第21話「俺に装填しろぉぉお!」

 ───ズドォォォォオン!!!

 ドカーーーーーーーーーン!!


「「「あぎゃあぁぁああああああ!!」」」


 アルガスは皆まで聞かずに主砲発射。

 兵の集団をぶっ飛ばした。


 もちろん、密集している所のド真ん中に───。


 ほとんどの兵が一瞬にして爆発四散した。

 呻いている兵も、いるにはいるがもはや戦力としては成していない。


 運よく生き残った代官は、ケツに火がついて転げ回っている。 


「ひぃぃぃい!! あちゃあちゃあちゃ! な、なんちゅうことをぉぉおお!!」


 知るか。

 こっちのセリフじゃ!!


『はッ。どうした? お前の権力とやらはその程度か?』

「な、なめおってぇぇえ!! わ、わわわ、ワシの兵はまだまだおるわぃ!! さささ、さっさと来いぃぃい!!」


 なるほど、なるほど。


 街の警備や外の見張りを、全部放り出して代官の部隊が急行中だ。

 全軍集結!───って、ところか。


 そういえば、街に入る時に延々と待たされた恨みもある。

 賄賂も露骨に要求しやがるし、ミィナをジロジロ見ていやがったし……。


 あの行列は衛兵隊の仕事の怠慢のせい。

 あとは賄賂をせびったり、女性に嫌がらせをしてたりと、余計な手間をかけるのが原因だ。


 ゆえに代官も衛兵隊も嫌われているのだ。

 通行税も高いしな……。


 うーじゃうじゃと集まり始めた衛兵隊。

 全部2、300人はいるだろうか?


 よほど慌てて来たのか、槍だけって奴もいるけど──────。


「がははははははは! その魔法とて、そう連発はできまい! さぁ、いつまでもつかな? んがーーっはっはっは!」


 ほう。

 まだまだやる気か。


 俺がただ、まんじりともせず「重戦車」のことを調べずにいたと思うのか?


 ちゃーーーーんと、ヘルプで再装填のことも調べてある。

 ティーガーⅠの主砲は強力無比だが単発だ。


 再装填には装填手が必要となる。


 そう……。

 中に誰かが乗ることが前提なのだ。


『ミィナ。聞こえるか? そこにあるヘッドセット───……黒い半欠けの輪っかみたいなやつだ。そこについてる耳あてを付けろ』

「え? うん……」


 車内はエンジン音で喧しい。

 今でこそ、キューポラの出口付近にいるから声が届くが、中に入るとその限りではない。


「つけたよ? 首輪みたいなのもするの?」

『そうだ。そいつの丸い所を喉に当たるように調整しろ』


「はーい」


 喉頭マイクをも装備させると、ミィナの声がぐっと近くなった気がする。

 アルガスの声も、ヘッドセットを通して聞こえていることだろう。


『いいかミィナ。これから再装填ナッハラーデンを指示する』

再装填ナッハラーデン?」


 ミィナがポカン、とした顔をしている気配がする。

 そりゃ、いきなり言われても分からんだろうからね。


『今から言うことをやってほしい。かなり力がいるけど、ポーターをやってるミィナならできる』


「う、うん! やってみる!」


 よし。いい子だ───。


『まず、車内にある酒瓶のお化けみたいな、鉄の筒がいっぱいあるのが見えるか?』

「ん? うん……綺麗───」


 ん? 綺麗……?


 ───砲弾、綺麗か……?

 まぁ、子供の感性は分からん。


『そうだ。そこにある綺麗な筒の、先端がオレンジの奴を選んで手元に持ってきてくれ』


「う、うん!!」


 信管の調整はアルガスでも出来るようだが、装填だけは自動では不可能らしい。

 そして今、ミィナが「ヨイショ、ヨイショ……」と抱えているのが、爆発する砲弾───88mm榴弾・・だ。


「も、持ったよ───」

『よし、それを近くにおいて、中にあるけむり臭い大きな筒の横に行ってくれ』


 さっき一発撃ったので、主砲は実に硝煙臭いだろう。

 ミィナが顔を顰めながら、言われた通りに横に立つ。


『そこに閉塞器の開放レバーがある……。それだ。勢いよく引け!』


「う、うん! きゃあ!」


 ガション!! 砲尾が開き、硝煙を纏った空薬莢が排出。


 ───ガランガランガラン……!


 そして、黒々とした砲の中が開放された。


『よくやった! 次はさっきの筒をその穴に押し込んでくれ。勢いよく───そうだ。そこにのせて』


 ミィナが「うんうん!」と、唸りながら砲弾を運び上げ砲尾にセットする。


「よいっしょッ!! ふぅ……」


『よし! あとは拳を作って、殴るように綺麗な筒を押し込むんだ! 押し込んだらすぐに手を引け』


 ミィナが可愛いお手て・・・に拳を作る。


「こ、こう?」 


『そうだ。押し込めッ! 装填してくれ、ミィナ!!』


 ───俺の穴に突っ込め!!


「は、はい!! えい!!」


 ガッ───……ション!!


 アルガスの感覚に、主砲弾が装填されたことが分かる。


 幼女がオッサンの穴に砲弾を装填!

 ……というのは、非常にどうかという気もするが───うん、気にしないでおこう。


 ミィナが手を引いた瞬間、半自動装填機構がガシャン!! と激しくせり上がり、砲尾を閉塞した。


 この時にモタモタしていると、指を食いちぎられるのだ。大変危険……。


『いいぞ!! あとは脇に逃げて、横にあるボタンを押したら、耳を塞いで口を大きく開けていろ!』


「うん!! あー……!!」


 バン! と叩くように、装填手用の安全装置を解除したミィナ!

 素直に口を開けて「あー……!」と、そして耳をヘッドセット越しに覆っている!!






 よし!!

 装填完了だ!!!





 ウィィィィイン……と、悪徳代官目掛けて砲を指向する。

 野郎はビクともしなくなったアルガスを見て、ゲラゲラと笑っていやがる。


 アルガスが衛兵の大戦力に、ビビッて震えているとでも勘違いしているのだろう──。


 そうとも───それは、大きな勘違いだ。


「ぐははははははは! どうした、どうした! ビビッて手も足も出んと見える! ぐはーっはっはっは!」


『ハッ。ティーガーⅠは無限装軌キャタピラだ! 端っから、足なんざねぇよ!』


 ウィィィィイン……!


 ピタリ。


「んがーっはっはっは! もう、魔法も打ち止めと見える───! ワシのような権力者に逆らったことを思い知らせてやる!! やれぇい者ども!!」


 えっちら、おっちら!


「はぁはぁはぁ! おう!!」

「ぜぇぜぇぜぇ! おらぁあ!!」


 息も絶え絶えに丘をかけ上がってきた衛兵ども。

 全員が到達すると、気勢をはる!


「「「ひゃっはー、ブッ殺だぜぇ!」」」


 非番の者や、一番遠い壁の警備についていたものらは息も絶え絶え。


 ───それでも意気軒昂……のはず!


 とくに街から小高い丘に急行した兵らは全員が疲れ切っていた。だが代官に逆らえば後が怖いので渋々───。


『兵士諸君──任務ご苦労、さようならッ』


 ───発射フォイエルッッ!!


「は! まだぬかすか、ワシの勝」


 ドカーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


「「「うぐわーーーーーーーーー!!」」」

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