳴らして、ザラディンの言葉に首肯する。
「分かっている。……まったくどうしようもない、ドラ息子だったが、死んでからも迷惑をかけるとは───」
「なにをおっしゃいます。立派な統治者でしたぞ。それを不当に殺害せしめたのは悪辣非道な戦士アルガスです」
それに追従するのは、言わずと知れた勇者パーティ「
ふん。と鼻を鳴らした男爵。
「知った風な口を。アレのできの悪さは私が一番よく知っている。だが、もうどうでもいい。アルガス何某は当然討つとしても、……狙いはベームスの利権だ。荒野越えルートが確保できた以上、リリムダとベームスの二つの街を押さえることは荒野の利権上、とても有利なのだよ」
もちろん略奪もする。
女も奪う──そのあとで、更地から作り直すのだ! 欲しいのはガワであって、街の人間ではないからなぁぁぁあ!
「ははははははははははははははははは!」
「わかっていますとも…………(けっ。
面従腹背。
追従しているわりには、腹の底で小馬鹿にしているらしいザラディンだった。
お互い腹の底を知っていても、それを表に出さない危うい関係。
それがジェイス達一行と男爵軍の態度の差だ。
そうとも。
ザラディンは、ジェイスの指示に従い男爵軍の荒野越えを支援した。
そうでもしなければ、足の遅い軍隊のこと。モタモタしている間にアルガスに逃げられてしまうとして、強行軍に踏んだのだ。
念のため、
先行させたシーリンに、高速移動中にも、各所に目印の魔石を設置させておいたのだ。
その魔石由来の魔力を辿ることで、男爵軍を安全かつ迅速に荒野越えせしめた。
魔石から発せられる僅かな魔力を辿るなど、賢者ザラディンくらいにしか無理だろ
(うくくくくくく……荒野を二度も越えるなんて不快極まりありませんでしたが、のちの報酬を考えれば、悪くないですね)
そう考えながらザラディンは暗い笑みを浮かべる。
さぁ、戦いが始まりますよー!
お手並み拝見と行きましょうか、アルガスさーん!!
あーっはっはっはっはっはっは!!
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