閑話肆 龍とは

 彼らが白朱の許で修行を始めてから数週間が経過した。彼の者にいた龍二の兄龍一と“義輝”と名乗る男のお陰で剣術や剣技が格段に成長していった。加えて、徐々にではあるが青龍達の力を自分たちの意思でコントロールできるようになってきた。

「これはなかなか維持するのが難しいねぇ」

 いまだに成れていないようで体力を相当持っていかれるらしい。ただ使うだけなら10分持てばいいほうである。コントロールして使用となると2分も持たない。

「そのうち慣れるよー」

と気楽に玄武は笑うが、彼らにしてみればこれしきの事でへばるのは情けないということでひそかに走り込みを始めたりして少しでも体力をつけようと努力していた。

 龍二は一人、紅龍から指導を受けていた。彼は他の三人よりも習得するものが多く別メニューだった。

 槍術、進藤流剣術二之型、青龍と紅龍の力と内容盛りだくさんであり、兄含めて三人から事細かに教わっていた。特に二之型については龍一曰くこういった異形用に特化したものであると教えられた。

「お疲れだな。我が主」

 顕現した紅龍が床にぐったりしている主人に話しかける。大きく息をしている龍二は力無く頷く。返事をするのがやっとである。

「まぁ仕方ないな。我が主は覚えることが沢山ある故、倍以上体力を持っていかれるしな」

 苦笑して主を撫でる。その顔は笑んでおり、兄のそれと似ていた。あまりの疲労に彼は着替えて寝ようと疲労困憊の身体を起こした所で紅龍はそんな主に質問をする。『龍』についてどこまで知っているのかと。ほんの軽くと返した彼に

「なら、俺たちのことについて知っておいた方がよさそうだな。夢の中で話すとしよう」

 龍二はこくりと頷いて寝床にダイブしてそのまま意識を飛ばした。








『さて。何から話すべきかな』

 開口一番、紅龍は主に最初はどの辺から話そうか悩んでいた。考えてなかったのかよと突っ込んだ龍二であったが、紅龍は無視した。

『まず俺達は、八百万神とか精霊とかそんな類と思ってくれていい』

「自然発生したようなものか?」

『そうだな。最初はそんな感じで俺達はこの世界に生まれた』

 それから彼は簡単に自分達のことを話し始めた。

 『龍』は最初自然発生的に顕現した。最初は一匹であったが、時が経つにつれてその数を増やしていった。ある程度の数になった時から彼らは『家族』として一緒に過ごすようになったという。

『ある時、俺達の主は夜盗に襲われて瀕死の重傷を負っている一人の少年を見つけた。主は夜盗を追っ払った後、少年を助けると同時に彼と契約したんだ。貴方と貴方の一族を今後あたし達が守ってあげる。その代わり、時々でいいからあたし達とお話ししてくれる? ってな。それが後のお前らの先祖となる趙子龍だったんだ』

「へぇ・・・・・・・・ってか、契約内容がゆるゆる」

『まぁ、俺達の主は上に立つ資格はないんだがなぁ・・・・・・・・まぁいいや。それから俺達は子龍の一族を護っていき、煬帝の治世の時、要請を受けて日本に来てそれからはこっちで過ごしているな』

「・・・・・ねぇねぇ。本国にはもういないのか?」

『いや、宗家はきたが分家がそっちに残っているからいるぞ』

 つまり中国本国には分家がいて彼らが大陸を護っていることかと理解した。紅龍はそれに頷いて『龍』の分類について話し始めた。

 彼らは主に二つに分類されるという。一つは紅龍のように生まれてきた人間に宿り護る者と、進藤家の家に顕現して身の回りの世話などをする者になるという。前者を『宿龍』、後者を『家龍』と呼称しているようだ。この呼称は彼ら仲間内でしか行っていないようで進藤家では単に『龍』としか言っていない。

「『家龍』?」

『ほれ、風龍がそれだ』

 あぁ!と龍二は手を打った。成程彼女達をそう言うのかと。

 紅龍は続ける。頂点に龍王を抱きその下に実力などが他の龍より強力である『五大龍』がいて、その下にその他の龍が連なっているという。彼らは名によって使える能力が異なる。水の名がつく龍は水系の、自然の名がつく者は大地の力をといった感じである。

『それで、俺を含めた一部の龍はそれとは別に力が与えられている』

 紅龍がいうには、『五大龍』と頂点の龍王には別格の力が備わっているという。そのあたりを含めて彼が説明を始めた。

 龍王は彼らの王であり、全知全能の力を備えているが、色々と抜けていて少し頼りない。

 『五大龍』はその下にいる五匹の実力者集団である。リーダーは天龍といい『慈愛の女神』の二つ名がある。あらゆるものの生命の生殺与奪を司るとされ、その力はトップクラスであるが、お転婆が過ぎトラブルメーカーでもある。

 ナンバー2は『伏したる龍』伏龍。殆ど眼が覚めることがない者で、命を宿したり万物を焼き尽くす『紫焔』を要する最強クラスの龍である。天龍の御守で苦労が絶えない。

 ナンバー3は『聖なる光』聖龍。武士に憧れているようで、言葉遣いに難があるが、その力は折り紙付きである。あらゆるものを浄化する光の炎を持つ。

 ナンバー4は『狂龍』である紅龍。宿した者に悪しき考えしかない者は自らの炎で焼き尽くす気ままな性格。紅蓮の業火は全てを焼き尽くす威力を持っており扱いを間違えれば災害級のものである。

 ナンバー5は『金色の神』黄龍。達観した性格であり、全てを防ぐ鉄壁の守りを力とする。

『ざっと説明したけど、ナンバーなんて俺らにはあってないようなものだからな。ただ、天龍伏龍は俺達のリーダーであるのは間違いない』

「へー・・・・・・・・・苦労してんだね。その伏龍」

『あー、まー、うんそうだな。お前も会えばわかる』

 げんなりした紅龍を見て彼は何となく察した。成程、うんあれだ死んだ姉貴と同じ部類かと一人頷いた。

『俺達がお前達に宿るときは基本ランダムだ。誰がどこに宿るかは俺達も分からんのだ』

 おみくじというか宝くじみたいな感じなのかなと龍二は考える。

『そろそろ時間か。またな、龍二』

 それを聞いた彼の意識はブラックアウトした。









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