ライブ初参戦

 いよいよライブ当日だ。

 流石にメンバー一人一人の名前も知らないまま行ってはファンの方々に申し訳ないので、予備知識としてヨイハナのレギュラー番組をチェックしていた。ちゃんと再放送してる有料動画配信サービス使ってね! 違法アップロードのものなんかみてないからね! ほんとだからね!?


「しっかし……」


 武道館公演ということもあり、会場前にはものすごい人だかりが出来ている。

 それぞれ気合の入った推しメンの名前が背に印字された法被を纏っている者や、俺と同じく今回が初参戦なのであろう私服で辺りを不安そうにキョロキョロとしている人もいたり。あらやだ、シンパシー感じちゃう。良かったら連番しない?

 俺としては初参戦同士で初めての公演を共に堪能したいという想いもあるのだが、あいにく俺の横には……


「いやあ〜! やっぱりライブ前ってアガっちゃうね〜尾崎くん」


 隠れガチ勢の日向先輩がご同行してくださった。

 いやしかし、この温度差はいかがな者だろうか。

 俺は薄手のニットにジーンズという大学にいくようなザ・学生といった格好なのに対し、日向先輩はマリンちゃん(ハート)と刻まれた法被に、ペンライトをさながら多刀流の侍であるかのように腰に何本も据えている格好だ。


「あ! 物販並ぶ? 私生写真とか買いたいから尾崎くん一緒に並んでくれると嬉しいな!」


「あー確かに女の子一人だとあぶな……」


「生写真一人につき5パックまでだからさ! 尾崎くんも買えば10パックも買える! いや〜やっぱり連番参戦は最高ですなぁ〜」


「……」


 完全に利用されとる……。



 ***



「……うわっ! 一階席の最前列とか一番良い席だね! ほんとに誘ってくれてありがと〜尾崎くん!」


「いや、俺も一人じゃ不安だったんで、喜んで貰えて良かったです」


 武道館の中に入ると、改めてヨイハナの人気ぶりが伺えた。

 ステージは武道館中央に配置され、三百六十度観客から見える形が取られている。

 こんなたくさんの人に見られながら歌ったり踊ったりすんのか……俺だったら緊張のあまり心臓発作起こして倒れるまであるな。


「ふふふ、準備は出来ているかね〜尾崎くん?」


「はは……先輩は準備万端みたいですね」


 日向先輩はすでにペンライトを二刀流で構え、推しメンであるマリンちゃんのタオルを首にかけていた。てか……二本しかペンライト使わないのならそんなに持ってこなくて良いじゃん……。


「あ、今こんなにペンライト持ってても意味ないだろって思ったでしょ? チッチッチ……いざという時に電池切れになったらまずいんだよ? ペンライトが光ってない状態でライブに参戦だなんて、刀も持たずに戦に出るのと一緒だよ!」


「さ、さいですか……」


 使い切りのサイリウムを持ってきている俺はなんなん?


 そんなこんなしているうちに、会場全体が暗転した。


 その瞬間一斉に歓声が騒ぎ立ち、いよいよ始まるのかという緊張感と高揚感が沸き立つ。

 

『みなさんこんばんは〜! 本日は私たち、『宵は儚し恋せよ乙女 in Budoukan』にお越しいただき、ありがとうございま〜す!!』



「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!!!」」」」」



 ヨイハナのメンバーがアナウンスをしているのだろう。

 観客の熱がヒートアップし、『みやびーーーー!!!』だの、『アイリーーーー!!」だのと、各々の推しメンの名前を高らかに叫ぶ。さながら世界の中心で愛を叫んでいるかのようだ。



『ライブが始まる前に注意事項だけ確認させてください! まず、録音や撮影は絶対に禁止!! もし破ってしますと、二度と私たちと会えなくなるから注意してね♡ その時は大人しくメディアオタになってくださ〜い』



「アイリたーーーん!!! 相変わらずドSが光ってますなあ!!」


 俺の横で先輩がオタクモード全開だ。

 今の時点でこれって、ライブ始まったら先輩どうなるんだ?

 だいぶ印象変わっちゃったよ……。


 さてさて、そろそろライブが始まるようだ。

 ニワカなりに楽しんでいこう。




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