HollowQuest

虚無~うつな~

0章 近くて遠い想い

私は研究室にいた。前にいるエクスバースちゃんが私にこれから行う実験の話をした。

「これは別の場所へと転送する機械だ。まぁ、多少なりともこれからの役には立つだろう。」



私はミリ・エクステラ。喜びの感情から生まれた存在。私とこのエクスバースちゃんは本体から分かれてから行動を共にしている。私は自分が嬉しいことは大好きだ。特にいつかは本体が恋していた兄に会ってお付き合いできたらと考えてしまう。しかし、エクスバースちゃん曰く、兄はあくまで私たちじゃない本体を愛したいと思うはず私たちの想いは結ばれない、いや結ばれてはいけない…。そんなことは分かっている。それでも、私が一番求める喜びだからこそ諦めることなんてできない。



これからテレポート装置を実験するところだ。

「うん、準備はできてるよ。」

「それでは開始だ。」

私は装置の中へ入った。

「それではスイッチを入れるぞ。」

エクスバースちゃんはスイッチを押した。その瞬間、私の視界は黒くなった。意識がどこか遠くへ行ってしまうような感覚を覚えた。微かにエクスバースちゃんの叫ぶ声が聞こえた。でも、それを聞き取る前に完全に意識が無くなってしまった。



気がつくと、私は草原にいた。とても体がだるい。私は体力には自信がある方だった。しかし、今は体がかなり重く感じる。自分の体を確認すると、私はぼろぼろの服を着ていた。押し寄せる多くの不思議に頭を悩ませていた。その時、少し前の草むらから何かの気配を感じた。注意深く見てみると、そこにはぶにぶにした青い物体があった。“なんだ、びっくりした”と思い無視しようとした瞬間、その物体が私の足を包んだ。

「えっ…うわっ!」

青い物体が包んだ足から力が抜けていく。バランスが取れなく転んでしまった私の体を青い物体が徐々に侵食してくる。もうだめだ、と思った瞬間、

「どっかいけ!」と叫びながら木の棒を持った少年が私の下半身を包んでいた青い物体を木の棒で叩く。青い物体は逃げた。

「大丈夫ですか?」と少年が声をかけてきた。

「あ、うん。大丈夫だよ。」

「貴女はどこから来たんですか?とりあえずここは危険なので僕が住んでる村に行きましょう。立てますか?」

「ちょっと足に力が入らなくて…。」

「それなら僕が背負って行ってあげます。大丈夫ですよ、こう見えても力持ちですから。」

「あ、ありがとう。」

私は少年におんぶしてもらった。少年は辛そうだ。

「…あの、辛かったらいいよ、頑張って歩いていくから。」

「だ、大丈夫です…このくらい。」

しばらくすると村へたどり着いた。村とは思えないような塀で囲まれていたが、塀の中は質素な村だった。

「とりあえず村長のところへ行きましょう。」

「あ、もう降ろしてもらっても大丈夫だからね。足も自由に動くようになったし。」

「そうですか。」

「うん、ありがとう、ね。」

「…え、えっと、村長のところへ行きますよ。」

…………。

「ここが村長の家です。」

「ありがとう。あれ、一緒に来ないの?」

「あ…ぼ、僕は用事があるから家に帰らないといけないから…」

「助けてくれたり運んでくれたり案内してくれたり…、本当にありがとうね。」

「………い、いいって。お…いや、僕はこれが正しいと思ってしただけだから。」

少年は走って去って行った。

村長の家に入るといかにもそれっぽい老人がいた。

「いやいや、こんな貧相な村までよく来なさった。」

「黒髪の少年に連れられてきたのですが…。」

「あのいたずらっ子が?そんなことあるわけなかろう。」

「それが…」

私は意識が戻ってから起こったことを話した。

「気づいたら平原にいた…じゃと。もしかすると…そなたはこの世界を救う勇者なのかもしれん!」

「へっ?」

「村の者皆を呼べ!勇者様が来なさったぞ!」

「はっ?」

私は状況がよくわからなかった。

その日の夜、私はなぜかお祭りに参加せざるを得ない状況になった。この世界には魔物がたくさんいるそうで人々は悩まされている日々。何処かの凄い予言者がどこからともなく現れた勇者が世界を救うと予言したらしい。私が勇者なんて信じられなかった。それでも私はお祭りで讃えられていた。そんな理解ができないお祭りの中どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。

「こっち、こっちに来るんだ。」

その声の方向へ向かった。その先にはツリーハウスがあった。ツリーハウスの中に入るとそこにはあの少年がいた。

「どうだ、すごいだろ。この秘密基地。」

「うん、そうだね。」

「村では勇者が来たなんて騒いでいるけど何があったんだ?」

私は少年に説明した。

「ふ~ん、世界を救う勇者ね。」

「そういえば君、何て名前?」

「俺はイルマ。まぁイルって呼んでくれ。」

「雰囲気変わったね。」

「え?あ、ああ、ま、まぁ別に知らない人に優しくして村での俺のイメージをよくしようなんて考えてないぞ!」

「ふふっ、とても面白い人だね、イル君って。」

「………あ、貴女の名前、お、教えていただいてもいいですか?」

「ん?私はミリ・エクステラっていうの。エクステラって呼んで。」

「じゃ、じゃあテラさんでいいですか?長いと呼びづらいですし。」

「うん、いいよ。よろしくね、イル君。」

「はい、テラさん!」

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