一枚の写真が語る人生

“優れた作品は人を孤独にする。” というのは本作の中で登場するフレーズだが、この『写真家・ササキの存在意義』を読んでまさにその感覚に陥ったような気がする。
その人だからこそ思いつくアイデア、紡ぎ出せる言葉、芯の通ったメッセージ等々、自分にはない才能を目前にした時の、得も言われぬ孤独感。
孤独ではあるものの、清々しさや愉悦が付随するその感覚は、ある種のカタルシスのようでもある。

スマートフォンなどで手軽に高画質の写真を撮れるようになった現代において、“写真家”という職業に中々の新鮮味を感じる。
被写体のとるべき体勢を指示し、ちょうど良いところでシャッターを押す。大雑把に考えるとそれだけのことに思える写真撮影という行為が、途方もなく奥の深いものであることを本作を読んで実感した。
完成された渾身の一枚には、その人の送ってきた人生が凝縮されているのだ。

写真家というのは、優れた技術だけで一流たり得るものでは決してない。
被写体と向き合った時、その人が何を思って依頼してきたのか、その写真に込める想いは何なのか、写真が完成した先にあるものは何か、そうしたパーソナルな感情や事情に足を踏み入れ、相手の気持ちを程よく汲み取っていこうとする気持ちが大切な仕事であるように感じた。

写真家・ササキだけでなく、彼を支える主人公の赤坂と、ササキへの依頼人である枢木の掛け合いも見ていて面白く、ユーモアを感じられる。
018まで読んだ上での感想となるが、この先の展開も期待したい。

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