第10話 Sea of blood

 4月 13日(木) 午後7時30分


 俺が女体化した事実を知らないラスティナに、とりあえずナノマシンが原因で……と説明する。

 それから、ついでに父親が妊娠している母親に誤って男性用のナノマシンを注入してしまった事も。

 その影響でお腹の中の赤ん坊は女児から男児に……。


 つまり俺、元々女! という事を説明。


 しかし


『ソンナバカナー(某)』


 ふむぅ、その反応の理由を聞こうか。


『えっとですね……まず第一にナノマシンが体を作り変えるなんて有りえません。赤ん坊の頃でも、三カ月を過ぎた辺りから、ナノマシンはもう体の基本構造には触れないようにリミッターが着いてるんです。じゃないと暴走した時にUMAになっちゃいますよ、人間』


 うっ、なんかそれ怖い……


『たとえリミッターを外したとしても、男を女に作り変えるなんて……現在のナノマシンには不可能です』


 ふむぅ、そうなのか……。

 現在はって事は……いつかは可能になるのかな……。


『逆ですよ。昔は出来たんです、それ』


 にゃんだって


『十年前くらい前までは、妊娠した子供の性別を自由に選べたんです。でも生まれてくる子供は人的に性別を操作された状態ですから……当然、心と体の不一致という現象が多発したんです』


 な、なんでそんな事に……ナノマシンなら脳の構造も弄れるって……。


『弄れるだけですよ。人間の脳の解析だって……ぶっちゃけた話、まだ半分も済んでない状態なんです。そのうえ、心なんていう意味ワカメな物まで完全に操作できる筈ないじゃないですか』


 にゃるほど……


『つまり、私の中では梢さんが凄い噓の上手い人間って解釈なんですが……言っときますけど私達に噓は通用しませんからね。心拍や脳の電気信号で丸わかりですから』


 いや、それなら俺の言ってる事信じてくれてもいいんじゃ!


『信じれるワケないじゃないですか、そんな話……そもそも、妊娠した……お母さんに誤って男性用のナノマシンを注入しちゃったんですよね?』


 うむ、そう聞いた。


『妊娠した女性用のナノマシンは確かに存在します。妊婦の体調管理に特化した物ですが……』


 なんだ、ちゃんとあるじゃないか。


『まだ分からないんですか? 妊婦用ですよ。男性用なんてあるわけないじゃないですか』


 ……ぁっ


『そのナノマシンを申請する書類に、そもそも性別を選ぶ蘭なんて無いですよ。百歩譲って梢さんが真実を言ってるとしても、お父さんは確実に噓ついてます』


 む、むむぅ……


『それに……梢さん、二卵双生児ですよね。ちゃんと体に情報残ってますよ』


 ん? え、なにそれ。


『なにそれって……だから、梢さん双子ですよね?』


 いや、違うぞ。俺は一人っ子だし……兄弟なんて居ない。


『……噓じゃないんですね……と言うことは……』


 両親は……いや、下手したら美奈や正宗も……俺に何か隠してるのか……?


『……梢さん……この小説……コメディに分類されてるのに……なんか怪しい雰囲気ですよ!』


 にゃ、にゃんてこった!


「あー、ちょっと話の腰折って申し訳ないけど……」


 そこに生徒会長が入ってくる。今まで黙って聞いてたのか……。


「ラスティナちゃん、戸城さんが女性化したのは本当だよ。高校のローカルネットに繋がって貰えれば分かると思うけど……大学病院にもデータ残ってるし……」


 おおぅ、そうだ。病院で全身くまなく調べられたんだ。

 それを見ればラスティナも信じて……


 数秒後……


『うわっ、ほんとだ。ないわー』


 信じたのか!? 信じてないのか?!


『信じるしかないみたいですね……梢さんの中にあるナノマシンも調べ上げてますね……ん?』


 ん?


『データーの改ざんした跡があります……もしかして病院側も……隠したい物があるのかも……』


 だから! これコメディだから! 面白おかしくしてくれ!


【注意:ごめんなさい】




 その後、渋々俺が女体化した事実を信じてくれたラスティナ。

 しかし原因は全く分からないと首を傾げていた。


『病院のサーバーに侵入してみれば……バレたら、もれなく梢さんも逮捕ですけど……』


 や、やめていただきたい!


『まあ、ご両親に聞くのが一番じゃないですか?』


 そうなんだけども……。

 なんか聞きずらいな……そもそも隠してるって事は……俺にとって……


『限りなく残酷な話になるかもしれませんね。このまま普通に過ごしてた方が幸せかもしれませんよ』


 でも……気になるでござる……。


 そうこうしている内に、時刻は既に午後八時。うぅ、腹へった……。


「学食に行こうか……って、流石にバスローブじゃ無理だな……。今は部活から帰って来た男子で溢れかえってるだろうし……」


 むむ、そんな時間帯なのか。


「僕が何か取ってこよう。何がいい? 大抵のメニューは揃ってるよ」


 ふむぅ、俺はビーフシチューが好きだ。


「分かった。少し待っててくれ……」


 と、その時インターホンが鳴る。ン? だれじゃ?


『千尋、俺だ。話がある。入れてくれ』


 こ、この声は……副会長!

 まずい! 生徒会長の部屋に俺が居ると分かったら面倒な事に!


「いいぞ、入って来い」


 って、うおぉい! 入れるんかい! 不味いだろ!


「心配ない。命の危機を感じれば……司も言う事聞いてくれる」


 命の危機って……何する気?!


『あぁ、なるほど……この副会長って言う人……見事なまでに鼻血垂らしながら学校生活送ってるんですね』


 なんかラスティナ……学校の監視カメラの映像見てる。

 うわっ……階段下で鼻血垂らしてるとか……人間性疑われてもおかしくないぞ、コレ。


 その時、ドアを開ける音。同時にこちらに足音が近づいてくる。

 不味い! 来た! どうすれば!


『梢さん梢さん』


 つんつんしてくるラスティナ。

 な、なんだ、何か妙案が!?


『いえ、胸元にゴキブリ居ますよ』


 な、なにぃ! ひぃ! Gはダメだ! 

 バスローブを開いて胸元を確認……って、別に何も居ないが……。


「なっ……こ、これは……」


 ん? って、ぁ! 副会長が目の前に……

 ってギャー! 思いっきり胸だしてるやん! 俺!


 急いで胸元を隠すが遅い。

 再び大量の鼻血を垂らして倒れる副会長。


 よく今まで生き残ってこれたな……。


「じゃあ戸城さん。司をよろしく。死なない程度に看病してあげてくれ」


 健闘を祈る。と部屋から出ていく会長……。

 おい、ちょっと待て……俺が看病するのか!? この格好で?!


『とりあえず……何か着る物ないんですか? ジャージとか……』


 あ、そ、そうだ! 生徒会長の物を借りよう! あとで洗って返せばいいだろ!

 クローゼットを開き、ジャージらしき物を発見。

 下着は無い……仕方ない……ノーパンでズボン履くしか……。


『大胆ですね……』


 仕方ないでしょ!

 そのまま上着も着て……って、胸元きつい……ファスナー上まで上がらねえ……。


『ナイス谷間です。流石、元男だけあって分かってますね!』


 そんなつもりじゃないわ!


「う、うーん……」


 ぁっ、目を覚ましてしまう! どうしよう……とりあえずティシュで鼻塞いだほうが良いのかな……。


『逆効果ですよ、軽く頭を上げさせて……そうですね、膝枕でいいんじゃないですか?』


 んな事したら余計に逆効果だろ! 枕ないのか!?


『無いですね……。あの生徒会長……枕無しで寝てるんでしょうか……』


 なんて奴だ! 計画的犯行としか思えない……。


『ほら、早くしないと適格な応急処置が出来ません。じゃないとホントに鼻血多量で死んじゃいますよ』


 そ、そんな……鼻血出過ぎで死ぬなんて事有りえるのか?


【注意:有り得ない事も無いですが、止まらない鼻血は危険です。すぐに医師へ相談しましょう】


 っく、ここで死なれたら大問題だ、下手したら捕まる……かもしれん。

 大人しくラスティナの指示に従うか……えっと、膝枕して……


 うっ、男に膝枕なんて……俺が女の子に膝枕されてぇ……


『あとでしてあげましょうか? 私実際には体ないんで感触だけですけど』


 是非お願いします……。


「んっ……うぅ……」


 あ、目覚ました。メガネも取ってやるか。見えない方が鼻血出にくいだろ。


『残念! この人の健康診断結果によると……両目とも2,0です。伊達メガネですね』


 なんでやねん! まぎわらしい!


「うっ……君は……戸城君……いや、さんか……」


 う、うむ、戸城さんです……。


「なんて物を見せてくれるんだ……死んでしまう所だったぞ」


「す、すみません、事故です……」


 ラスティナのせいだが……。

 おのれ、このロリめ……。


「すまんが……戸城さん、ティッシュを取ってくれ……」


 あぁ、そうだった……どこだ、ティッシュ……むむ、微妙に遠いな……。

 っく、手が届かん……もう少し……。


『うわっ、梢さん大胆……』


 あ? 何がだ……って、なんか胸が暖かい……。

 ひ、ひぃ! 胸に赤い血がベットリと!


『ティッシュ取るフリして……胸を顔に押し付けるなんて……王道ですね!』


 ビシっと親指立ててくるラスティナ。

 ま、まて、流石に不味い! この出血量は……!


『仕方ないですね……梢さん、この方のナノマシンに接続します。一度離れますね』


 あ、はぃ! お願いします!


 その後、フっとラスティナが消える……。

 副会長は穏やかな顔をして寝ながら鼻血を流していた。

 だが段々と勢いが止まってくる……。


 っていうか気が付いたら生徒会長のジャージも血まみれなんですが……ベットも……。


 ん? ラスティナ戻ってきたかな……目の前に再び


「Do you connect to a nanomachine?」 


 の文字が。


「いえす!」


 そして今度は普通のドアから出て来るラスティナ。

 なんかドラ○もんみたいだな……。


『2180年になっても健在とは……素晴らしいですね、ドラ○もん』


 うむ。そして副会長の体調も落ち着いてきたようだ。

 顔色も良くなってきている。


『もう大丈夫でしょ。それより梢さん、もっかいシャワーでも浴びたほうが……血がベットリですよ』


 う、うーん、そうなんだけど……風呂には今入れんしな……部活を終えた男子が帰ってきてるらしいし……。


『別にいいじゃないですか。むしろ女子風呂に入るほうが問題ですよ。梢さん元男なんだから』


 あー、そういわれれば……そうかもしれんけど……。

 副会長の件を考えると……


『まあ、生徒会長が帰ってきたら何とかしてもらいましょう。ベットも殺人事件並みに血まみれですし……』


 た、たしかに……そのまま、そっと膝から副会長の頭を下ろして自分の身を確認。

 うぅ、やばい……ズボンの中もなんかベトベトする……。


『あの日みたいですね』


 あ? あの日って……こんな惨劇が過去にも……!?


『違いますよ……女の子の日の事です』


 なんですか、それ

 そんな祝日あったっけ?


『あぁ、もう……もういいです、このロリコン』


 酷い! ラスティナ酷い!


 うぅ、早く洗い流したい……この鼻血……。


 その時、生徒会長が戻ってきた。

 むむ、ビーフシチューの匂いがする……っ


「お待たせ……って……想像以上の事になってるな……司生きてるか?」


 生きてます……一応……。

 それより俺の胸と下半身に血がベットリ着いて気持ち悪い!


「あ、あー……すまん、今は風呂無理だ……。下の階になら個室のシャワー室があるんだが……そっちも今は不味いだろうし……」


 うぅ、我慢するしかないか……。

 とりあえず、ご飯食べる……と、生徒会長からビーフシチューとサラダが乗ったトレーを受け取る。


 ふぉぉ、おいしそう……。学食贅沢だな……。


「俺はあっちの部屋に居るから。なんだったらジャージ脱いでくれ。気持ち悪いだろ」


 う、確かに……しかし全裸で食べるっていうのも……。


『私が仮想的に服を着せましょう。実際に暖かいですし、この部屋の温度なら風邪を引く事も無いでしょうし』


 むむ、確かに……熱いくらいだしな……ってー! ここで脱いで副会長が目を覚ましたら二の舞だ!


 と、それに気づいた生徒会長が副会長を担いで隣の部屋に……。


 うむぅ、これなら大丈夫か……。


 そのままジャージを脱いで……一応畳んどくか……血まみれだけど……。


『じゃあパジャマ的なのでいいですね。見た目には服着てますけど……実際には全裸なので注意してください。部屋の外には出ちゃダメですよ。高校男児の目には毒です』


 わかってるともさ!


 そのままパジャマ的なのを着せられる俺。

 これでヨシっと……お、なんかホントに服着てるみたいだ。

 ちゃんと感触もある……。


『ナノマシンで触感も再現してるんです。血流も操作してるんで、実際に暖かさも感じる筈ですよ』


 ふむ、でも俺以外には全裸に見えるって事か。

 うわぁ、生徒会長の部屋で全裸とか……誰かに見つかったら大問題に……。


「いきなり失礼しまーす! かいちょー! あーそーぼ……って……」


 その時、女子生徒がいきなり男子寮の生徒会長の部屋に……


 って、えぇ! ちょ、待て! なんで?! 女子禁制だろ! ここ!


「き、君……な、なにしてるのさー!」


 ひぃい! なにもしてません! ごめんなさい!





 同日 午後九時


 会長のコート一枚を着せられ、生徒会長の部屋で正座する俺。同じように、生徒会長と副会長も俺の両隣で正座していた。

 その状態で女生徒の説教を三十分近く聞いている。どうでもいいが……まだご飯食べてない……。


 今目の前で説教をしている女生徒は、生徒会書記。

 なぜに女子禁制の男子寮に居るのかというと、たまにIDを解除して忍び込んでくるそうだ。


 そのたまにが……何故に今日、この時なんだ!


「ちょっと、聞いてる!?」


 は、はい! 聞いてます!


 会長も副会長もコクコク頷きながら耐えていた。

 そろそろ俺の脚が痺れてヤバイが……。

 うぅ、普段正座なんてしないから……。


「歩……そろそろ……こっちの事情も聞いてくれ……」


 説教を受け続けていた生徒会長は、ここに至るまでの事情を説明する。

 俺が女子に噴水に突き落とされた事から始まり……元々男子だった俺を女子寮に泊まらせるのも不味いと思ったと説明。


「……というわけだ。ちなみに副会長は完全な事故で巻き込まれただけだ。この事は俺の独断で、戸城さんにも非は無い……」


「で?」


 で……って……ひぃ、厳しい……!


「なんで戸城さん……女子寮に入れちゃダメなの?! もう女子として扱うって学校側でも決まったじゃない! あんたらが勝手に変な目で見てただけでしょうが!」


 ぐうの音も出ない会長。その通りですと頭を下げる……。

 いや、しかし……それについては俺にも意見が! 女子寮はムリでござるよ!


「おだまり。君に発言権は今無いから」


 は、はい……。


「歩、そんな言い方……」


「あ?」


 ギロっと会長を睨む女子生徒……。この子……書記なのに会長より偉いんじゃ……。


「じゃあ連れてくから。文句は無いわね」


 え、え! 連れてくって……もしかして女子寮に? む、むり! むりでござる!


「ダメ! 女子高生が男の部屋に泊まるには段階が必要なのよ!」


 な、なんすか! 段階って!

 そのまま腕を掴まれ引きずられるように連行される俺。


 会長と副会長は正座しながら手を振っていた。


 うぅ、俺も脚痺れて……抵抗できぬ……。



 男子寮の校舎群を挟んで反対側に女子寮はある。

 マンモス高校の為かなり遠い……。うぅ、夜にコート一枚は寒い……。


「まずはお風呂ね。ごめんね、バカな会長で」


 いや、悪いのは俺だし……っていうか風呂って! 他の女子も居るんじゃ!


「平気だよ、生徒会専用の浴場なら……君を噴水に突き落としたような女子は居ないから。居たら速攻で生徒会から追い出してやるわ……」


 ボキボキっと手を鳴らす書記……そういえば……名前は歩だったか……。


「あぁ、名前まだ言ってなかったっけ。私は淡鳥 歩たんどり あゆむ。歩でいいわ。君は戸城 梢さんだよね」


 そ、そうっす……。


「凄い震えてるわね……大丈夫よ、私こう見えて柔道部の主将だから! 文句言う奴は投げ飛ばすわ!」


 ガシっと肩を掴みながら言い放つ歩さん。いや、その辺の女子より貴方の方が怖いッス……。

 そのまま女子寮に到着……男子寮より少し古い感じがするな……あぁ、元は女子高だったな、ここ。

 男子の施設は新しく作ったからって……花京院 雫が言ってたっけ。


「こっちよ。男子寮ほど豪華じゃないけど……」


 ふむぅ……って……同じくホテルみたいな作り……エレベーターで上がった先の生徒会専用フロアは男子寮と同じく大理石模様、床には赤い絨毯が敷かれていた。

 十分豪華じゃないっすか……。

 むむ、なんかキャッキャっと声がする……。


「ん……今、お風呂女子結構入ってるな……まあ、大丈夫だよね」


 い、いや! 大丈夫じゃないっす! もう俺お風呂いいっす!


「ダメよ。副会長の血まみれで寝るなんて神が許しても私が許さないわ」


 再び引きずられ脱衣場に……うぅ、目あけられぬ!


「大丈夫よ、誰も居ないから……っていうか別にいいじゃない。同じ女子なんだし」


 そ、そんな事言われても……


「あはは、顔真っ赤にして……可愛いじゃんーっ」


 か、からかわないで頂きたい!

 うぅ、そういえばラスティナは何処に……。


『ここに居ますよ』


 と、歩さんの背中に抱き付いているAI。

 何してんだ! 変に思われるだろ!


『大丈夫ですよ。この人のナノマシンとは接続してませんから。私は幽霊みたいな物です。それと……私達に対してAIっていうのは差別用語ですから。控えて頂きたい!』


 うっ、す、すいません……でも何で……?


『勉強不足ですよ、後で話します。それより……いいんですか? 歩さんも制服脱ぎ始めてますけど』


 ってー! マジだ! う、うわ! なんでそんな脱ぐの!?


「なんでって……お風呂入るから……ほら、君もコート脱いだ脱いだ」


 あぁ、うぅ、コートを剥がされ全裸に。

 ダメだ……もうお嫁に行けぬ……。

 そのまましゃがみこんでしまう俺。


「あのねぇ……君のそういう態度が女子の勘に触るって気づかない?」


 え、ど、どういう事……。


「君、ただでさえ可愛いしスタイルもいいし……そんな女の子が……きゃー、恥ずかしいーっ なんて……男に媚びてるようにしか見えないでしょ」


 そ、そうなのか?


『そうですね、女性は同性のそういう態度に腹立ちますから』


【注意:個人差あります。たぶん】


 む、むぅ、ならばどうしろと……!


「どうするも、こうするも……堂々としてればいいの。大股でズンズン歩けとは言わないけど……せめて、もう少しシャキっとしなさい」


 うぅ、まるで美奈に叱られてるようだ……っく、立ち上がるんだ! 俺……堂々と……歩さんの正面に……


 ってー! 既に歩さんも裸やん! うぅ、思わず顔塞いでしまう……っ


「まあ急には無理か……。でもお風呂の中に入ったら女子は当然全裸だよ?」


 う、うぅ……こうなったら……


「め、めかくし……してくださいっ……歩さんの……言ってる事は理解出来ますけど……お、おれ……やっぱり罪悪感が凄くて……まだ心は男のままなんす!」


 必死に訴える。

 歩さんも心は男と聞いて……


「仕方ないか……分かった。でも覚悟してね」


 え、な、なに? 覚悟って……

 そのままタオルで目隠しされ、歩さんに手を引かれて女子風呂に……うぅ、子供の頃に美奈と一緒に……銭湯の女風呂に入って以来だ……あの頃は子供だったから良かったけど……。


 浴室に入ると暖かい空気と湿気を肌に感じる。

 それと同時に……


「ぁ、ぁー! 噂の戸城さんだ!」


「え? ぁ、ほんとだ! 戸城さんー! って、胸でかっ」


「お、おぉう……ここまでとは……しかも可愛い……ん? なんで目隠ししてるの?」


 うぅ! 周りに女子が寄ってくる!

 まて、落ちつけ! 俺も女子だ! 


「はいはい、皆聞いて。アホ女の嫉妬心で噴水に突き落とされたらしいんだけど……戸城さん」


 と、歩さんの発言の直後、周りから明らかな殺気が……。


「あ? 誰よそいつ」


「なにそれ。私達に喧嘩うってんの?」


「いい度胸してるじゃん……生徒会のメンバーになにさらしてんのよ」


 い、いつのまにか生徒会のメンバーにされてる……。いや、それよりも……めっちゃ怖いんすけど……。

 そのまま歩さんは続ける。


「それでね、戸城さんも元男ながらに色々考えて行動してるわけよ。にも関わらず、その努力も知らずに暴言吐きまくる女が居て……戸城さん、ちょっと人間不信になりつつあるんだよね」


 え?! い、いや、そこまでは……


「か、可哀想……大丈夫だよ? 私達は味方だよ?」


「そうよ! この学校の女子全員がそいつみたいな女だって思わないで!」


「ぁ、それで目隠ししてるんだ……女子なんて信用できないから見たくもないって……そ、そこまで追いつめるなんて……酷い!」


 いや、ち、ちがうでござるよ!?

 弁解しようとする俺のお尻を抓る歩さん……え、黙ってろって事?


「だから皆、これから戸城さんに……女の子のあれやこれやを教えてあげよう! とりあえず今日は歓迎会だ!」


 おー! と張り切りだす女子……。

 やばい、命の危険を感じる。


「とりあえずぅ……身体検査といきますか……」


 げへへ……と不気味な声を発する歩サン……。


 その後、全身くまなく洗われ……ゆっくり過ぎるほど女子トークの中でお風呂に浸かる俺……。


 今日は……色んな意味で疲れた……。


 でも、なんだか少し安心した。


 光や花京院 雫以外の女子全員が……俺の敵じゃなかったから……。






 

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