第7話 因縁の激突

「―来ましたね。」


「ああ。」


メッセージには【訓練室に来てください】とだけ書いてあったが・・・・

なんだか殺伐とした雰囲気だ。


「せ、せんぱーい・・・俺ぇ、戻ってもいいすかね・・・?」


「星宙。」

「ハ、ハイ!」


エリックを引き止める稲志田。その感じは訓練兵と教官のようだった。


「いいから見届けろ。これはだ。」

「は、はい・・・」


押されてるな、エリックのやつ。


「・・・それじゃ、始めようか。」

「ええ、この時を待ちわびた。」


稲志田奈々。彼女とは今まで、良くも悪くもない関係性を持ち続けてきた。

それも、今日で終わり。

何故なら・・・・


「(*・ω・)/よおーお前ら何やってんだー?」


(#^ω^)このタイミングで来るなよKY社長・・・・!


「ええ~!いいじゃない!わたしがどのタイミングでこようともわたしの自由じゃない!」


てめえは自由フリーダムすぎんだよ!どうせこれもテレパシーで読んでんだろ!?


「Exactly《その通り》!ちなみにエリックはわたしが来たことで安心している。稲志田は・・・・」


稲志田奈々の心中→ニブニブニブニブニブニブニブ・・・・・・


「―ガチギレみたいだね・・・・・・^^;」


稲志田・壱原両者の心中→《当たり前だ!!》


「ていうかお前ら仲良いなぁ・・・よし!わたしは視聴室モニタールームで観戦するとしよう!後は野となれ山となれだ!」


・・・コイツ、事を映画鑑賞レベルで見てないか?


最悪の野次馬が退場して数十秒、稲志田が口を開く。


「・・・失礼しました。これで邪魔者はいませんね。」

「そうだな。」


緊迫した空気が再び訪れる。


「始めよう。」

「ええ。」


そして、エアモニターに写るパネルに、オレ達は完了の合図を出した。


【これより、戦闘シミュレーションを開始します。使用者以外の方々は、訓練室より退室してください。繰り返します。これより、戦闘シミュレーションを開始します。使用者以外の方々は、訓練室より退室してください。】


「・・・・行くぞ。」


その瞬間。力が少し抜けていく感覚が。


「!?」

開始のブザーがなったのは、この直後だ。


「ハアッ!」

容赦なく、オレに牽制を掛ける稲志田。

「くっ・・・」

攻撃をややいなしつつ、この違和感の正体を探ることにした。





「琉輝先輩・・・大丈夫ですかね・・・・?」

モニタールームでのんびりしつつも、エリックは不安を覚えていた。

「・・・まあ、大丈夫でしょ。」

わたしが何とか諭しつつ、リュウの『対話』を楽しませてもらうことにした。

「アイツはそんなタマじゃない。わたしが何よりも知っているからな。」




―おかしい。


「テヤァ!」


物事では、何よりも大事なのは呼吸だ。一拍一拍置いて、相手を伺うのが常だ。


「セイッ!」


稲志田はそんなことお構いなしに追い詰める。

―まるでオレにように。


「ハアッ・・・ハアッ・・・・」


次第に息が上がってきた。


「どうした?一旦休むか?」

「黙れッ・・・!お前に心配される義理はない・・・ッ!」


そして激昂したかのように、一心不乱に格闘技を叩き込む。


「・・・ッ!」

その内こちらの体力も奪われる。執拗に追い掛けるのを撒くように。


「―なんでオレなんかに執着するんだ?初対面であれはないだろう。」

さりげなく、オレは配属初日のことを蒸し返す。


「お前は・・・・私の顔に泥を塗った・・・ッ!」

「そういやあ泥パックって美容にいいらしいな。今度オレも試してみるか。」

「ふざけるな!忘れるものか・・・ッ!あの日の屈辱を!!」

「あの日・・・?」

「そうだッ!4年前、ここの試験の日、お前に拘束されたあの時を!」


4年前・・・拘束・・・・・!?


*  *  *  *  *


「これより実技試験を行う。内容はお互いが異能犯罪者モンスターと仮定し、1対1の試合を行うこと!」


会場にどよめきが走る。実践的な訓練なんて、ほとんど想定していないだろう。


「それでは、成績優秀者の2人、前へ!」


私はフィールドに立つ。

対戦相手は筆記試験1位の男。


いかにも悪人顔だけど・・・うぅ・・・勝てるかなぁ・・・・

いや、気を強く持て、稲志田奈々!ここで実力を見せておかなければ!


「お互い、挨拶を。」


「よろしくお願いいたします。」

「・・・よろしくお願いします。」


「それでは、よおい・・・・・」


始まる・・・・・!


「―――――始め!」


「―――!?」


声が聞こえた。

そう思った時、私は手も足も縛られ、宙に逆さまの状態で浮かんでいた。


「・・・戦闘不能。でいいですよね?」


「そ・・・そこまで!!試験終了!」


あっけなく終わった。

見せ場なく終わってしまった。


これは、だれの目から見ても恥ずべきことだ。

何も出来なかった。

それだけで、私はあの男への執心を抱いた。


今度会った時、同じ目に合わせる為に。


*  *  *  *  *



「まさか・・・・あの女か!?」


オレが実技試験で完封した少女。あれが稲志田だったのか・・・!


「いや、あの時は本当にすまなかった!オレはあの時、怒りでまともな思考ができな・・・」

「それがか!言い訳など聞かない!ここで死ね!」


そして、隠された本性を露わにした。


「ガッ!ああっ・・・・」


コンクリートから糸のようなものが出た。

それは意思を持っているかのように、的確にオレの喉元を抑えにきた。


「これが・・・・お前の・・・・能力スキル・・・か・・・?」

「そうだ!これが我が繊維化ファイバーフォーゼだ!」

「さしずめ、さっきのは・・エネミー因子抑制の・・・テンプル石素材の手錠を・・・・予めオレに巻き付けた・・・・違うか?」


「・・・流石だな。」


繊維化ファイバーフォーゼ。恐らくだが、触れたものを繊維・・・細い紐のようにして操る能力スキルと仮定しよう。なら先ほどの間に、オレの手錠と壁に触っていたのだろう・・・・

そこまでの執念だったとはな・・・・


「こ・・・・降参だ・・・・・」


あまりにも用意周到、執念の凄さ。

オレは致し方無く、降参を宣言した。


「・・・・・・・・」


そして何を思ったのか、稲志田はあっさりとオレを放した。


【戦闘シミュレーションを終了します。お疲れ様でした。】


「せんぱーい!」「リュウ!」

エリックと覚吏さとりが駆け寄る。

「先輩、けが、大丈夫すか!?」

「リュウ!お前はよく頑張ったよ!わたしも稲志田のことよく分かんなかったからびっくりしたぞ!」

「「さりげなくヒドイこと言ってない/ません か?」」


「やっぱりお前ら仲いいんじゃないか。」

「こ・・・これは・・・・!?」

「狼狽えなくてもいーのよ。ほらほら、何か言ってやれ。」

覚吏さとりが稲志田にそう促すと、稲志田はこちらに向かってきた。

「・・・次は私に勝て。」

「・・・?」


言っている意味が分からなかった。


「私はお前・・・ううん。あなたに卑怯なやり方で勝ってしまった。これじゃあ、対等とは言えないよね。」

「稲志田・・・・」

「だからね。こ・・・これからも宜しくお願い致しましゅ!」


エ(あっ、嚙んだ。)

壱(嚙んだな。)


「ふ・・・ふあああ・・・こ、こんなところで嚙むなんて・・・私はもう合わせる顔がないよぉ・・・」


か・・・・かわいい。


「大丈夫かー・・・稲志田~。なんかキャラ違い過ぎて萌えたんだが・・・」

「ふああああ・・・・////自分でもやり過ぎちゃったなぁとか思って、せめて仲直りするときは普通の私でいようって思ったけど、こんな醜態をさらした以上生きてなんかいられません!ああ、お母さま・・・早逝してしまう愛娘をお許しください・・・!」

「待て待て待て!!オレを締めた繊維で自殺しようとするな!!締め付けるならオレを抱きしめればいいじゃないか!」

「ふええ・・・いいんですか?」

「死なれちゃあ困る!何かあればオレにドーンとこい!」

「うぅ・・・・うええええええええん!!!りゅ~きくぅぅぅん!!!!」

「ああ意外と力強いちょ、ちょちょちょちょい、加減加減加減!!」


「!?!?!?・・・・・・リュウ・・・・お前わたしというものがありながらなぁ~んで稲志田に萌え萌えキューン!ってしてるんだ!」

「い、いやあ仕方ないだろ!てめえみたいに謙虚さのかけらもないよりかは、こっちのほうが100倍いいだろ!///」

「なんだよ!謙虚さのかけらもないって!さてはそういうのが好きか!そういうのがタイプか!見損なったよ!このロリコンめ!」

「風評被害だ!」



「ふ・・・二人共やめてよお・・・わたしなんかで言い争わないでぇ・・・」

あーもう無理。萌え死ぬわ。なんでかオレ、こういうのドストライクなんだわ。


そしてそのまま、尊さの余り鼻血を出して倒れた。

「ああ・・・・どうなっているのかなぁ・・・オレは・・・・」


バタン!


「せ、せんぱーい!!!!!」

衛生兵メディカル衛生兵メディカーーーール!!!!!」

「りゅ、琉輝くーーーーん!!!」

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