第25話 幼馴染の水着姿が気になる元勇者

 最寄り駅のバス停から約二十分掛けて、少し離れた市民プールへとやって来た。

 ここは市内ではあるものの、駅前からは大きく離れているので土地が余っていたのか、市民プールとは思えない程に大きなプールだったりする。

 普通のプールはもちろん、冬でも泳げる室内温水プールに、大きな五十メートルプールや、流れるプールにウォータースライダーなどと結構本格的に遊べて、市民は半額で利用出来てしまうのだ。

 なので、七月半ばの土曜日は当然の様に人が多いのだが、


「ソウタ。プールに人が居ない! 貸し切り?」

「あー、まぁここは泳ぐ練習をするには打ってつけだよな。日差しも無いし」

「うーん。でも、私はあっちの大きな滑り台とか、ぐるぐる水が動くプールが気になるけどねー」


 俺たちはスライダーもなければ、日差しも無い、ごく普通の室内プールに来ていた。

 ここのプールへ来る客は、大半が屋外にある遊ぶためのプールに行くからね。とはいえ、監視員すら居ないのは問題な気もするが。


「ここなら、マリーちゃんも周囲を気にせず練習出来るし、丁度良いんじゃないかな」

「うん。泳げるように頑張る」

「じゃあ、先ずは準備体操からな」


 マリーとエレンはいつも通りのスクール水着だが、陽菜のパレオが付いた可愛らしい水着をチラチラ視界に映しながら、しっかりと準備体操をすると、早速プールの中へ。


「マリー。まずはこれを使ってバタ足から練習してみよう」


 予め用意しておいたビート板をマリーに渡し、先ずは板の先端を持って、顔を水へ浸けない使い方から始めてみる。


「おぉー。浮いたー」

「その状態で、足を動かしてみよう」


 バタ足を教えてマリーにやらせてみると……バタ足の水しぶきで、びしょ濡れにされてしまった。

 まぁまだ顔を水に浸けていなかっただけで、いずれ濡れるのだから良いんだけど、もう少し加減しようぜ。

 テレビでオリンピックを観戦していても、こんな小爆発みたいな水しぶきをあげる選手は居なかったよ!


「ソウター! ウチ、泳げてるー!」

「お、おぅ。じゃあ、今度はビート板の後ろの方を持って、顔を水に浸けて同じ事を……って、溺れるのが早いっ!」


 顔を水に浸けなければ真っ直ぐ進んでいたのに、水に顔を浸けるとパニックになるのか?

 これは水に顔を浸ける練習から始めなければならないのだろうか。


「ソウタ! わかった! こうやって、この板に身体を乗せれば沈まない! ウチは水の上でも大丈夫!」

「先ずはそれで良いけど、目標はその板無しで泳ぐ事だからな?」

「それは無理。ウチとこの板は、プールでは一心同体!」


 いや、ビート板と一心同体って。

 マリーがビート板を抱きしめるように、胸を乗せてプカプカとプールに浮きだしたから、大きなマリーの胸が更に強調され、胸元から谷間まで見えているし、どこから突っ込めば良いのやら。


「ソウタ。マリーを見過ぎ。私も見て」

「いや、今日はマリーを泳げるようにするために来たんだからな?」

「だったら、マリーをヒナさんに見て貰って、ソウタは私と一緒に泳ご」

「マリーが泳げるようになったら構わないよ」

「えぇー。じゃあ、それまで私ヒマだよー」


 エレンがマリーと同じようにビート板に胸を乗せて近づいてきたけれど、まぁその……どんまい!

 エレンの胸が将来大きくなる事は分かっているから、今は小さくても気にしちゃダメだよね。

 それから陽菜と協力して、暫くはマリーの顔を水に浸ける練習をしたり、息継ぎの方法を教える。


「そ、ソウタ。ちょっとくすぐったい」

「颯ちゃん……どこを触っているの!?」

「えぇっ!? 違っ、これは不可抗力だって」


 息継ぎの練習をするために、マリーの身体を支えておいてって言われて、真っ直ぐ伸ばした俺の両腕の上に、マリーが身体を預けてきたんだ。

 そりゃ、いろんな所に手が当たっちゃうよっ!

 とりあえず、ビート板をお腹の下に敷いて、それを俺が支えるって方法に変わったんだけど、これはこれでマズい箇所に俺の手が当たりそうなんだけど。

 変な事を考えないように、心を無にしてマリーの指導の事だけを考えていると、これが功を奏したのか、マリーが少しずつ泳げるようになってきた。

 まぁ元々マリーは身体能力が優れているし、コツさえ掴めば大丈夫なんだよね。

 生徒の目覚ましい成長っぷりを、陽菜と共に喜んでいると、


「あれ? 颯ちゃん。そういえばエレンちゃんは?」

「ん? さっきまでプールの端に居たと思っていたんだけど……どこへ行ったんだ?」


 周囲を見渡してみても俺たち三人しかおらず、エレンの姿が見当たらない。

 トイレにでも行ったのか、もしくは待ち切れずに一人でスライダーへ行ったのかと思っていると、


「あ、あれ? 颯ちゃん。こっちのプールって波とかが起こらない、普通のプールだよね?」

「そうだけど……って、何だ? 水が流れてる?」


 プールの水が流れ、引き寄せられる。

 一体何が起こっているのかと思って水流の先に目をやると、俺の身長の倍以上ある水の山が、何故かプールの真ん中に出現していた。

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