第3話 自らに向けられる視線の意味が大きく変わったことを感じた日 Part1

「自分を大切にしましょう」


自己啓発や心理学に関連する書籍で、このような文句を目にすることが多々ある。確かに、「自分を大切にすること」はそれこそ”大切”なことだ。


でも、実際に自分を大切にするというのはとても難しい。頭ではわかっているのだけれど、思考のレベルで、本当に自分を大切にできていると実感することは困難を極めるように思われる。


・自分を大切にすると、それによって誰かに迷惑をかけてしまうのではないか?

・自分の意見を通すことによって、それが他者にとっての大きな不利益になってしまうのではないか?


多くの場面で、そのように感じてしまう。だから、自分の意見を強く表明することが難しい。他者からの頼みごとを断ることが難しい。


そして、それは自己肯定感の低さ、あるいは他者からの評価への依存という面とも関わりがあるように思われる。自分を大切にするがために、言い換えれば、自分を守るためにしたことによって、自分に対する他者からの評価が大きく下がってしまったのではないかと感じることがある。


このあたりは、少なくとも今は、どうにも整理して言語化することが難しい。まさに今日、そんな出来事が起こったばかりだからだ。


第1話と第2話でも書いたように、私はちょうど、病院で処方された睡眠薬を飲み始めたところだ。つまりは不眠症だと思われる。ちなみに、昨夜は薬を飲んだせいか、ここ最近に比べたら随分と眠れたような気がする。相変わらず、iPhoneのアラーム音を聞くことなく起きたものの、それでも寝つきはだいぶ良かったように感じる。


とはいえ、恒常的には不眠に悩まされているところであり、薬を用いて言わば不自然な形で睡眠の質を担保しているような状態だ。


そして、ここ数ヶ月は毎日寝不足といった具合で、日に日に自分の身体が重くなっていくのを感じていた。


そんな折、これも第1話と第2話で述べたように私は病院の待合室でHSPという存在を知った。そして、HSPについていくつかのウェブサイトや書籍で調べるなかで、基本的にはHSPである人は自宅で仕事をするのが好ましい場合と考えられていることがわかった。通勤時の電車、鳴り響く電話の音、社員どうしの言い合い、同僚からのどうでも良い質問、そういった刺激に対して非HSPである人よりもHSPである人は刺激を受けやすいからだそうだ。


こういった付け焼き刃的に取り込んだ情報をもとに、不眠が続いている状況も鑑みて、私は在宅勤務の割合を増やすことを上長に相談することにした。


・現実問題として不眠に悩まされていることを前提として、自宅で仕事ができれば最悪十分な睡眠が取れなかったとしても、昼食後に30分程度仮眠を取ることでパフォーマンスを発揮できる可能性が高い

・仮に私がHSPだとすれば、通勤やオフィスでの電話受けなどがなければ、少しは精神的な疲労を軽減できる可能性が高い

・仮に私がHSPだとすれば、自宅であればアロマや露光などを工夫して安定的な精神状態のもとで仕事をすることができる空間を作り出しやすい


概ね、このような理由からだ。そして、私が勤務している会社では、明文化されてはいないものの基本的には在宅勤務が認められている。事前に上長の確認を取れば、自宅で仕事をすることが可能だ。実際、私も特に仕事が立て込んでいる時には不定期的に在宅勤務を行ってきた。


そんなわけで、私は昨日、上長に「これまでのように不定期ではなく、当面の間は週に3日ほど在宅勤務をしたい」と相談をした。その時には、不眠の話もHSPの話もしなかった。


・任せてもらえるはずだった仕事が任せてもらえないことになるかもしれない

・新たに与えられる仕事を与えられなくなったことで、今ある仕事に対する仕事がより厳しくなるかもしれない


不眠やHSPに悩んでいるということがわかれば、そんな風に私に対する見方が変わってしまうかもしれないと思ったからだ。だから、あくまでも「いろいろ試してみた結果、自宅が一番集中して仕事ができるように思われた」といった形でその理由を説明するに留めた。


そして、首尾よく上長は、特に詮索をすることなく在宅勤務を認めてくれた。


あくまでも、その時は…

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