掌 - Mr.Children


 満を持してミスチル登場。ミスチルは大抵の人に知られているので、ある意味、気が楽です。共有の地盤が出来ていますからね。桜井さんの声が、歌が、どんなものかは何となく分かると思うので、曲に集中できます。


 「てのひら」は暗く、重い。それでいてテンポは速く、かきむしるように不条理が叫ばれています。


 ミスチルの有名な曲は明るい曲が多いですが、僕は「フェイク」「Pink~奇妙な夢」みたいな曲も結構好きです。その中でも「掌」は中学生の時にスペースシャワーでひたすら聞いた曲です。

 何がそんなに中学生の僕に刺さったのかは分かりませんが、同A面の「くるみ」より断然好きになりました。このころから、ひねくれが始まっていたのかもしれません。だって、この曲は人間の荒唐無稽さ、整合性のない理不尽さを歌っているのですから。



 ――――――――――


 抱いたはずが突き飛ばして

 包むはずが切り刻んで

 撫でるつもりが引っ搔いて

 また愛 求める

 解り合えたふりしたって

 僕らは違った個体で

 だけどひとつになりたくて

 暗闇で もがいて もがいている


 ――――――――――


 どうしようもなく気が狂うようなさ。そんな底に沈殿した醜い欲望を精確に捉え、歌い上げています。

 自分が自分で分からなくなる感覚、というのでしょうか。言葉と身体が同期せず、全く異なる言動に頭痛がするような感じ。随にエッセイでも「僕の行動に理由なんてない」と書きましたが、そんな感じですね。僕の場合は、自ら崖から飛び降りて舌を噛んだだけなので重さが全然違いますが、中学生の時にもこの曲を聞いて自分の中の不条理さを感じていたのでしょうか。


 話が飛びますが、僕は音楽を他の作品に重ねることが好きです。端的に言うと、MAD動画というものが好きです。MAD動画とは、映像や音楽を改変し、新たに意味合いを付けた動画です。先日紹介した秦基博「鱗」の動画もMAD動画と言っていいですね。作品の特性上、どうしても二次創作になり、著作権違反が多いので非常にセンシティブな媒体ですが、権利を守りながらも普及出来るようになって欲しいです。

 僕が楽曲をモチーフに小説を書いたことと同じことを、より原作に近いレベルで解釈し、意味づけた新しい作品だと言えるのではないかと思っていますから。


 MAD動画そのものにはこれ以上踏み入りませんが、掌に関してはガツンとやられた解釈があります。今はもう削除されていますが、その動画は新世紀エヴァンゲリオンを題材にしていました。


 碇シンジの苦悩、アスカの自己同一性アイデンティティ、倒錯する愛情。人類補完ひとつになる計画。


 これらが「掌」の歌詞にぴたっと嵌ったような感覚に感動したのを覚えています。エヴァとミスチルをオーバーラップさせるという発想と結びつける視点に唸りました。


 握れば拳 開けば掌


 そんなことわざから生まれたこの曲ですが、やはり「解り合う」という一点に主眼が置かれている気がします。


 ――――――――――


 ひとつにならなくていいよ


 ――――――――――


 何度も何度も繰り返されるこの言葉。


 僕には、最後の最後でひとつになることを拒んだ(旧劇)シンジ君が至った境地はこのようなものだったのではないかと考えています。僕の解釈ですけどね。


「あなたとだけは、絶対に死んでも嫌」

 そう言ってひとつになるのを拒否したアスカも安易に補完される(=自己を捨てる)ことを拒んでいるように見えます。


 そこに僕は愛を見るんですよ。

 全てが溶けあって、何もかもひとつになって、他人も自分も無くなって――。そんな究極の存在に還るよりも、他人として存在して、無理解も嘘も誤解もあるけれど自分として解ってもらう。


 ひとつにならなくてもいい

 それさえ分かっていれば良いのです。

 

 例え、キスしながら唾を吐いたとしても。



 




 掌 / Mr.Children (Short Ver)

 https://www.youtube.com/watch?v=3NUZ7AfAksI

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