苦学生の俺、なぜか有名アイドルに好かれている。

ノロップ/銀のカメレオン

夜勤にウザい客は付き物だ。


 深夜のファミレスでの夜勤。

 大抵の人は夜勤と聞くと、『眠そう』『しんどそう』とマイナスなイメージを浮かべがちだろう。

 だが俺はそう思わない。昼間のピーク時と比べれば圧倒的に楽だ。

 俺がバイトをしているこの店舗は、基本的に昼間のランチタイムがピークで、深夜帯になると客の入りはとても少ない。

 客がいたとしても勉強に集中したい学生か、終電を逃した大学生や、時には晩酌をしにくる人がいるくらいだ。

 昼間のバイトと比べれば圧倒的に仕事量は少ない。さらに、夜勤の方が時給が高い。夜勤を選ばない理由があるだろうか?


 だがしかし、時には面倒なこともある。だって仕事だもん。


「尾崎くん! 7番テーブルにお客さんがきてるよ」


「げっ……またか……」


 深夜1時の7番テーブルに座る客は、決まっている。そしてそのオーダーを取らなければならないのが俺ということも決まっている。……がきた。


 重たい足取りで、ヤツのまつテーブルへと足を運ぶ。


「……ご注文お決まりでしょうか?」


「……遅いわね。アルバイトとは言え、客を待たせているのだから迅速な対応が必要なのではないかしら?」


 お客様は神様。

 という昔ながらの風習を一心に受けているような高慢な態度。第一声からその様子が伺えるだろう。

 その見てくれも大層高飛車で、こんな夜遅くの室内だというのにグラサンを掛け、きている服はまあお高いのでしょうねえとわかるような装い。

 ーー通称『グラさん』

 この女は決まって俺に絡んでくる。


 水曜日のこの時間、このテーブルで。


「申し訳ございません。以後、気をつけます。……ご注文の方はお決まりでしょうか」


「……全く感情がこもっていないのだけれど、まあいいわ。いつもので」


 いつものって……ここはバーでもなんでもないんだよただのファミレス!

 お前の行きつけのバーではなくファミレス!


「いつものと言いますと?」


「あなた、私が毎週来ているのに気づいてないのかしら?」


 知っとるわ! いやでも覚えるわその高慢な態度!


「いえ、存じあげております」


「なら、私がいつも頼むものくらい抑えているでしょう? あなたの脳みそはコルクくらいしかないのかしら?」


「くッ……! ササミステーキに赤ワインですね?」


「そうよ。わかっているのなら早くなさい」


「かしこまりましたッ……!」


 うっっっっっっぜええええ!!!!


 なんだってこいつはいつも俺が担当してるテーブルに座んだよ!!

 たまには他のテーブルに座れや!!!


 頭の中で壮絶に愚痴をこぼしながら、俺はバックヤードに戻る。


「……その様子だと、いつも通りだったみたいね。あのお客さん」


 二つ年上の先輩、日向 陽毬ひまりさんが苦笑いで言う。


「はい、いつも通りっす……」


「なんで尾崎くんにばっかり絡むんだろうね? もしかしたら、あの子尾崎くんのこと好きなのかもね」


「いや勘弁してくださいよ」


 好きな相手には意地悪したくなるってか?

 中学生の男子か!


 全く本当に……なんなんだあの、ウザい客は……。

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