半魔と白巫女 其の1

人間の国の、都会から離れたとある小さな村。


  その村の様子はひと目でわかるほどに、貧しかった。


 ちゃんとした大工がいないのか、ところどころに隙間があり、決して頑丈とは言えないボロボロの家


 特定の場所に固めて作られたいくつかの家から少し離れたところにある、畑。

  しかし面積も狭く、土も痩せていたためにこれでは満足に村の食料を得られそうにはない。

 

 また、近くには森があるが海などはなく、海産物を食料とすることも不可能であった。


 つまるところ食料も足りておらず、家はボロボロ、こんな村が今まで成り立っていたのも不思議な状況だった。


 ではなぜこの村というものが成り立っているのか。それは、この村を見たものなら誰もが浮かべる当然の疑問だろう。


 その当然の疑問に対する答えは、単純であった。


 偶然や奇跡ではない。ましてや、神様のおかげ、という訳でもない。


 その理由とは、この村に数ヶ月に一度、国から派遣された白巫女がやってくるからだ。


 白巫女が雨を降らし、土地にめぐみを与え、土地を潤わせる。


 さらに言えば、介護や病人の世話などもする。


 白巫女には、それができた。当然のことのように。


 そもそも白巫女とは、生まれながらにして特別かつ神聖な魔力を体に有している者のことで、白巫女として完成すれば、万病を直したり、どんな傷も癒せると言われている。

更にはまだ未熟な白でさえ、軽い傷を直したり土地を潤わせることが出来る程の強力かつ国が公に保護したがるほどの貴重な力だ。


 ではここでもう一つの疑問が浮かぶと思う。


 国はなぜ、こんな小さくてボロい村に貴重な白巫女という存在を派遣しているのか、ということである。


  正直こんな事例はほかにはないだろう。


  だからこそ異質で、異常でもあった。


  その異質で異常な状況が成り立っていたのは国とこの村との交換条件である。


  交換条件と言っても、それは表面上だけであり、実際は国からの圧力による命令と言いかえてもいい。それでも国が表面上だけとはいえ対等な交換条件という立場を要求したのは、万が一にも反対や拒否をされないためであった。


  国がここまでしてこの村に飲ませたかった要求とは、ある生物がこの村にいるという事実の隠蔽、更にはそのある生物を保護し、また捕獲しておくこと。であった。


  ではその生物とはなんだろうか。


 

  幻獣か。


 

  もしくは絶滅危惧種の動物か


  否。どちらも否。

 

  幻獣などとは正反対に禍々しく、忌み嫌われ、絶滅危惧種のように大事に扱われることもなく、ただ、刺激しない様にして飼われていた存在。


  村の外れにある人の通りが一切なく、生い茂った草木と盛り上がった土の上にただ1本生えている年季を帯びた巨大な木の根元。



  そこに、それは居た。

 

  正しくは、手足を鎖で拘束され、繋がれていた。


  見た目は12、13の少年で、服はボロボロでところどころ破れた生地の粗い布。体はやせ細っていて、いかにも粗末な扱いを受けていたことが見て取れる。


  そして、その少年の何よりの特徴は、暗闇、もしくは明かりのない夜のような、そんな、形容しがたい漆黒の髪と瞳であった。


  そして。この世界では、それが異常とされていた。


  その訳は、この世界には赤や青、茶色、あったとしても黒に近いくらい色で、それに近しいものがいたとしても、何かしらの色が混ざっていて、彼のように真に黒髪の人間などいないからだ。

  人間にはいないと言ったが、人間とは違う国に住む魔族ですら、黒髪になることなどない。理由はわかっていないが、そういうものなのだ。


  唯一人の形をしていて黒髪や黒い瞳を持つのは、魔族からも、人間からも忌み嫌われる、半魔しかいない。


  そう、つまりその少年は半魔なのだ。


  半魔とは人間と魔族の子に生まれた混血で、魔族の中でも魔王に匹敵する半魔のその力は成人にもなれば絶対的な力となり、なおかつ人としてと知性や複雑な術式も使える、非常に危険な存在の事である。


  それ故に鎖に繋がれ、暴れられないように、拘束されている。ちなみにこの鎖は魔法具という物で、特別な術式が施されており、人間はおろか人間よりもはるかに強い力を持つ魔族ですら、壊すことは出来ない。


  半魔として生まれたばかりに周囲からは忌み嫌われバケモノでも見るかのような目で見られ、年相応にふざけ合うような友達もできない。さらには、鎖によって何も出来ないことを知った者達には、一方的に暴力を振るわれることだってある。そして、それ以外の人間たちは、誰も必要以上に彼には寄り付かない。

  彼には親もおらず、彼を心配する者もいない。完全なる孤独であった。


  考えても見てほしい。12、13の少年がこのような境遇に立たされ、平気でいられるわけもなく、彼は悲しみの涙すら枯らし、ただただ半魔である自分を嫌い、人間に生まれなかった自分を恨んでいた。


  一方、この村に来る白巫女はと言うと、半間やバケモノのことなど一切知らされることなく、ただ、国から言われた通りに村に恵をもたらすだけだ。


  それだけで村の人から感謝され、常に必要とされる。


  神聖な力を持つ白巫女と、忌み嫌われる存在である半魔は、言うまでもなく真逆の存在であろう。


  それ故に互いを知り、出会うことなどなく、出会ったとしてどのような結末が待っているかなど、誰も知らない。

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