なぜか有名アイドルが怒っているんだが?

 

 日向先輩と隠れ家的居酒屋で飲んでいると、まさかの来客があった。


『ヨイハナ』のメンバー全員とそのスタッフらしき人たちだ。


 俺がちょうど入り口が見えるほうに座っており、向いには日向先輩。つまり、先輩はまだ気付いていない。

 おそらくヨイハナがここまでの至近距離までいると知ったら飛び跳ねて喜ぶだろう……。だがしかし!!!


「あの!ヨイハナのみやびちゃんですよね!!!よかったら握手を……」


「失礼ですがそういったことは事務所から禁止されていますので、ご遠慮願いますか」


「ちょ!なんだよそれぐらいいいじゃんかよ〜?」


「禁 止 さ れ て い ま す の で」


「「」」


 宵川に近寄ったファンであろう女性と男性が、ゴッツイゴリゴリのSPみたいなおっさんに静止されていた。

 もちろん両者涙目だ。


「ごめんなさい……これからも応援よろしくお願いします」


 SPのおっさんの高圧的な防衛とは裏腹に、宵川は申し訳なそうに声を掛け、頭を下げていた。


 やっぱりしっかりしてるなあ宵川は。

 ファンへの感謝も思いやりもしっかりしてる。理想のアイドルだな。


 なんてそんなことを思いながらそれらを眺めていると。


「んん?どーしたの尾崎くん? 後ろばっかり見て」


「い、いや!」


 まずいまずい先輩に気付かれたらまたあのゴリゴリのマッチョに静止されて、先輩がぴえんな状態になっちまう!

 だって先輩のあの熱狂振りを見る限り、絶対に飛びつくだろ……。

 挙句の果てにはゴリマッチョなおっさんと熱線を繰り広げるまである。


「はは〜ん?お姉さんはわかったぞ〜。さては、尾崎くん好みの女の子を見つけたなぁ〜?」


 当たってるようで当たってない!!!

 そういうことじゃねえって!!!


「どれどれ、尾崎くんのタイプの女性はどんなかな〜」


「!!」


 日向先輩は後ろを向こうとする。

 しかし俺は咄嗟にーー


「ーーっわ!」


「ーー!」


 先輩の両肩を引いて、俺の至近距離にまで先輩の身を引き寄せた。

 テーブルを真ん中に挟んでのこの体勢なので結構きつい……。


「ふう……」


 なんとか先輩の気を逸らせた。


 あ、あれ……なんか周りの客静まりかえってない??


 え、てか……。


「……え、えと。お、尾崎くん?こういう場所だとちょっと、そういうのは恥ずかしいなっ……」


 顔を紅潮させ、俺と視線が交わらないように目を逸らしている先輩。

 そして逆に、周囲の客の視線は一斉に俺の元へと集まっていた。


「きゃあ……大胆」


「あなたもあれくらい度胸ある人だったらよかったのにね!」

「な、俺に何か不満があるのかよ!?」


 周りの女性客やカップル同士がヒソヒソとこちらを見て喋っている。

 ああああああああ!!!

 やらかしたああああああ!!!!


 ふと、特に鋭い視線を感じた。


 その視線を感じる先に目を向けると……



「…………」



 宵川とそのメンバーも俺の方を見ていた。

 ヨイハナのメンバーにレスを貰えるなんて光栄なことだけど……。

 しかしそれよりも問題がある。

 ヨイハナメンバーはキャーキャーと女子らしい反応をしているが……



 え?何その眼光怖いよ?



「お、尾崎くん……?どうしたの……その、そろそろ離してくれると嬉しいなー……」


「わっ!先輩すみません!その、そういうつもりじゃなくて!」


「え?じゃあどういうつもり?」


「ええっと……その……」


 こんなんなるんなら最初から引き留めようとしなきゃよかった!!!



「カップルってやっぱりいいよネ〜マリンも彼氏とか作ってみたいヨ〜」



 んん?

 な、なんか聞き覚えあるぞ?


「え……えええええ!!!???」


 俺が弁解している途中だというのに、先輩は絶叫にも似た仰天声をあげていた。


 うん、僕もう気づいた。


「ちょっとマリン!一般のお客さんに迷惑掛けないの!」

「むふふ〜マリちゃんの思ったことすぐ言っちゃうとこ好き〜」

「……」


 ヨイハナのメンバーたちとスタッフが座る席、俺らの隣だったのね……。


 心なしか宵川だけ元気がなく、またどこか怒っているように見えた。





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