第14話 るーに『さよなら』言われて

 るーに『さよなら』言われて、自分でも自覚出来るほど腑抜けんなった。


 これはー…アレなんかな。

『失恋』てやつなんかな。



 親父が死んだ時みたいに、ギターに対する熱が若干引いた気がした。

 それとこれとは別。て思うてるのに、スタジオでのみんなの顔がそう言うてる事に気付いた。


 あー、そーか。

 俺、今全然熱くなってへんのかーって。



 ナッキーは以前と変わらん態度で俺に接するも。

 俺は少し口数が減った。

 ど―――しても、ナッキーが言うた『はじめてちゃん』が許せへんかったからや。


 さすがに無視は…ないよな。て、ホンマはそうしたい気持ちを抑えて接した。

 けど、ギクシャクした空気が嫌やったんか、数日ナッキーの不在が続いたある日…



「るー?」


「…こんにちは。」


 突然、るーがやって来た。

 ナッキーのマンションに。


 ナッキーのマンションやけど、ナッキーは不在で…

 間の悪い事に、マリと二人きり。

 しかも俺は上半身裸…



「ど…どないした?なんでここに?」


「…なん…何でだろう…ね。」


「……」


「………失礼しました。」


「おい!!るー!!ちょい待てや!!」



 何でここに?って疑問で頭ん中渦巻いてる間に、るーは俺に背中を向けて駆け出した。


「ちょ…俺出掛けて来る。」


「…ふーん…あの子がね…」


 マリのつぶやきが耳に入った気もしたが、それに答える事はなくシャツに袖を通しながら階段を駆け下りる。



 なんなんや。

 こんな面倒臭いの…嫌やな思うてたのに。

 何、熱うなってんねん…俺。



「待て言うとるやないか。」


 駅の前で腕を掴む。

 


「るー。」


「……」


「うちには、なんで?」


「さ…さよならって言っておいて…あたし…」


「それは…ええから。」


「……」


「こっち向いてん。俺、服着てるで?」


 ああああ……

 るー、泣いてるやんか…!!


 こんなんすっ飛ばして、抱きしめたい。

 抱きしめて、俺の事信じてくれ言いたい。

 けど…

 そんなんしたら、絶対嫌われてまう…



「…なんか、想像したやろ。」


 俺が裸やった事。

 たぶん…るー、誤解したはずや。


 けど、るーに告白した日に決めた。

 もう、マリとは寝ぇへんで。って。



「でも、なんもないで?」


 色んな気持ちを抑えてそう言うも、るーは完璧疑うてる。

 そっぽ向いた顔、わざと覗き込むようにしても。

 全然目ぇ見せてくれん。


「なんかあったら、こうして追いかけてこんわ。」


「……」


「俺にも罪悪感はあるで?でも潔白やから追ってきた。」


 真実を伝えると、やっと…るーが顔を上げて俺を見てくれた。


 …目ぇ真っ赤やん…

 俺が泣かしたって分かってるけどー…ああ…

 自分で自分を殴りたい。



「家まで送る。」


 るーのカバンに手を伸ばすと、若干ビクつかれて…ちとへこんだ。

 …仕方ないやん…

 折れるな…俺…



「なあ。」


「…はい。」


 るーのペースに合わせて、ゆっくり歩く。

 もっとゆっくりでもええ。

 なんなら、どっかで一緒に過ごしたい。

 …せっかく会えたんや…離れとうないわ…



「今から言う事、俺、マジやから。ちゃんと聞いて。」


「……」


「最初は、るーの事、興味本位やった。今までにないタイプやし。」


 もう、何も隠さへん。

 ありのままの自分を、るーに知ってもらおう。


 そう思うた俺は…


「でも、興味や好奇心が恋につながるのなんて、普通やん?」


「………」


「るーはこういうのが好きなんやろうか、とか、これを見たら、どない驚くんやろう、とか…気付いたらそんなんばっかやった。」


 こ…

 こっぱずかしい――――!!


 俺にこんなうぶな気持ちがあるとか、ぜっっっっったいナッキーやナオトには言えへん!!



「真音…」


 はっ…


「…やっと呼んでくれた。」


『朝霧さん』やないっ!!


 浮かれた俺は、立ち止まってるーを見つめる。


「髪型、似合うわ。一瞬誰や思うた。」


 ホンマ…めちゃくちゃ可愛い。

 今まで、最初のポニーテールと三つ編みしか見た事なかった。

 今日はアレンジの効いた髪型。


 俺は、そっとるーの頭に手を置いて…


「でも、三つ編みも好きやな。」


 るーを見つめながら、本音を言う。


 ふっ。

 何やろ。

 三つ編みとか。

 クラスの女子がして来た時、文学少女かっ。てわろたのに。

 今は…愛しさしかないで。


 …なんや甘い雰囲気になって来たで。

 このまま、手を頬に持ってって…キス…とか…



「ご…ごめんなさい…」


 俺がちょいその気になったとこで、るーが体をよろめかす。


「るー?」


「き…緊張して、気分が…」


「………」


 その小声に俺は一瞬キョトンとした後。


「あははははははは!!」


 大笑いしてもた。


 髪の毛触って、可愛いて誉めた。

 そんだけで…緊張もそうやけど…

 すっかり、元の、俺の知ってるるーやん?



「るー、好きや。」


 勢いのまま抱きしめる。

 もう、離さへんで。って気持ちも込めて。


「△×%$~!!!!!!!!」


 案の定、腕の中のるーは悲鳴も出せへん。

 さらには、何なら白目や。

 はははは!!

 ブサイクやけど可愛いって、あるんか!?



 俺、ホンマ重症やな。

 白目むいた女、可愛い思うとか。

 けど、めっちゃ…幸せやん…思う。



「あれ?もしかして、イヤやった?」


 腕の力を緩めて言うと、るーは口をパクパクさせながら俺を見上げて。


「す……」


「好…?」


「す…すごくいいとこだったのに…ごめん…」


「………」


 真っ赤な顔のまんま、腰を抜かして地面に座り込んだ。

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