くせ

スライム達の後ろに、黒い何かが現れた。ブラックホールだ。面倒なら全て吸い込んでしまえばいいのだと思ったのだ。…経験が活きたかもしれない。

それはどんどんスライムたちを吸い込んでいく。どろっとした液体が散らばりつつ、どんどん掃除機みたいに。風が多少強いかな、と思うくらいで、私自身は吸い込まれそうにはならない。


「わあ!お姉ちゃんすごいすご〜い!」

「意外とやるな」


2人に褒められた。2人はもう手を止めて、そのブラックホールをただ見ているだけだ。…なんか嬉しいな。


「へえ〜!リサって使えるやつだったんだ〜!」


ドラゴンの羽を握りしめておいた。


辺り一帯のスライムたちを吸い込み終わると、ブラックホールは消えた。

風もなくなり、静かになった。


「お前、無属性魔法が使えるのか」

「なんですかそれ」

「呪文書の最初の2ページくらい読んでおけよ…、魔法についての基礎が書いてあるだろ、たぶん」


ユカとザカリーはやった〜!と手をつないでクルクルと回っている。

リュカは慣れない魔法なのか、少し汗をかいていた。呪文書、そういえば一度も目を通してないな。たしかに注意書きとかは読むべきだったかも、と最初の方のページを出すと、目に入る文字は。


『魔法とは。ひゃくぶんはいっけんにしかず。以上!体感して学んでね♡』


「……だそうですけど」

「これカリンが書いたんだったな………」


リュカは頭を振った。


「一応これベストセラーみたいですけど」

「出版してるのか!?読んだやつがかわいそうだ…」


それはごもっともで。だけど魔王を倒した魔法使いの書いた本なんて、どんな本でも売れそうだ。


「仕方ない…少し説明する。おい、そこのバカとザカリー」

「なになにー?!なんの話ー?」



2人が寄ってくると、リュカは心底丁寧に魔法について話してくれた。


「魔法っていうのは魔力が備わっている人間に使えるものだ。魔力は血液と同じようなもので、体を流れている。それを体外に出して使うんだ」

「ただ体外に出して使うんだったら、火とかが出る仕組みがわからないんですけど」

「そうだな。魔力には特性が備わっている。火、水、木、土、氷、雷、風…基本的に魔力を持っていれば、どの特性でも使える。ただ1つだけ飛び抜けて特性が強いものがある。その魔法が1番うまく使えるんだ。それは人それぞれ違う。たとえば俺は雷の特性が強いが、訓練で他の特性もある程度使えるようになった」

「つまり得意不得意があるってことですね」

「そういうことだ」

「つまりーーー!?!?」


バカにはまだ早かったようだ………。鼻で笑うと、頭突きされた。角が痛い。


「つまり私は、氷の特性が強い……、ってお兄さんは思ったのね」


こんなに小さな女の子でさえ理解できてるというのに…。


「そうだ。だが、火を出しているところを見ると……」

「2つの特性が強い、ってことですか」

「稀にそういう人間もいるが、大抵使いこなせずに終わってしまう。しかもこの歳では1つの特性しか強くならない…はずなんだが」


ザカリーはニコニコ笑っていて、リュカはなぜだろう、と考え込んでいる。


「で、無属性ってなんですか」

「ああ、さっき説明した特性以外のものが強いと無属性と呼んでいる。明確にどれ、とは言えないが……、これは使えるやつはごく稀なんだ。カリンも使えたが、カリン以外には俺も1人しか使えるやつを知らない」


なんて曖昧な。とりあえず進もうと促すと、リュカは考えつつ、相変わらずユカとザカリーは遠足気分で歩き出した。

ところであの大量のスライム、なんだったんだ。

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