第7話 比呂貴がポンコツ? いえ、そんなことありません


 ドッカーーーーン!



 そして比呂貴はまず、挨拶代わりに特大のファイアボールを放ち公爵の敷地の正門を吹き飛ばした。その後二人は公爵の敷地に入って練り歩くようにファテマとアイリスがいる建物へ向かう。

 途中、近衛兵がやってくるが、ファイアボールや風の魔法で死なない程度の強さで相手をなぎ倒していく。

 邪魔な建物や像などがある場合はこれまたファイアボールや風の魔法でなぎ倒していった。このような調子で十分ほど歩いていた。

 派手に練り歩きやりたい放題なので火もあがっている。比呂貴たちに手を出したらのくだりの目的は充分に果たしている。


「おっ、ロキが来たようですな。」

 公爵が一言答える。この建物まで破壊音が聞こえてきた。

 さらに公爵は言葉を続ける。

「とりあえずはここまで来れるかが見ものですな。もし、ここまで来たとしても先生がいますからねぇ。

 よろしく頼みましたよ。先生!」

「うむ。わかっておるよ。私も久しぶりに気持ちが高揚しているのがわかるからね。」

 公爵とミダマは薄ら笑いをしていた。



「この建物よ。ちょうど二階に窓が見えると思うけどその部屋にいるわ。」

 レイムと比呂貴はとある建物で立ち止まる。

「なるほど。中にも立派な建物がいくつもあったけど、これまたなんというか、下品さも加えたような建物だな。

 ここまでくると不気味だよ。ブタ野郎の趣味が良く分かるしここに住んでいるということも良く分かる。」

 比呂貴は呆然と立ちながら苦笑いで建物の感想を述べた。レイムも何も言わず苦笑いであった。


「じゃあボチボチ行くけど、とりあえずレイムは適当に隠れてて。オレがピンチになったらフォローよろしくね!」

「え? 一応どっかにいるけど、でもでも冷静に考えてロキがピンチになって私がフォローできるなんて思えなんだけど!?」

 レイムはビクつきながらツッコミを入れる。

「いやまあ、そうかもしれんが………。一応言っとかないとね。」


 そして比呂貴が正門を吹き飛ばした時と同じように扉をファイアボールで吹き飛ばした。

 その後は階段を見つけて登っていく。比呂貴も気持ちが高揚してくるのがわかる。

「確か、この部屋だったよな。」

 比呂貴はボソッと呟いてそして扉を開く。扉は鍵が掛かっているわけでもなく普通に開いた。

 部屋の中にはファテマとアイリスが椅子にロープで縛り付けられているのを確認した。




「ファテマ、アイリス! この糞ブタ野郎が――――――!」




 比呂貴はそう言ってファテマたちに駆け寄ろうとした。


 ドンッ!


 そこへ横からミダマが殴り掛かり比呂貴は壁に吹き飛ばされてしまった。不意のことで比呂貴は防ぐことが出来なかった。

 比呂貴が立ち上がったところで公爵が卑しく声を掛ける。

「ロキよ。大人しくしてもらいましょうかね。グフフフフ。」

 そう言って公爵はナイフのようなモノをファテマの頬に当てるのであった。


「なっ、この下衆ブタ野郎………。」

 比呂貴はボソッと一言だけ発して大人しくなる。

「ミダマ先生。よろしくお願いします。」

「うむ。分かった。ほれ、この椅子に座れ。」

 ミダマはファテマたちと同じ椅子に座るように促す。比呂貴は言われるままに従う。

 その後はファテマたちとは違って金属製のチェーンのようなものでガチガチに縛られてしまうのであった。


『なっ、ロキってば何やってんのよ! こうもあっさりと捕まっちゃって!!!』

 レイムは屋根裏でワタワタしていた。


「いやー、人質は効果てき面でしたな! こうもあっさりとロキを捉えることができたのだから。今まで可愛がるのを我慢した甲斐があったというものだわい!

 ガハハハハハ!」

 そう言って公爵はファテマの頬をさする。

「ちょっ、おまっ! 汚い手でファテマに触るんじゃねぇ!」

 比呂貴が叫ぶ。


 ドン!


 叫んだ比呂貴に対してミダマが一発殴る。そして言う。

「いい加減に言葉も慎んだ方が良い。公爵殿の前だぞ。」

 そう言って、さらに三発ほど殴るのであった。

「ぐっ………。」

 比呂貴は屈辱に唇を噛み締める。

「あなたがロキさんでよろしいんですよね?

 こうもあっけなく囚われてしまって拍子抜けですね。ここまで来るのに派手に登場してくれたので楽しみにしていたのですが。」

 ミダマは人差し指で比呂貴の顎を引っ掛けながら言う。


「いやはや、確かにお恥ずかしい。こういうベタな展開にはしちゃいけないって気を付けてはいたんですけどね。

 ホント、自分でも情けないと思いますよ。ハハハ。」

 比呂貴は苦笑いで答える。

「いやはや、こんな無抵抗な男を嬲って(なぶって)も面白くはありませんね。興が醒めましたよ。」

「ミダマ先生。今度は私にやらせてくださいな。」

 公爵はいやらしい表情で言う。

「うむ。」

 ミダマは一言答えて後ろに下がっていく。そして代わりに公爵が動く。


「グフフフフフフフフ!

 ようやくこのときが来ましたよ。以前、私に恥をかかせてくれて、今はドラゴンスレイヤーでプラチナプレートだと?

 それに今も散々罵声に暴言、本当に好き放題言ってくれましたねぇ。私に立てつくとどうなるのかたっぷりと教えてあげますね。グフフフフ。

 ガッーーーハッハッハハハハハ!!!」

 公爵は満面の笑みとゲスイ表情を混ぜたような表情で壁に吊りかけられている金属製のハリセンみたいな殴打器具を手に取って比呂貴のところへやってきた。


「くくくくっ。覚悟はよろしいですかね?

 この道具は殴打するための、かと言って殺したりまではしないように作られた拷問用の殴打器具なのですよ。痛いですよぉ。」

 そう言って公爵は下衆の表情でハリセンのような道具を軽く比呂貴の頭をトントンと叩いた。

 比呂貴はその屈辱的な情景にひたすら耐えている。唇を噛み締めすぎて今にも血が出てきそうな勢いである。


「さて、行きますよー!」


 そう言って公爵がゲスイ表情はそのままに殴打器具を大きく振りかざす。



「マヌケなゲス公爵野郎め!!!」


 ブォン!!!



 比呂貴は体中からかまいたちを発生させ自分の身体も浅く刻みながら鎖をバラバラに断ち切った。身体からは血しぶきも撒き散らされる。

 比呂貴のかまいたちはドラゴンの首ですらスライスしてしまうほどである。金属製とはいえそんな鎖もあっけなく粉々にスライスされてしまう。

 そして公爵が振りかざしている腕を掴み、そのまま身体を固定させ公爵の動きを完全に封じ込めて支配した。


「ハッハッハ!

 まさに形勢逆転とはこのことだな。おまえが単独行動を起こすこの時を待ってたんだよ。

 ちなみに、悔しがっているのは演技だからね! 自分のミスで捕まっているのに悔しがってる場合じゃねえしな。ファテマたちを助けるための最善の方法をとってただけだからね。」


「なっ、離さんか!」

「いやはや、離せと言われて離すバカはおらんでしょ?」

 ジタバタとあがく公爵に対して比呂貴はさらに強く身体を締め挙げた。

「アダダダダダ!」

 公爵が声を荒げる。それもゲスかった。


「さて、この状態、どうするかわかっているだろう? 公爵殿よ?」

「ケッ!」

 比呂貴の言葉に公爵は言い放つ。

「え、なに? まだこの状況がわかってないの? こういうことなんだってば!」

 そう言ってまた公爵の身体を締め挙げる。さっきよりもさらに強めに。

「ぐわわあああ。」

 公爵が汚い悲鳴を挙げた。


「わ、わかった。人質交換と行こうではないか。平和的にな。せ、先生、よろしくお願いします。」

 公爵は答える。ミダマはちょっと呆れた感じであったが頷いた。

「ふむ。それで良い。じゃあ、まずは二人の縄を外して貰おうか?」

 比呂貴は二人に依頼する。

 公爵も頷く。それを見たミダマも二人に縄を切った。


 ふたりの縄が切られたことを確認した比呂貴は周りに対して叫んだ。

「レイム。いるか? いたら返事してくれ!」

「はいはい。ここにいますよ!」

 レイムは屋根裏部屋からか顔を出して下に降りてきた。とりあえず三角形の距離感となっていた。

「レイム。二人を頼む!」

 比呂貴はレイムに言う。レイムは頷き、ファテマとアイリスのところへ向かう。



 カツッ、カツッ、カツッ。

 レイムはゆっくりと一歩ずつ距離を詰める。辺りは緊張で空気が張り詰めている。



 レイムがあと一歩でふたりのところに届く距離に来た時に、比呂貴は公爵を突き飛ばして開放する。公爵はそのまま転んでしまう。

 比呂貴はそのままその足でミダマに飛び込み殴りに掛かった。

 しかし、ミダマもある程度は行動を読んでいたのでその攻撃はかわした。交わした後は公爵の方へ向かう。


「いやはや酷い目にあったわい。ミダマ先生! 多少なら破壊しても構いませんのでやっちゃってください!

 修繕費用はロキの報奨金を没収しますからね!」

 公爵はミダマに向かって叫んだ。

「うむ。承知した。」

 そう言ってミダマは少し浮いた状態でロキに対峙する。


「ファテマとアイリスは大丈夫なのか?」

 比呂貴は心配そうにレイムに尋ねた。

「うん。とりあえず眠っているだけだと思うわ。」

「よし、じゃあ、引き続き二人をよろしくね。とりあえずあいつも一発ぶん殴らないと気が済まないからね!」

「わかってる!

 あと、ホントのホントにミダマさんは強いからね! 気を抜いちゃダメなんだからね!」

 比呂貴はひとつ頷き、そしてミダマと対峙する。


 いよいよ二人の決戦が始まろうとしていた。


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