第12話 休み時間に幼馴染と過ごす元勇者

 マリーと共に階段を駆け下り、チャイムが鳴り終わると同時に教室へ滑り込む。

 屋上でチャイムの音が聞こえた瞬間、我に返り、二人して異世界の運動能力をフルに使って戻って来たのだ。

 ……凄く、無駄な所で使ってしまった気がするが、一先ず間に合ったので良しとしよう。

 二人でどこで何をしていたんだ!? と和馬が無言のまま訴えかけてくるのをスルーして、三時間目の英語に臨み、次の休憩時間でようやく陽菜と話す事が出来た。

 ちなみに、窓際にある陽菜の席で喋っているんだけど、俺の席を囲む三人が自席に座ったまま、こっちの様子を窺うように見てくるのは何なのだろうか。


「勉強会? 私と颯ちゃんで?」

「そう。俺の家でも良いし、陽菜の家でも良いからさ。ちょっと次の試験がヤバそうなんだよね」

「そうなの? 一緒に勉強するのはもちろん良いんだけど、でも颯ちゃんって、私より成績良かったよね?」

「そ、そうだっけ? いやー、陽菜の勘違いじゃないかなー? 俺は、運動だけが取り柄だし」

「帰宅部なのに?」

「それは、部活に時間が取られて、陽菜と一緒に居る時間が減るのが嫌だからさ」


 陽菜に言われてようやく思い出したけど、元々俺は運動得意じゃなかったな。

 陽菜に会いたい一心でがむしゃらに努力した結果、かなりの運動能力を得たので、やはり人間は才能よりも努力が大切なんだ。

 やる気さえあれば、何でも出来る、何でも成れる。

 そんな事を考えながらも、日本へ戻ってきたものの、陽菜と一緒に居る事だけは決めているけれど、将来自分が何になりたいかってビジョンは、全く無いんだけどさ。


「それより、颯ちゃん。あの、キャンベルさん……とは、どういう関係なの?」

「え? いや、むしろ俺が聞きたいんだけど。マリーは昨日言った通り、小さい頃に会っているけど、キャンベルちゃんの事は本当に知らないんだ」

「でも、外国から来たばかりで、ほぼ初対面の女の子から告白されるなんて……」

「どうしてなんだろうな。あ、分かった! もしかして俺、外国人ウケする顔なんじゃない?」

「どう……かな? 私は小さい頃から颯ちゃんと一緒に居るから分からないよ」


 おぉぅ。ボケたつもりだったんだけど、真面目に返されてしまった。

 顔も身長も並レベルの俺が、普通はモテるはずなんてない。

 マリーみたく、俺が救ったティル・ナ・ノーグの住人ならまだしも、こっちの世界の俺は、ごくフツーの高校生だからね。


「まぁとにかく、あの子には悪いけど、昼休みにちょっと断ってくるよ」

「そうなんだ。良かっ……こほん。でも颯ちゃん、良いの? 今はちょっと幼いけど、将来とんでもない美人さんになるかもしれないよー?」

「いや、幼いってレベルじゃなくないか? 小学三年生とか四年生って感じに見えるんだけど」

「そ、そうだね。……もしかして、飛び級なのかも。実は凄く賢いんじゃない?」

「あー、確かに。海外だとあるもんなー。中学生くらいの年齢で博士号取得とかって」


 昨日、テレビに驚くマリーをからかいながらニュースを見てたら、丁度そんな話が出て居た気がするよ。

 しかし、仮にキャンベルちゃんが飛び級で日本の高校へ進学していて、実年齢が八歳くらいだとしたら……和馬はガチのロリコンじゃねーかっ!

 これは、クラスメイトから犯罪者が出る前に止めておくベきだろうか。

 流石に通報は可哀そうなので、和馬が思い余って何かしようとした素振りを見せた瞬間、気絶させるとか。

 今の俺が本気を出せば、キャンベルちゃんが登下校の間、影から護衛する事くらい出来てしまいそうだけど、これで何も起こらなければ俺がストーカーみたいになるな。

 陽菜とは家で喋ったけれど、学校の休み時間という、また少し違う場所と時間を陽菜と過ごす事が出来た事を喜びつつ、放課後に俺の家へ来て貰う事にして四時間目の授業へ。

 陽菜との勉強会を楽しみにしながら、世界史の授業を受けて、遠い記憶の彼方で僅かに残る知識を引っ張り出す。

 そういや、大昔に中国で火薬が発見されたって授業で習った気がするけれど、異世界に火薬は無かったな。

 地球の火薬発明時期よりも文化が遅れていたという事か。

 でも火薬なんて無くても、火の精霊を用いた魔法で事足りたから、そもそも技術の進歩過程が違うのかもしれないけどね。

 地球と異世界の技術の歴史を比較していると、ちょっと世界史の授業が面白く感じ、いろいろと記憶が掘り起こされる。

 この分だと、世界史……というか、暗記系は自分一人で勉強しても大丈夫そうだな。数学は全く出来る気がしないけど。

 あっという間に世界史の授業が終わり、ついに昼休み。

 さて。せっかく好意を持ってくれているのに拒絶するのは心苦しいけれど、キャンベルちゃんと話をするか。


「えっと、じゃあ……ちょっとお話する?」

「……うんっ!」


 何かを期待しているらしく、瞳をキラキラと輝かせるキャンベルちゃんを連れ、屋上へ向かう事にした。

 その期待には応えられないんだけどね。

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