【番外編】真夜中とタクシーと追跡と(中)

KAC202210 お題「真夜中」


夜中に目覚めると、

はるさんが…い、いない!!

果たして彼女はどこに!?


番外編キャンプと…の中編です。

月曜日から本編再開できる…予定です!


~~~~~~~~~~


ある、休日前の真夜中…

尿意で目を覚ました俺は布団に違和感を

感じた。あれ?いつもすぐ隣にある

愛しい人の匂い、感触がしない…


「…はるさん?あれ?トイレかしら?

おぉーい、はるさーん?おぉーい!」


いくら呼んでも返事がない。

トイレや浴室、台所を慌てて探し回り、

最後に辿りついたのは玄関。

いつも置いてあるはずの彼女の靴が

いつもの場所から消えていた。


時刻は深夜1:00を回っている…

こんな夜中に一体一人で何処へ…?

ま、まさか…う、浮気…?

突然の彼女の失踪に、半ば半狂乱になりそうな自分を落ち着かせるために深呼吸をして胸で十字を切ってみる…。

うん、大丈夫、はるさんが俺を裏切るような

ことをするはずがない!

そうだ、信じないでどうする!

きっと、小腹でも空いてコンビニとかに

行ったに決まっている!

物音のしない室内に響く独り言が、

余計に不安を煽る。


あ、そうだ、困った時の

位置情報共有アプリを見てみよう。

アプリを開いて確認してみると、彼女の

居場所は車で半刻ほどかかるところにある

緑地公園を指していた。

ん、公園?こんな真夜中に…?

先程信じると決めたばかりの俺の心は

また乱れ始めている…

うん、疚しいことがあるなら位置情報なんて

消しているはずだし、はるさんは

きっとここに用事があるんだ…

居場所はわかったが、だからと言って眠りにつけるわけもなく考えた結果、酒を飲んでいたこともあり俺は、タクシーでこの場所まで行くことにした。


配車アプリですぐにやってきたタクシーに乗り込み、運転手さんに行先を告げる。


「運転手さん、近くの緑地公園まで

急ぎでお願いします!」


”かしこりました~!そーいえば、先程も緑地公園までというお客さんを乗せましてね、何かこんな時間から緑地でイベントでもあるんですか?”


「え!それ、どんな人でした?」


”んー、先程もこの近くから乗せましてね?暗くてしっかりとは見てないですけど二十代くらいの若くて綺麗な女の人でした。なんか、大きな荷物をお持ちでしたけど。”


ここら辺から乗る若くて綺麗な女性…

それ絶対はるさんじゃん!!

しかし、大きな荷物って…なんなんだ?

益々謎は深まっていく…

こうして運転手さんと世間話をしながら、乗せたという女性の情報をさり気なく聞き出し、女性を降ろしたという場所で車を降ろしてもらうことにした。


比較的街灯は多いが、薄気味悪い夜の緑地公園。位置情報アプリを見るとはるさんはまだ、公園内にいる様子。

とにかく探すしかない…

真っ暗な木々の中に入っていく勇気はなかったので、街灯が立ち並ぶ遊歩道沿いをアプリを確認しながら進んでいく。

真夏の真夜中ということもあり、湿気を帯びてはいるが昼間よりも断然過ごしやすい公園内には、ランニングをしている人や缶ビール片手に盛り上がっている若者の集団がいたりして少しホッとした。これが真冬だったら人っ子一人いないだろうし、もっと恐怖を感じていたであろう。そして、俺とはるさんの位置情報が近づいてきた刹那、近くの茂みのほうから何やらガサガサと葉っぱを踏みしめるような音が近づいてきた。


ガサガサガサガサガサガサ


「『う、うわぁーーーーー!!』」


『ぎゃーーー!!って、あれ?稜さんじゃないの!こんな所で何してるの?』


「きゃーー!はるさん?いやいや、それはこちらの台詞だわよ!トイレに起きたらはるさん居なくなってるから心配になって位置情報で探しにきたのよ!というか、本気で心臓に悪いわ…。で、こんな真夜中に何してるの…?っていうか、それ…何…?」


『あー、ごめん。声かけようと思ったんだけどさ、稜さん気持ちよさそうに笑いながら寝てたし起こしたら悪いと思って。それに…稜さん…虫苦手でしょ?』


「へ?む、虫ですか?ごめん、はるさん

話が全く見えないんですけど…」


『実はさ、この前ヒグラシ見つけて隣のサイトの男の子に見せに行ったでしょ?あの時その子のお母さんと話してたんだけど…あの男の子体が弱くて、一年の半分くらい入院しているらしいのよ。で、あのキャンプから帰った後に手術でまた入院することが決まってたらしくてさ…で、私約束しちゃったのよ。ミヤマクワガタを持っていくから手術頑張ろうね?ってさ…で、この緑地にクヌギの木あるらしいってネットで見つけちゃったもんだからいても立ってもいられなくて、探しにきたのよ。稜さん、セミの時もだいぶ怯えてたし、連れていくのは可哀想かな?と思って稜さんが寝てからきたというわけ。』


彼女の話を聞き安堵した俺だが…

なんとまぁ、うちの彼女の真夜中に

出歩く理由が…クワガタ採取とは…


「んもぉーー、そんなことなら言ってくれればいいのに!そりゃあ虫は苦手だけどそんな理由なら俺も頑張りますよ!でも、本当よかったーーーぁぁ…」


こうして、真夜中のはるさん行方不明騒動は

またしても虫に振り回されるという結末で

幕を降ろした。


「ぎゃーーー!!カブトムシ、クワガタも

やっぱり怖ーい!!!」


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