第6話 コンコンコン

 〇二階堂 泉


 コンコンコン


 少し緊迫してる所にノックが聞こえて、肩が揺れた。

 あたしは、自分が思ったより緊張してた事に気付く。


「どうぞ。」


 父さんの返事と共にドアが開いて、現れたのは…


「…浩也さん?」


 父さんを含めた全員が…少しだけキョトンとした。


「先ほどこれが。」


 浩也さんが、手にした封筒を掲げる。


「誰がそれを?」


「バイク便が持って来ました。」


「……」


 父さんは封筒を受け取ると、それを開けた。

 中にはいくつかの資料と…USBが一つ。

 それを見た富樫がパソコンとモニターを用意して、あたし達は椅子を移動させて全員でそれを見る事にした。



『高津瞬平』


 モニターには瞬平の名前が映し出されて。


「…何だこれ…」


 瞬平が眉間にしわを寄せる。

 そこには、瞬平がドイツの現場に踏み込んでる姿。


『知能100 技術100 観察能力95 判断能力92 戦闘能力90 察知能力90 危機管理能力92 適応能力98 身体能力100 遺伝子100 トータル957』


「な…」


 映し出された数字に、瞬平が絶句する。


「…頭!!あの現場はテストだったって事ですか!?」


「私は何も知らない。」


「っ…」


 数字だけ見れば…二階堂の中でも高評価のはずなのに。

 あたし達が求めるのは、常にオール100だ。

 …遺伝子まで数字で評価されるとなると…



『高津薫平』


「…俺、抜けたのに調べられてたんだ?」


 薫平はとぼけた口調で言ったけど、目は真剣で。

 映し出された自分が現場じゃなく…自宅で庭いじりをしてる姿だった事で、富樫をチラリと見た。


『知能100 技術100 観察能力95 判断能力95 戦闘能力95 察知能力90 危機管理能力90 適応能力95 身体能力100 遺伝子100 トータル960』


 …瞬平と薫平ほどの能力があっても、こんなにマイナスされるもの?


 続いて…


『富樫武彦』


『知能95 技術90 観察能力90 判断能力90 戦闘能力85 察知能力80 危機管理能力85 適応能力90 身体能力90 遺伝子85 トータル880』


「…っ…」


 富樫は自分の評価に唇を噛んだ。

 いくら中途組でも、富樫は出来る奴なのに…

 何だろう?この低評価…



『東 志麻』


『知能100 技術95 観察能力95 判断能力98 戦闘能力100 察知能力95 危機管理能力95 適応能力98 身体能力100 遺伝子100 トータル976』


 たぶんこれもドイツの現場。

 さすがの評価に思えるけど…


「……」


 志麻は目を細めて、不満そうな顔をした。



『二階堂 海』


 続いて映し出されたのは兄貴で。

 去年終えた長い現場の映像が流れた。


『知能100 技術100 観察能力98 判断能力98 戦闘能力100 察知能力98 危機管理能力97 適応能力98 身体能力100 遺伝子95 トータル984』


 兄貴の遺伝子…

 本当の父親が一般人だから?

 その評価にかどうか、兄貴は無表情で首を少しだけ傾げた。



「…あれ?あたしは?」


 兄貴の前に出て来ると思った自分が出て来なくて、思わず声に出すと…画面にあたしが映った。


「……」


 これ…


『二階堂 泉』


『知能100 技術100 観察能力100 判断能力100 戦闘能力100 察知能力100 危機管理能力100 適応能力100 身体能力100 遺伝子100 トータル1000』


「満点…」


 富樫がつぶやく。

 点数よりも…その後ろで背景として流れ続けてる自分の姿を見入った。

 …『トシ』に気付いて泳がせて…初めて蹴りを入れようとした日の映像。

 そして…富樫の上に鉢が落ちて来た時の映像…

 それに関しては、富樫もハッとしてあたしを見る。


「…尾行に気付いたのは泉だけか。」



 トシ…これが任務だったのか…

 だとしたら…

 この点数って…


 めちゃくちゃ私情入ってるんじゃ?




 〇二階堂 海


「尾行に気付いたのは泉だけか。」


 親父の言葉を聞きながら、映像の自分を思い返した。


 …あの現場は、咲華と出会う前。

 少し長くかかった、手の込んだ現場だった。

 尾行されていたとしても、現場に集中していたら気付かない。


 …いや…

 どんな場面でも気付かなきゃいけないのが…俺達だ。



「…お嬢さん、いつ気が付かれたのですか?」


 瞬平が悔しさをにじませた表情で泉に問いかける。


 泉の映像は、現場が映っていなかった。

 尾行に気付いて若い男に対峙している場面と…

 富樫を突き飛ばした場面。


「えー…」


 泉は唇を尖らせて頭をポリポリと掻くと。


「ニューオリンズの現場かな…」


 ボソッとつぶやくように言った。


「ニューオリンズ…」


 そこに一緒に行っていた富樫が、目を丸くする。


「でも対象者があたしかどうか分からなかったから、ちょっと泳がせてたのよ。そしたら…一人になってもついて来たから…」


 …みんなは泉の評価をどう思ってるか分からないが…

 俺は泉が満点でもおかしくはないと思う。


 以前は感情に任せて突き進む傾向があった。

 …さくらさんが、感情的になって敵を一人で倒したように…

 泉にも、その可能性がないとは言えなかった。


 だが…

 聖と別れてからの泉は、変わった。

 自分を抑えるようにもなった。



 …自分のマイナス16を笑う。

 遺伝子のマイナスは選考者の見解だろう。

 俺は100だと信じて疑っていない。

 だとしても、残る11をゼロにしない事には…


 それにしても、富樫の評価が低過ぎる。

 近年は護衛から離れて、現場を任せる事も増えた。

 親父からの信頼も厚い。

 遺伝子や中途採用が関係しているのを引いても、もっと高評価でもいいはずなのに。



「…海、どう思う?」


 親父が低い声で俺に言った。

 目を合わせると、それは…SSに誰が行くか。と問われている気がした。


 …俺はトップだ。

 咲華を残してでも行くべきだ。

 なのに、俺は単身だと受け入れられない。

 あちら側は、咲華の能力も知っているらしい。


 …初めて…

 自分の立場を疎ましく感じた。


 愛しい存在を守りたい。

 それなのに…危険にさらしてしまった…


 親父と目を合わせたまま言葉を出しあぐねていると。


「あたし行くよ。」


 泉が…

 まるでどこかに遊びに行くかのような、明るい声で言った。

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