第4話 策略?陰謀? きな臭い動きあり

 一方、ファテマたちはというと、一時間ほど空を駆け、川辺のところで少し休憩をしていた。

「流石に二人だけじゃと早いのう。かなり本気で走っておるしな。アイリは大丈夫かのう?」

「もう、お姉ちゃんってば最高! この世界が流れていく感じ、マジで半端ないわ! もともと大好きだけどもっともーーーっと大好きになっちゃった!」

 そう言ってアイリスはファテマに抱き着いた。そんなアイリスの頭を撫でるファテマ。


「そういやふたり切りになるのはずいぶん久しいのう。」

「そうだね。最近はレイムとかレイムだったりそうレイムが邪魔ばっかりしてくるからお姉ちゃんとゆっくりできなかったよう。

 でもまあ、レイムは好きだけどね!」

 そう言ってアイリスはさらに甘えるようにファテマに抱き着くのである。

「やれやれ。すっかり甘えん坊モードになっておるな。」

「えええ? 別にいいじゃん!」

「子供の頃を思い出すなあ。昔はこうやって絶対に離れずにトイレまで付いて来ておったしな。」

 と、イチャラブな姉妹団らんをしているところに突然強大な殺気が二人を覆う。


 そして二人のいるところへ空からひとり男がやってきた。そして言う。

「いやー、流石に早い。こちらも本気で飛んできたのですが離されていく一方、シルフィードのふたつ名は伊達じゃありませんね。休憩を挟んでくれて助かりましたよ。このままノンリミットまで行かれたら厄介でした。」

「何奴じゃ!

 それになぜ我らがノンリミットに行くことを知っておるんじゃ?」

 ファテマはそう言って最高潮に警戒をする。アイリスも同じく警戒する。殺気が凄まじくて何より感じられる圧がそこいらの奴らとはまったく違うからである。


「ああ、これは失礼。私はミダマと言います。種族的に言うと妖鬼となりますね。」

 ミダマと言った男は簡単だが丁寧な口調で自己紹介をした。

「なっ、妖鬼と言ったら上級魔族ではないか! しかし、感じる圧みたいなものは魔王クラスじゃのう。」

「お姉ちゃん! こいつめっちゃヤバいよ。気を付けて!」

「ふむ。わかっておる。この前のドラゴンなんぞ、赤子のように思えてきたわい。」

 二人は引き続き警戒をしながら会話を交わす。


「二人には特に恨みとかは無いのですが、暫くの間、私と行動を共にして頂きたいのですがよろしいですかな?

 と、質問する感じで言いましたが拒否権はありませんけどね。」

「お姉ちゃん!」

「わかっておる。」

 ふたりは掛け声を掛けてファテマは風の魔法を、アイリスはファイアボールをミダマに向かって発動させる。


「やれやれ、私を見て逃げ出すところか攻撃をしてくるとか、なんてお転婆なお嬢さんたちだ。」

 かなりの威力のふたりの魔法であったが、なんとミダマは腕の一振りでふたりの魔法をかき消した。

「なっ、なんじゃと!?」

 ファテマは思わず叫んでしまう。アイリスも一言、

「で、デタラメなやつね。」

「あ、アイリよ。これはおそらく手も足も出ないという奴じゃ。隙を作って逃げるぞ。」

「うん。わかった。」


「では、今度はこちらから。」

 そう言ってミダマはパチンコ玉程度の石を多数発生させて二人に向かって発砲する。

 二人は各々ジャンプし石を交わす。

「お姉ちゃん!」

 そう言ってアイリスは特大の水の球を発生させる。

「わかった。」

 ファテマは竜巻を発生させてその水を辺りにまき散らして弾幕を張った。

「さらにサンダーボールじゃ!」


 バチバチバチ!


 大気が切り裂かれるような音で唸る。

「よし、今じゃ! 逃げるぞ!」

 そう言ってファテマがユニコーンになろうとしたところである。


「いやはや、こんなこともできたんですね。ちょっとびっくりしてしまったのと、あちこちかすり傷もできました。ケガをしたのは数十年ぶりですよ。

 しかし、これくらいでは弾幕にもなりませんねえ。」

 水蒸気と雷の弾幕の間を切り裂いてミダマはファテマの後ろに現れた。そして頸動脈を小突いた。そのままファテマはぐったりと意識を失った。

「えっ!? うそでしょ? お姉ちゃん!」

 余りにも一瞬の出来事でアイリスは気が動転していた。そこへミダマはやってくる。

「大丈夫ですよ。あなたにも一緒に来て貰いますからね。」

 ミダマは同じようにアイリスの首筋にも小突いて気を失わせた。


 あっけなく決着が付いてしまった。

 いくらファテマとアイリスが幼生のドラゴンと渡り合える実力があろうとも、相手は上級魔族で成体のドラゴンですら倒すことが可能な存在である。純粋に実力差がありすぎたようである。

「しかし、お転婆なお嬢さんたちだった。普通は私を見たものはすぐにでも逃げ出そうとするものですが久しぶりに攻撃をされましたし、なによりかすり傷も受けました。

 たいしたお嬢さんですね。」

 そう呟いてミダマは二人を抱えて戻っていった。



 公爵の館。東京ドームひとつ分の敷地はあるかと思う。敷地は二メートルほどの塀で囲われている。そして中にはいくつかの施設があり、学校のような感じになっている。

 公爵の寝室などを含むプライベート用の建物内。二階建ての二階に居て、ワンLDKの間取りになっており、リビングにミダマとモンルード公爵がいた。


 そしてファテマとアイリスはそれぞれ椅子に手足をもろとも縛られていた。

「公爵よ。二人を縛っているが、そろそろ起きてくるかもしれんぞ。大丈夫なのか?」

 ミダマは公爵に質問する。

「フフフ。その辺はぬかりない。魔法を掛けてさらに眠らせておる。あと丸一日は寝ていることであろう。」

「なるほど。」


「にしても、本当に可愛らしいのう。ユニコーンの子は快活な感じが良い。エルフのほうはまさに幼女の極み。どちらも可愛がり甲斐がありそうじゃわい!

 グフフフフ。」

 そして公爵は二人の頬を舐る(ねぶる)ように触った。

「おいおい公爵よ。いつも言っておるが私は女子供が苦悩する姿は苦手な方でな。私のいないところでやってくれよ。」

「グハハハ。それはもう分かっておりますよ。」


「しかし、本当にこんなユニコーンとエルフの子を連れてきて本当にロキとやらの気を引けるのかね?」

「それはもう大丈夫。間違いないですよ。

 グフフフフ。

 ロキがこの子たちに熱を上げているのはとても有名な話で調査済み。それはレイムよりもということですので人質としての役割も十分に果たしてくれましょうぞ!

 それよりも、この子たちもドラゴンと渡り合える実力があるのに、それを瞬殺で捉えてくるミダマ先生の方が凄い! いやー、流石です!」

「うむ、確かにな。私に攻撃をしようという輩は久々だったな。さらにかすり傷も受けたしな。気概のあるお転婆なお嬢さんたちだったよ。

 だが、流石に私とやり合うにはまだまだ実力が足りないようだ。」


「それにしても、ようやくミダマ先生が重い腰を上げてくれて良かったですわい。これでやっとロキに恥をかかせたことを後悔させてやる時がきたのう。」

「まあ、私としてもただ単に人族を嬲る(なぶる)のは好まんからな。しかし、人族で幼体とは言えドラゴンを撃破するのは興味がそそる。」

「ドラゴンを倒し、ドラゴンスレイヤーとか言われてプラチナプレートだと!?

 気に入らん! 気に入らん! 気に入らーーーん! そんなこと私は絶対に認めんぞ!

 先生。本当の本当によろしくお願いします!」


「まあ、もちろん私もやりたいからやるのであるが、それにしても私は一応魔族。結構働いておると思うがな。

 公爵もなんというか、魔族使いが荒いというか。」

「いえいえ、めっそうもございませんよ。

 十分な報酬と、それにミダマ先生好みの粋がった輩を紹介するというのは果たさせて貰いますからねぇ。

 それに先生の圧倒的な力とご活躍あればこそ、このドルクマン王国も安泰というもの。さらに国王も現在は四世でしかもボンクラ。実質私と各伯爵でこの国を運営しているようなものである。

 その伯爵どもも先生ほどお力のある後ろ盾はいない。ということで私のこの公爵の地位も安泰ですわ。

 ガーッハッハッハ!

 まあ、お互いに利用価値を見出している間はぜひとも協力関係を築いていきましょう!」


「いや、公爵もなかなかにそこらへんの魔族よりもよっぽど残忍だのう。これはもちろん褒め言葉であるがな。

 あと、確かに公爵と共におれば、向こうから粋がった者がやってくるからな。大抵は大した実力もないやつばかりで、自信から絶望へ変わるあの瞬間の表情はいつ見ても美しいからな。」

「いやいや、先生も大概魔族らしい趣味をお持ちで! 流石、次期魔王様!」

「うむ。確かに魔王になるものやぶさかではない。妖鬼は種族としては優秀な魔族の一族だが今まで魔王を派出しておらんからな。私がその末席に連ねるのは悪い話では無いかな。」


「ミダマ先生が魔王になられた暁には私からも盛大にお祝いさせて頂きますよ!」

「アハハハハ。

 人族に恐れられる魔王のはずが、祝われる魔王なんぞ前代未聞だな。しかしまあ、それも悪くはない。

 そう考えると世の中も変わったものだな。これが多様化というやつかな?

 まあ、私が魔王を名乗るにはもう少し先の話であるがな。」

「ところで、私は魔族には詳しくないのですが、どうしたら魔王となることができるのですか?」


「一言で言うと自由。勝手に名乗っても良い。まあ、その場合は他の魔族から相応の洗礼という名の攻撃を受けるだろうからそれを跳ね除けないといけないがな。

 基本的に自分で名乗る。周りから持ち上げられてなる。組織となりそのリーダーがなるがあるかな。

 そう言う意味であれば、このドルクマンの冒険者制度と考え方は似ておると思う。」


「ちなみに今の魔王を倒して自分が魔王になるというのは無いのですか?」

「ああ、もちろんそれも可能だ。あまりに非現実的なので方法に入れなかった。

 というのも魔王とは、魔王と呼ばれているだけあってそれはもう化け物じみているからな。誰も倒そうなどという発想は起きないのだ。

 確かに寿命が近い魔王であれば倒せる可能性もあるが、それで魔王になったとしてもハクが付かない。最悪、他の魔王や魔族の攻撃の対象にされてしまう。

 今は三人の魔王がおるが、それぞれ周りから持ち上げられての生粋の魔王。一番弱い魔王でも私であれば三、四人くらいで掛からねば勝てないであろう。」


「ミダマ先生が三、四人!?

 なっ、なるほど。それはとても激しい方々ですな。もはや想像もできない。しかし、先生ほどの実力があってもまだ魔王は名乗れないのですか?」

「ふむ。そうなんだよ。

 ちょうど私くらいの実力の魔族がちらほらとおってな。少なくともそいつらよりも頭一つ出ないとなと思っておる。」

「ふーむ。人族の世界もややこしくて大変ですが、魔族の世界もなかなかに大変なんですなあ。」


「そうなんだよ。せっかくだし、このまま私の魔族に対する愚痴を聞いて貰いたいところだが今日はもう休むとしよう。」

「それはそれは残念です。しかし、しょうがないですね。

 早ければ明日の夜にでもロキが現れると思われますので、その時はよろしくお願いしますね。

 先生好みの自信から苦悩に陥る瞬間が見られることでしょう。

 グフフフフ。」


「ふむ。それは楽しみにしておるよ。あ、そうそう私が連れてきた客人は丁寧に扱ってくれよ。」

「それは分かっております。少なくともロキの件が片付くまでは丁重に扱いますので。お楽しみはその後、先生の目に触れないところで行いますので。

 グフフフフ。」


『いつかはこの公爵にも、私すらも出し抜き、公爵の苦悩に満ちた表情を見せる日が来るのだろうな。それも楽しみであるが今は内に秘めておこう。』

 ミダマはそう思いながら自分の部屋に戻っていった。


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