第10話 ジャパンカップとハーブティーとサザエさん症候群

日曜日の16:00。


明日からまた5日間働かなければならないという変えようのない事実を前にすでに憂鬱な気分になっている。毎週のことではあるものの、日曜日のこの時間帯というのはどうにも好きになれない。砂時計の砂が減っていくような感覚で、わずかながら与えられたモラトリアムが刻一刻と減っていくのをただただどうすることもできずに眺めているような感覚だ。明日からの5日間を想像してすでに胃のあたりに違和感が出てきている。


週休2日。しかし、丸2日、本当に休日を満喫するというのはどうにも難しい。どうしても、日曜日は昼過ぎくらいから憂鬱になり始めてしまう。


「なんか表情が”無”だけど大丈夫?」


妻はそんな風に声をかけて、ハーブティーをいれてくれた。どうもだいぶやられているように見えたらしい。


実際そうかもしれない。不眠のこと、HSPのこと、頭の整理が追いつかない。仕事の方も、このところは何ひとつ予定通りに事が進んでいかない。予想外の出来事の連続で、「ミスをしないように」「クレームにならないように」という意識がいつもよりも強くなっているのを実感している。神経が磨り減っていくようだ。


温かいハーブティーと妻の存在は、少しばかり気分を楽にしてくれた。ふたりで競馬中継を見ながら「競馬を趣味にして、2ヶ月に1回くらいG1でも見に行こうか」「じゃあもし当たったら、そのお金で飲みに行こう」なんて話をして。


でもあれだな、今日のジャパンカップは7万人以上が詰めかけたらしいし、人混みの苦手な私が耐えられるだろうかとちょっと心配だったりもする。それに、行き帰りの電車もかなり混雑するだろうし…。


そんなしょうもない考えが私の頭の中を駆け巡ったけれど、口には出さなかった。せっかく私のことを気遣ってそんな話をしてくれたのだから。


どうしてこれほど”仕事”というのは私を憂鬱にさせるのだろうか?限られた休日を蝕むほどに。


自己啓発書の類を読んでみては、仕事は楽しいと思い込もうとしたり、楽しむための何かをしてみたり、「仕事楽しいよ」と人に言ってみたりしたけれど、結局は憂鬱な存在以外の何物でもない。そして、これから先、何十年もの間、こうやって憂鬱な日曜日の午後を迎えなければならないのかと思うと絶望感すら感じる。


まぁでも、このように日曜日の午後が憂鬱なのは私だけではなく、どうやら多くの人が同様の感覚を抱いているらしい。「サザエさん症候群」や「ブルーマンデー」という言葉もあるし、確かどこかで月曜日の午前が最も自殺者数が多いという調査結果か何かも見た気がする。そう言った意味で、生きていくために”仕事”というものを必要としている以上はこの感覚とうまく付き合っていくしかないかもしれない。


特に明日はスケジュールが立て込んでいる。


本当に憂鬱だ。

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