異世界だけど宇宙飛行士になりたい!~科学が異端なので命狙われてます~ 第二章 実現不可能な平和編

まことまと

第1話 新しいRENSA


ガラヴァ皇信国、白く美しい建物で統一された街並みと運河、ここは国の中心部『皇都』。

さらにその皇都の中心には、柱がいくつも並ぶ円形の神殿があった。

ラーヴァの街の神殿が『市役所』なら、皇都の神殿は『国会議事堂』と言ったところだろうか。


その最深部……高価な書物が本棚に並び、重厚な机がこの国の歴史を感じさせる部屋に、白いローブを着た男が居た。

彼は皮張りの椅子に座り、机を何度も叩いている。

その隣に、どこからともなく現れた全身黒い装いの影が立っていた。


「救世主だと!?ふざけるなよ!!」

「申し訳ございません。」

「お前たちが失敗しなければ、私は今頃『教皇』になっていたはずなのだ。」


激昂する枢機卿と呼ばれる男と、それをじっと見つめる影。

影はマスクをしているため表情が見えない。


「必ずや、望みを叶えてご覧にいれます。」

「しかしどうするのだ!ドラゴンは倒されてしまったぞ!

ラーヴァが犠牲にならねば、教皇を御座から引きずり降ろせんではないか!」


枢機卿がひときわ大きく机を叩き、影が腰を折るように頭を下げた。


「枢機卿直属の精鋭までも失ってしまい……。」

「そんな事はどうでもいい、騎士団などいくらでも替えがきく。問題は救世主だ……『ラーヴァに聖霊の加護がある』と言ったのは教皇という事になっている、これでは今の教皇の地位が確固たるものになってしまうだけではないか!」

「よい考えがございます。」

「2度目は無いぞ?……どんな策なのか、ひとまず聞こうではないか。」

「はっ。救世主の出現を逆手に取るのです。」


枢機卿と影が二言三言、言葉を交わす。

男の策略を聞き、枢機卿は顔を歪めて笑った。

影はいつのまにか居なくなっていたが、枢機卿が気にかける事はない。



ところ変わって、ラーヴァの街。

関所をくぐってすぐの大通りは、以前よりももっとワイワイと賑やかさで溢れていた。


「ロック鳥のマグマ焼きはいかがー?」

「うちの店が一番おいしいよ!!」

「救世主様とお揃いのブレスレット土産にいかがっすかー!!」

「騎士団への入団希望者は神殿まで!」


ドラゴンを倒して一週間、街はドラゴンの驚異を後で知り驚愕していたが、既に騎士団に倒されていたと聞いて安堵していた。

そして、皇都騎士団の葬送も行われ、一人残ったシャウラはラーヴァの騎士団に入った。

何故か皇都に帰るのを拒否したらしい。


街の人々が、ドラゴンの襲来を事前に知らされなかった事に、憤る声は意外に少なかった。

大きな反発や暴動が無かったのは、ドラゴンを直接見てないので、実感が沸かないということも1つの要因だろう。

それと聖霊のお告げだったということが手伝っている。

ドラゴン討伐からまだ一週間しか経っていないのに『聖霊の加護を受けた街』として旅人や商人が増えた。

ドラゴンと救世主のおかげで、街は潤っているのだ。

その活気ある大通りの一等地の前に、俺はいま来ていた。


「ここ!?こんな大きなところにお店構えたの!?」

「このくらい、グラースの本店に比べたら半分もないわ。」

「ツィーのお父さんって、本当に大商人だったんだね……。」

「ツィーじゃなくて、お姉ちゃんよ!」


大通りの一等地、神殿前にある3階建ての建物がまるごと1つの商店が入っている。

『エルナト商店 ラーヴァ店 RENSA(レンサ)』

俺とルナが、ツィーに連れられて初めてこの看板を見た時の衝撃をわかって欲しい。


「RENSAって書いてあるんだけど!?」

「私たちの組織名でしょ?何か間違ってる?」

「いや、文字はあってるよ?けど、俺たちは地下組織であって、こんな大々的に名前を売っちゃダメじゃん!」

「科学者を集めるんでしょ?宣伝しなくてどーするのよ!」

「いや、だーかーらー……!」

「うるっさいわねー!お姉ちゃんに口答えしない!」


というわけでこのたび、必死の抵抗むなしくラーヴァに新しいお店が誕生しました。

その名も『RENSA』エルナト商店のラーヴァ支店です。

ツィーはラーヴァに来たその日のうちに、お父さんであるエルナトさんに連絡をとり、ラーヴァに支店をつくる準備を進めていたそうだ。

キャタピラ馬車を改良した乗り物や、俺の現代知識を取り入れた新商品の開発がメインの支店である。

ラーヴァ支店専任の職人も雇っており、俺もツィーから新商品のアイデアを取り調べられている。

近いうちに本店から、ツィーのお父さんのエルナトさんが視察に来るらしい。


店舗の開店はまだだが、いまは予約受け付けのみを行っている。

もうかなりの数の予約が入り、既にキャタピラ馬車は1年待ちだそうだ。

俺には思いもつかなかったが、このキャタピラ馬車が土に沈まない車輪として農業部門で話題を読んでいるそうである。

悪路でも進めるので、炭鉱でも需要があるかもしれない。

開発者の俺にも、売り上げから何割か分け前があるそうなので、RENSAの活動資金の為たくさん売れるといいなと思っているのである。

前の世界の知識をお金にするのはズルいかも知れないが、背に腹はかえられない。

本格的な開店は、いま一生懸命つくってくれている職人さんによりけりらしい。


「お金儲けはお姉ちゃんにまっかせなさい!」

「お、お姉ちゃん!!」


胸をドンと叩き啖呵を切ったツィーに、不覚にもトキめいてしまった。

俺たちが店に入ると、奥からルディが駆け寄ってくる。


「零史、ルナ、ツィー!『化粧水』が完成しました!」


駆け寄るルディの手には瓶が握られていた。


「おい、走ると転けるよ?」

「あぁっ!!」


お約束のように足をもつれさせてバランスを崩したルディが俺めがけて吹っ飛んでくる。

化粧水の入った瓶をルナが空中でキャッチし、俺はルディに潰されて地面に倒れた。


「あいたたたた……。」

「すみません!零史、大丈夫!?」

「化粧水はっ!?」

「無事です、ここにありますよ。」


ツィーはいい年してドジっ子のように転んだ男二人には目もくれず、ルナから化粧水を受け取っている。

そう、ルディは薬師と医学の知識を使い、化粧水などの美容商品の開発に携わっているのだ。


「あんらぁ~♡大胆ね、ベラも交ぜてほしいなぁ~♡」


するとそこへ、頭上からベラの嬉しそうな声が聞こえてきた。

視界に赤い髪のベラがヌッと現れ、ルディに押し倒されている俺を上から覗き込んでいる。

ベラは騎士団に俺たちの正体がバレてから、ラーヴァでは変装を解いているようだ。


「これから騎士団行くけどぉ、一緒にくぅる?」

「あ、俺も今から行くところ。」


ツィーとルディに別れを告げて、ベラと3人で騎士団に向かうことにした。

連れだって外にでて、改めてお店の外観を眺める。

一等地の三階建てをまるまる借りるなんて、エルナト商店はまさしく大店(おおだな)である。

俺みたいな小市民は、入るのにちょっと腰が引けるくらいには素晴らしい店構えだ。

まさか、科学者組織が経営しているなんて誰も思わないだろう。

俺も思わない。

しかも名前を大々的に出しているなんてね。

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