中二おっさん比呂貴の異世界伝説

Tさん

比呂貴激高編

第1話 帰宅。束の間の休息①

 オレはとうとう戻ってきた。ダンの宿屋に。


「おおおぉーーー! ダン! めっちゃ久しぶりじゃないか!」

「ロキのダンナ! ようやく戻ってきたのかよ。もうダンナの噂はこの街でも隅々まで広まっているぜ!」

「いやー、マジか? それは恥ずかしいねぇ!」

 と言いながらもロキと呼ばれたおっさんはまんざらでもない。

「本当に、ロキと知り合いでオレの鼻も高いってもんだよ!」

 と、二人は肩を抱き合った。


「今日はもう遅いからゆっくり休みなよ。ロキ達の部屋はそのままにしてあるから。」

 ダンは陽気に話してくれた。

「え? マジで? なんかもういろいろと良くして貰い過ぎで本当にありがとね。とっても助かってるよ!」

 ダンにロキと呼ばれたおっさんもこれまた陽気に返す。

 そしてロキ一行はダンの宿屋で一晩を明かすことにした。



 翌朝。

「うーーーーん。良く寝たあ!

 王国のベッドもふかふかで良かったけど、やっぱりダンの宿屋のベッドの方が落ち着くなあ。」

 ロキは目を覚まし、ちょっと前に王国にいた時のことを思い出していた。


 あ、そう言えば自己紹介がまだだったかな?

 オレの名前は樹神比呂貴(こだまひろき)で歳は三十六歳。元商社マンだ。なぜ「元」が付いているかって?

 それはなんと自分は今、異世界に来てしまっているからである。もはや元の世界のことは分からない状態である。


 そしてこの宿屋はダンの宿屋。オレがこの世界にきて最初に泊まった宿屋になる。なのでどうもこうも愛着が湧いてきちゃってね。ここが一番落ち着く場所になりつつあるんだよね。

 しばらくの間、出掛けていて大変だったんだけど、その間はずっと荷物などを置いていたのでもはや賃貸契約みたいになってきている。

 そしてそのダンからも呼ばれていたと思うが、この世界ではみんなオレのことを「ロキ」と呼んでいる。何やらこの世界のおとぎ話の英雄の名前だとか。


 この世界に来てからは、ここで知り合ったとっても可愛い女の子三人と行動を共にしている。

 まずは、となりで気持ち良さそうにまぬけ顔で寝ているのはレイムというんだけど、まだ寝ているみたいなんで後回しにしよう。

 あっ、隣って別にダブルベッドじゃないからね。ここはツインルームだから! なんもやましいことは無いからね!


 で、この時間ならおそらくもう起きていると思うんだがロビーへ行ってみよう。朝食も食べたいしね。

 そして着替えてロビーに向かう比呂貴。そこには一人の幼女がいた。

「あ、おはようファテマ! やっぱり起きてたんだね。」

「おはよう。ロキ。

 まあな。ぶっちゃけそこまで疲れておらんしな。まあ、アイリスはまだぐっすり寝ておったがな。起きるのを待っておったら朝食がいつになるのかわからんのでな。」

「こっちもレイムはまぬけ顔で寝てたよ。」


 今話しかけたのは「ファテマ」オレが異世界に来て最初に知り合った女の子である。

 身長は小学校低学年くらいなんだけど、しゃべり方がババア言葉。まさしくロリババア設定なのである。そして人間の姿をしているがなんとケモミミで頭に角らしきものがちょこんとある。とっても可愛いんだが、ファテマさんのチャームポイントと言えば、



 フワッフワでモコモコの尻尾!



 この尻尾、一度だけモフモフしたことがあるんだけど、それはもう至福のなんというか、もう言葉では表現できない幸せだったのだ。それ以来、オレはこのモフモフ尻尾の虜になってしまった。ちなみに、その後はモフモフさせて貰えません。あ、たまにだが、感情表現にも使用されることがあるので、その際はこの尻尾の動きを参考にさせて貰ったりもする。

 それで今は人間の姿をしているんだけど実はユニコーンである。ユニコーン姿のファテマは銀の馬体でそれはもうカッコよくて見惚れてしまう。それもあるのか、人間の時も髪は銀白髪である。髪形はベリーショートで快活なファテマにはぴったりである。


 そして一緒に朝食を取りながら比呂貴はファテマに尋ねた。

「そういやファテマさん! ご飯を食べたらちょっと食後の運動がてら、ユニコーンの状態でオレを乗せてくれないかな?

 今のオレならもうファテマさんのあの運転にも耐性が付いたと思うんだよね!」

「まあ、それは別に構わんが、本当に大丈夫なんじゃろうな?」

 心配そうにというよりも、むしろ疑いの眼差しで比呂貴を見るファテマである。


 以前に比呂貴はユニコーンのファテマに乗せて貰ったことがる。そしてファテマは空を駆けることもできるのだが、そのスピードはドラゴンよりも早く、当然の事で酔っていろいろとまき散らしている前科があるのである。

 ファテマの疑いの眼差しは当然と言えばそうである。

 そして食後の五分くらい、ファテマとの空の旅をしてきたのであるが、ファテマもここぞとばかりに張りきった。まさにジェットコースターであろう。


「で、どうじゃったか?

 でもあれじゃなあ。いろんなものを散らかさなくなったのは確かに成長しておるのかもしれんな。

 アハハハ!」

「以前のオレだったら間違いなくリバースだよ。しかも食後だし。でもなんだ。

 あああ。」

 そう言って比呂貴は平衡感覚を失ってヘナヘナと座り込んでしまった。

「まだまだということじゃったな。じゃあ、儂は宿に戻っておる。まあ良い運動になったわ。ありがとうな。ロキ!」

 そう言ってファテマは宿に戻っていった。


『ちきしょう。今なら絶対にいけると思ったのにな………。

 でもリバースしなかったのは確かに成長かもしれんが、これ以上の成長はもう無理だな。きっと。』

 とそんなことを思っていたら、ファテマと入れ違いでひとりの少女が宿から出てきた。

「ちょっとロキ! なんでお姉ちゃんといっしょに空を飛んでるのよ! ズルいよ!」

 そう言ってアイリスは比呂貴をポカポカと叩いた。その姿はとても可愛い以外何物でもない。


 彼女の名前は「アイリス」ファテマのことをお姉ちゃんと呼んでいた通りで、ファテマの妹である。

 しかし、見た目は小学校高学年くらいでファテマよりも背が高い。髪は真っ直ぐな背中に掛かるくらいのロングで前髪パッツンである。色はファテマとは違い金白髪である。

 さらに身体的な特徴と言うと、耳なんだが、ケモミミでは無い。なんと横長の耳なのである!

 そう。彼女はエルフでもある。しかも肌が薄い褐色であり、ダークエルフとユニコーンのハーフなのである。

 一応、頭には小さいが角と、ファテマほどでは無いがフサフサの尻尾がある。


 彼女の生まれはとても特異なものであった。以前にファテマとアイリスに聞いたのだが、それはもう壮絶な過去があったということだ。まあ、ここでは割愛させて貰いますがね。

 もうひとつ特徴というと、その生まれの特異性もあり魔法の属性というのがあるのだが、合計七個の属性のうち、通常は二個か三個なのだが、すべての属性を身についているということである。

 このため、幼生のドラゴンに狙われやすいという宿命も帯びている。


 本人もその辺りは充分に認識しており、最近はとても勉強熱心で魔法の勉強をしている。もともとダークエルフの血も受け継いでいるため魔力数値も高く、魔法の威力は相当のモノである。

 最近は、比呂貴がこの世界では珍しい魔法を使うのでそれを教えてもらうことに余念が無い。


「じゃあ、ロキ。今日も魔法を教えてよ!」

「ええ? 一応今まで言ったこと以外でもうオレからはアイリスに教えられることはないんだけどね。」

「えええ! さっきお姉ちゃんと空飛んでたでしょ。私を差し置いて!

 それに比呂貴の言うことって、その時はなんとなくわかるような気がするんだけど、やっぱり難しいよ。」


 ちなみに、今はこのように普通に喋っているが、アイリスは極度に人見知りで、なおかつ人間嫌いと男性嫌いである。

 比呂貴も最初は超が付くほど警戒されており、数週間経ってようやく今のようにしゃべってくれるようになったのである。


「じゃあ、アイリス。復習ということでもう一回やってみるか?」

「うんうん!」

 キラキラの笑顔で返してくれるアイリスである。この笑顔には誰にも逆らえないであろう。

「じゃあ、ここだとなんだし、前に行った公園に行こうか?」

「わかった!」

 そしてふたりは公園に向かう。


 以前、魔法のことをファテマに教えて貰った。ファテマの説明によると、基本的には種族の属性に従い、魔力を媒介して魔法を発動するということである。

 そして人族は呪文によって、属性以外の魔法も使用することができるということである。

 比呂貴としても、まだ呪文については詳しく調べていないが、恐らく特殊なことが出来ると思っている。ただ基本としては魔力を使って物質を具現化することだと思っている。


 比呂貴が常、わかりやすくイメージしているのが、魔力を電力と置き換えて電化製品で行っていることの仕組みが分かればそれを実行することが出来るということだ。

 元の世界ではいろんな物理法則を科学で証明しているのでこれはチートだ!

 と、一瞬思ったが、比呂貴は化学・物理はそこまで得意では無かった。どちらかというと語学と経済が得意の文系である。なので、この世界的には充分なチート級の魔法を使えるのだが、実際比呂貴が思っているのは中途半端なチート止まりである。


「じゃあ、アイリス。手を出してみて!」

「え? こう?」

 そう言ってアイリスは素直に手を差し出す。

「じゃあ、手から火を出すことは出来る?」

「うん。こう?」

 そう言ってアイリスは手から火を出した。


「うんうん。流石にうまいね! ところでアイリスはなんで火が起きるかって知ってる?」

「え? 今は魔法で火を起こしてるけど、昔に一度、なんか木をこすって火を起こしていたのを見たことあるけど?」

「そうだよね。」

「!?

 どういうことなの? ロキってなぞなぞみたいなことするけど、そういうのはよくわかんないよ。」


「ごめんごめん!

 オレは火が燃える原理を知っているんだよね。有機物が空気中の酸素を使って燃えるんだよ。」

 そう言って比呂貴も掌から火を出して見せた。

「でも、オレの場合は、酸素の代わりに例えばガスなんかを吹き付けることでもっと高温の火が出せることを知っているんだよね。」

 その後、比呂貴はガスを吹き付け青い炎を出して見せた。

「わぁ。凄い! 青い炎だ! すごく綺麗だね。」

 アイリスは目をキラキラにして青い炎を見ていた。


「オレはこれを理科の授業で習ったからなんとなくわかるんだけど、これをアイリスに説明するのはちょっと難しいんだよね。」

「ええ? できないの?」

「いや、原理を知れば出来ると思うんだけど、いろんなことをたくさん知っていないといけないからね。

 全部を説明するには膨大な時間が掛かっちゃうよ。」

「むぅぅ!」

 アイリスは膨れっ面になる。しかし、そんな顔もとても可愛い。


「でもね、さっきアイリスも火を出していたように事象の具現化は出来るからさ。こういうのは出来ると思うよ。

 えい!」

 そう言って比呂貴は、アイリスを向こう側に向けさせて、そして後ろから抱き着き覆い被さった。俗に言うおんぶだ。

「なっ! 急に何するのよ! この変態!」

 アイリスは抱き着く比呂貴に対してジタバタと抵抗する。

「アイリスは可愛いよなあ。抱き心地も最高だよ!」

 比呂貴は変態じみたことを言いながらジタバタするアイリスに構わず抱き着いている。

「ちょっと、いい加減に離しなさいよ! このセクハラ!

 それにロキってば重いから。」


「そう、それ!」

 比呂貴はそう言って、ちょっと名残惜しそうにアイリスから離れる。これ以上抱き着いていたら本気で怒られそうである。そして話を続ける。

「その『重い』ってやつ。ちょうど今、おれも重力魔法の練習をしているんだけど、その重いっていうのも魔法で出来ちゃうんだよね。

 アイリス! この石に対してオレが覆い被さったように直接重さをかけてみ!」

「あっ、なるほどね! ちょっとやってみるよ!」

 アイリスはそう言って、比呂貴に言われた石に対して圧力をかけていく。石は土にめり込んでいった。


「そうそう。いい感じじゃん!

 じゃあ、その石に対してもっと重さを掛けようか? オレが十人、いや百人くらい乗っかったのをイメージするんだ。」

 比呂貴の言葉にアイリスはこくんと頷いて石に対して集中している。

 すでに石は土にめり込んでいるが、とうとう重力に耐えれなくなり何個かに割れてしまった。

「おおおぉ! スゴい! こんな方法で石を割ることも出来るんだね。」

 アイリスはニコニコ顔で比呂貴に向かって言った。


 その可愛いニコニコ顔につられて比呂貴もニコニコで答える。

「うんうん。アイリスは特に種族の属性にとらわれることはないんだから、今みたいに世の中っていうか、いろんな自然現象をよく観察することによって魔法のヒントはいくらでもあると思うんだよね。」

「なるほどね。ロキの言うことは確かにわかるんだけどなあ。でも実際は簡単じゃないよ。なんでロキはそんなにいっぱい知ってるの?

 くそう。悔しいなあ!」

 アイリスの謎な負けず嫌いモードが発動したようである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る