第10話 「何かあったの?」

「何かあったの?」


 タバコの煙を吐き出しながら、マリが言うた。


「あ?なんで。」


「…何となく。」


「なんやそれ。」


 俺も寝返りをうって、タバコを手にする。


 …はあ。


 こうやってマリと寝るの…何回目やろ…

 最初こそバツが悪うて、ナッキーと顔合わせるの辛っ!!思うた事もあるけど。

 すぐ開き直ってもうた。


 ナッキーに罪悪感とか持つのが当然なはずやのに、どっちか言うたらマリの方へのそれが大きい気がする。

 俺のせいや…って、ハッキリ言われたし。


 俺も俺で、ぶっちゃけ…気持ちええ事出来るんならって思いの方が強い。

 気付いてるんなら、ナッキーもハッキリ言うべきや。

『俺の女に何してる』って。

 そしたら俺かて…



「お気に入りの女の子がいるらしいわね。」


 うつ伏せんなっとる背中に、マリの指が這う。


「は?」


「取り巻きの子が言ってたわよ。マノン、毎週木曜日に会ってる子がいるって。」


「……」


 はあああああああ…

 面倒臭い。


「…あいつら、そういうのいちいちマリにまで言うてるんか。」


「あら…気付いてなかったの?」


「何が。」


「あたし、マノンの彼女って事になってるのよ。」


「はあ?」


 顔だけマリに向けると。


「その方が何かと便利だなと思って。」


 マリは平然とした顔で言うた。


「便利って何がやねん。」


「ほら、何度かあったじゃない…取り巻きの中で…」


「…なんや…」


「女同士のいざこざよ。」


「…あー…」


 そうやった。

 ライヴの後で取り巻きの一人に勢いでキスしたら、思い切り彼女気取りになってもうて…

 それじゃあかんかなー思った俺は、よっぽど好みじゃない女以外数人にもキスをした。

 まあ…それが火種にならんわけがなくて…


 けど、そういう矛先が俺に向かう事はなく。

 女同士でケンカして、勝ったもんが俺に勝ち誇った顔で報告に来た。

 …いやいや、『勝った』ってなんやねん…って。



「あたしがマノンと付き合ってるって事にしておいたら、誰もあなたに迫らないでしょ?」


「…まーな…」


 それはそれで寂しいが…絶対後腐れが残る取り巻き達とは、何も始めたくない。

 だとしたら…まあ、マリが俺の女やっちゅー方が…正解か。


「て言うか、それナッキーにバレたら…」


「言ったわよ。」


「へ?」


「ファンの勘違いからガードするために、彼女のフリしてるって。」


「……」


 自分の女が、他の男の彼女のフリ…て。


「…ナッキー、それ何も?」


「なるほど。って。」


「なるほど?」


「ええ。」


「……」


 マリは…ええ女や思う。

 色々世話焼いてくれるし、気もきくし…口も堅い。

 バンドの事に詳しいから、裏方も手伝うてくれるし…

 取り巻き達からも一目置かれてる存在や。



「…お気に入りの子、どんな子?」


 背中にマリの胸の感触。


「どんなって…別に、普通の子。」


「ふうん…」


「……」


 …あかん。

 こんな時に、るーの事は考えとうない。


「するんならするで、その話は終わり。」


 俺がタバコを消しながら言うと。


「ふふっ……分かった。もう言わない。」


 マリは嬉しそうに…俺にキスをした。

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